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素晴らしい学校生活を送りたくて!異能で友達って増えます?  作者: てりぃ
第14章 巡らされる策略…そして思惑
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14-4 最強ペア②

 林さんが異能を使用し始めて20分程経過したところで、俺はチラリとブレスレットに目を落とす。パルス計測を目的としたブレスレットはお洒落を度外視した見た目で、デジタル画面が付いており、時計の機能も備わっているのだ。

 とりあえずそれは横に置く。試験日前に俺達の中で体力消費を考えて、1度の異能の使用上限は20分という事を決めていた。なので俺が(はやし)さんの眼前で手を振り、合図を送る。それに合わせて林さんは異能を解除したのか、自分の足で体重を支え始める。

 支えている間は、永遠と林さんから甘酸っぱい心地の良い匂いが漂ってきて、俺の鼻腔をくすぐり続けていた。俺はその事で心を確実に乱されていたので、その時だけでも俺の嗅覚を代償として欲しかった。

 そんな俺の事情は横に置いておいて、林さんの状態を確認する。パルス計測をしているブレスレットには心拍数の急激な上昇を表す「エクスクラメーションマーク」が太字で映し出されていた。

 この炎天下の中、20分間程異能を使用していたので、それは当然の事だった。林さんは肩を激しく上下させ、体を震わせながらも必死に呼吸を整えようとしていた。然程辛そうには見えなかったが、今後の為に俺は一旦休憩を挟む事にする。

 先程まで俺達は様々なペアを監視してきた。俺が見えていた訳では無かったが、林さんによる口頭での説明だった。触覚を失った状態でのまともな会話は初めてだったらしく、時折聞き取れない事もあったが、唇の動きや、話の流れなどで、大体の内容は掴めていた。

 とりあえず俺は汗ばみ、震えている林さんの手をしっかりと握ったまま、高度をゆっくりと下げる。南棟付近の市街地エリアの屋上に俺達は足をつける。ここまでの移動を見られたとは思っていないが、一応警戒しつつ、屋上にある扉を開き、屋内に入る。

 その移動中にでさえ、先程の林さんの報告を頭の中で再生させる。全体の状況が分からないのは支障をきたすからだ。それに報告の中で俺が警戒していた人物の名が出なかった事に焦りを覚える。恐らくその人物は既に行動に移しているからこそ、俺達の索敵に引っかかる事はなかった。俺は焦りを覚えて、拳をギュッと固める。

 俺が警戒しているその人物は南棟付近でのスタートのはずだったのだが、どうやら俺達から遠ざかる様に移動している?みたいだ。

 そんな事を考えつつ、小休憩を挟んでいる俺達の耳に少し遠く離れた場所から、スピーカーで拡大された声が聞こえてくる。その声は(たいら)先生のものだった。そしてその告げられた内容は俺の焦りを加速させる事になる。


「グループ7。全滅。残りグループ数14。」

 そんな短い事務的なメッセージ。俺はそこで、直ぐ様動いた方が良いかを逡巡する。焦りのあまり余裕のあまりない俺を心配そうに見つめる林さんを見て、俺は「ハッ」とした後、落ち着きを取り戻す。

 とりあえず「大丈夫だよ。」と林さんに伝え、安心させる。まだこれが俺の警戒している人物によるものであると決まった訳でもない。決めつけるのは早計過ぎる上に、今回の試験では()()焦る必要はないはず。雲隠れする前に尻尾を掴みたかったが、俺としては正体を暴きたくないという気持ちも当然の様に存在した。

 正当な評価を受けつつもEクラスに在籍すると伝えられた、Eクラスのはぐれ者。実力があるのにEクラスでのスタート。それなら所持ポイントはどうなるのか?そんなイレギュラーが存在するなかで、正当な試験は行えるのか?この制度の存在する意味と俺の知らないところで画策していると思われるその人物は、今後の学校生活にどの影響を及ぼすのか不透明だ。

 俺はその可能性を排除、又は対策する事を目的の1つとして今回この試験に挑んでいる。

 そして一旦冷静になった結果、俺は動く事に決め、屋上へと歩みを進める。林さんは俺のただならぬ決意を感じたのか、黙って俺の背中に着いて来ていた。俺に振り回される未来を薄々勘付いていながらも黙ってついて来てくれる彼女に感謝をしつつ、俺は異能を使用した。

 一度屋上に放置していたガラスを一度粉々にして、炎天下の中放置された際に溜まった熱を逃す。一度手離した制御を取り戻し、先程と全く同じガラス板を形成する。破壊、形成にかけた時間は約1.5秒。林さんが感嘆する合間すら与える事なく、俺は足をガラス板に乗せる。


「新海君やっぱり、いえ、それは今()訊く事じゃないですよね。」

 俺は虚空を見詰める林さんの気使いに胸を痛めつつ、林さんの手を取る。俺はどれだけ皆に隠し事をすればいいのだろう。そう、俺は未だ迷っていた。南部(なんぶ)さんには一部分だけ素直に打ち明ける事が出来た。

 しかし皆が皆、南部さんの様な考え方をしている訳ではない。俺は確かに踏み出す勇気を貰った。それでもやはり俺には後一歩足りなかった。

 頭では分かっているが、行動に移せない。そんなもどかしさと隠し続けている事の後ろめたさによる罪悪感に苛まれながら、俺は足元のガラス板をゆっくりと上昇させた……。


―――――――――――――――――――――――――――

 

「やっぱり凄いなあの2人は。もはや別格と表した方が正しい無双振りだな。」

 俺はビルの屋上から身を乗り出し、眼下で行われている事に、素直に称賛を送っていた。俺達は高度50m程の空中を移動し、その途中で見かけた2人のペアを一定速度で追いかけていたのだ。


「いや、そんな事言うならあの神無月(かんなづき)君に一度は勝利している新海(しんかい)君も新海君ですよ?」

 呆れた様に俺を見詰め、的確に指摘してくる林さん。そんな言葉を聞いて俺は苦笑いを浮かべる。


「いや、勝利したわけではないけど、いや、まぁ似た様なもんか。」

「ね。そうでしょ?」

 俺は一度否定、言い訳に近い事をしようとしたが、結局自身で肯定した。林さんはそれが少し面白かったのか、ケラケラと小刻みに笑っていた。

 そんな心がほっこりしそうな温かい雰囲気に包まれている俺達の下では、相反する殺伐とした張り詰めた空気が流れていた。先程から行われていた12人の混戦も今では落ち着きを取り戻し、自身の足で立っている生徒は残り6人になっていた。2つに別れ、お互いが牽制し合う様な睨み合いの硬直。しかしその場は遠目から見ている俺からでさえ、明らかに夏威(かい)と南部さんのペアによって支配されている事は理解出来た。

 力無き倒れ伏している人山の中に、Eクラスの生徒、中山(なかやま)稲田(いなだ)の姿が。巨乳派と貧乳派の異色の組み合わせでもないが、そのコンビは夏威のペアの手によって倒されている。

 そんな2人の連携は見事なものだった。この2週間で完全に息を合わせ、仕上げて来た様だ。ペアでの繋がりを強固なものとし、グループでのパワーバランスを完璧に無視、いや、そもそも考慮しなくても1位を取れる程にその動きは、それはそれは見事なものに昇華していた。

 夏威の評価として、体術、格闘術はあまり突出しているとは言えない。しかしそれでも同学年では引けを取らない運動能力と圧倒的な戦闘のセンスをふんだんに使用して、それをカバーしている。俺の一種のけんかの際に見せた異能の制御の圧倒的精密さと集中力。それを持ってして、相手の呼吸を乱し、(恐らくだが)圧縮空気弾を放っての遠距離攻撃もお手の物の様に見えた。圧倒的な身体能力で相手を翻弄し、更に低空だが、空中移動も一度だけして見せた。俺はまさに感嘆の息を漏らし、その技量に魅せられていた。

 しかしそれを軽く凌駕する相方。それは圧倒的な存在感と力量で場を完璧に支配し、短時間でキルポイントを稼ぐという、この試験の女王とも呼べる存在。その名は南部ヒカリ。

 少し自身の脳内で反芻させるには少々恥ずかしい言い方だったが、それを聞いているのは1人?を除いて存在しないので、気にする事はなかった。

 そして再び戦闘が始まる。弾かれる様に駆け出した南部さんによって1人の男子生徒が強制的に体を固められる。それは南部さんの威圧に怯んだ訳ではなく、緊張のあまり動かなかった訳ではないのは直ぐに分かった。既に何度も見たその光景は、俺の脳内で直ぐ様異能を特定しようと目まぐるしく思考を巡らせる。

 ランプが明滅するかのように何度も男子生徒が硬直を繰り返す。硬直するのは一瞬のようだが、全く動かなくなる体が数瞬の間に何度も繰り返されれば、反撃の余地はない。

 しかし硬直していたのは1人だけ。恐らくグループだと思われる残りの3人は一斉に南部さんに躍りかかる。

 1人は真っ直ぐ南部さんの正面から突っ込むが、南部さんに手をかざされるだけで一度身動きが全く取れなくなる。その瞬間的な隙に間合いを詰め、頸部にためらう事なくスタンバトンによる電流を浴びせる。絶縁体チョカー(電流を流さないと言うより、避雷針に近い働き)に殆どの電流が吸われ、瞬間的に意識を刈り取るまでは至らなかった。

 そして気絶寸前、というより既に半分気絶している男子生徒は胸部に足蹴りを叩き込まれる。容赦のない追い討ちは白目を向いて完全に意識を失った生徒を後方に勢いよく吹き飛ばし、背後にいた先程まで硬直の明滅を繰り返し食らっていた生徒を巻き添えにする。呻き声を上げて吹き飛ばされながらその男子生徒は、女の子から放たれたとは思えない威力の蹴りに、何度目か分からない驚きを顔に表していた。

 しかし一方的に蹂躙する流れであっても、相手に何も反撃出来ずに終わる程甘くはなかった。蹴りを放った直後、その隙を伺っていたかの様な左右同時の挟撃。1人は異能使用の予備動作を既に見せており、1人は荒れ狂う勢いで飛び掛かる。必死の形相には深い執念が感じ取られ、負けてもいいから何か爪痕を残すと言う、戦略的ではない人間的な私情が混じっている気がした。

 しかしそれも虚しく夏威の見事なタイミングでのカバーによってその男子生徒は吹き飛ばされる。右手の大振りで、相手に拳が触れる直前に圧縮した空気を爆発させたのだろう。衝撃のタイミングを完璧に見切り、インパクトの威力を抑えて、空気の量を調節したのは、これが実践ではないからだろう。

 拳が直接触れた訳でもないのに、殴られたかの様にくの字型に吹き飛ぶ男子生徒。普通に殴られるより数倍威力の高い拳撃?に、腹を抑えて蹲る。

 そしてまともに動けるのは女子生徒だけになったところで、俺は咄嗟に林さんの目元を手で覆い、俺の胸元で守る様に抱きつく。俺が下の光景から目を背け、林さんの声にならない声が俺の耳に届いた直後、世界は光に包まれた。

 明らかに至近距離で喰らえば失明を避けられない程の光量。過剰攻撃(オーバーアタック)にみなされてもおかしくない異能使用は、結果的に過剰攻撃にみなされる事はなかった。

 恐らく皆が瞬く間に倒され、残りは自分だけ。その焦りと試験に対するプレッシャーがその子の異能を狂わせた。全方位ではなく、体の前面にのみ繰り出す指向性を持たせた制御能力と、屋上の俺達まで届く光量には素直に称賛を送るべきだが、それを本能的に察知し、対処して見せた2人にも称賛を送るべきだろう。俺が最後に見たのは回し蹴りを放とうとしていた南部さん。恐らく異能使用中でもお構いなく蹴り飛ばしたのだろう。床に倒れ伏した女子生徒に南部さんがスタンバトンでトドメを刺し、その戦いは終了した、と思うのも束の間。

 俺が見たのは夏威によって殴り飛ばされた男子生徒の最後の足掻き。道連れにしてやると言わんばかりの気迫で放たれた疑似音響弾は使用者の意識を刈り取るだけで、特に何も起こらなかった。

 ビルを利用した反射による音の合成によって鼓膜を破壊する程の大音声を作り出したはずなのだが、眼下の2人は何事もなかったかの様に立っている。異能は実際に使用された。失敗した訳でもない。屋上にいた俺達でさえ、耳をつんざく様な衝撃と音を拾っていた。思わず耳を抑える程の音を平気にやり過ごす方法は俺は直ぐに思いつく。

 そしてそれは夏威にとっては造作もない。それは周辺を真空にする事。波が伝わる事のない空間では音は無意味。ほぼ不意打ちからの一撃を完璧にシャットアウト。俺は何度目か分からない、数えるのもやめた感嘆を漏らした……。

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