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素晴らしい学校生活を送りたくて!異能で友達って増えます?  作者: てりぃ
第14章 巡らされる策略…そして思惑
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14-3 最強ペア①

 試験開始から既に10分程が経過していた。未だ全滅したグループの報告はない。リアルタイムで報告されるのは全滅したグループのみなので、俺の知らないところで交戦は始まっている頃合いだろう。

 俺達のグループはAとCクラスが開始直後に遊撃に出ており、ここには俺達の他にBとDクラスのペアがいた。

 スタート地点は廃墟ビル群だった為、今はビルの2階に息を潜めているのだ。戦闘拒否のラインを判断するのは試験官であり、明確な基準は設けられていない。それは恐らくルールの隙をついての逃走劇を回避する事と、皆に基本姿勢として、戦闘させる事を目的としたものなのだろう。

 そして俺はそろそろ頃合いだと判断して、窓の外への監視を中断して、(はやし)さんへと視線を向ける。


「林さん、そろそろ行くよ。」

「は、はい。」

 林さんはある程度の緊張をしつつも、しっかりとやる気を漲らせている様に見えた。今は体の不自然な硬直も見受けられないので、俺は残りの皆に声を掛けて今いるこのビル内を出る事にした。

 俺達に最も近いグループは、移動をしていなければグループ11と13だ。隣接するスタート地点なので、真っ先に迎えば衝突してもおかしくない距離にある。更にグループ13には、夏威(かい)南部(なんぶ)さんがいた事を既に確認済みだった。目を合わせる事はなかったが、北棟を出る際に、俺の背中にひしひしと視線を感じていた。

 俺はそれもあり、突撃してくる事を警戒してスタート地点で皆と一緒に待機していたのだが、その必要は既になさそうだった。恐らく俺を倒そうとするのは後。今は数を減らす事とキルポイントの確保、他クラスからの争奪が優先だろう。

 そこで俺と林さんは廃墟ビルの1階ではなく、階段で3階に向かい、更に4階へと。廃墟ビルと言っても訓練施設なので、今回は倒壊や抜け落ちの心配はない。確実に整備が行き届いた階段をコツコツと登る。それは西川(にしかわ)さんを含め、グループ内メンバーに「何故外に出るのに、上に登るの?」との疑問を抱かれてもおかしくない行動だった。

 しかし俺にとってはこれが正解だ。

 高所恐怖症ではない事を林さんに、今から行う事がルール違反ではない事を東條(とうじょう)に既に確認済みだ。

 そして俺は廃墟ビルの4階の窓を3枚拝借する。約90cm×90cmの窓ガラスなので、かなりの量を手にする事になる。殺戮を考えての量にしては少ないが、今回はこれで十分過ぎる程だ。

 ルールとしては、監視カメラの故意的破壊、建物外壁の破壊、内装部破壊やビル倒壊による、生徒の巻き込みが主に破壊行為の部類として禁止されている。俺が行った以外の事では、生えている木を折る事も認められているし、流れる川を蒸発または凍結させる事も認められている。

 なのでスタート地点が廃墟ビルに決まった瞬間に、俺は窓ガラスの確保に動く事にしていた。全て割られているか、そもそも存在しない事も考えたが、俺が知っている状態から何も変化はなかったので、計画に支障はなかった。

 俺は林さんにこの事は作戦として既に通達済みだったが、何故かつぶらな瞳を更に小さくして驚いていた。


「え、窓を使うってこういう事だったんですか?」

 その林さんの言葉を聞いて、俺は「窓ガラスを使い移動する」としか言っていなかった事を思い出す。俺の中でガラスでの移動は常識的なものに昇華していた結果、説明は不要だと勝手に思いこんでいたのだ。

 俺は説明不足だった事に少し反省しつつ、普段俺が愛用している球体へと変形させる。ガラス玉を2つ程作り、余った部分は全て正方形の板にする。それを窓の外、つまりビル4階空中に設置させ、ガラス玉はポケットに無理矢理収納する。少し膨らんでいるポケットは、他人から見れば滑稽だったかもしれない。

 そして俺は窓サッシに右足をかけ、その後浮かんだガラス板に左足をつけて、体重の半分を預ける。俺は振り返って、顔面蒼白の林さんに手を差し伸べる。

 そこで林さんは俺が何をしようとしているのか想像がついたのか、ブルブルと小刻みに震え始めた。


「も、も、もしかして、移動って、空中移動って事ですか!?」

「大丈夫、絶対に落とさないし、林さんにも高所恐怖症か確認したよね?」

「そ、そういう問題じゃないですぅ!?ガ、ガラスですよ!?いくらなんでも……」

 俺はそこで首を傾げる。異能使いが物体を制御するのは全く珍しくない。物体干渉によって制御される物体は、俺ならば液体そのものの情報(その制御されている状態でいようとする事)が強化され、無理矢理書き換える事象が起きない限りは壊れる事はない。俺の制御されているガラスは鈍器にもなり得るし、人間の体重で簡単に割れるほど柔ではない。逆に仮面男(ピエロマン)の異能がそれほど強力という事の裏付けにもなる。

 それは横に置いて、物体操作による情報強化は中学校の教科書でも習う範囲のはず。俺は教科書を使い勉強に励んだのはこの学校が初めてだが、林さんはそうではない。そんな事を考え、俺は不思議に思っていた。「何が問題なのだろう」と。

 しかし嫌がる林さんを無理矢理空の旅に連れ出す訳にもいかない。俺が少し唸り、妥協案として低空飛行を提案しそうになったところで林さんが先に決意を固めたのか、窓サッシに足をかける。林さんは無言で頷いて震えながらも俺の手を取る。

 俺は、窓の外を見てその高さに「ひぅっ」と、思わず声を上擦らせている林さんを、右手に握るスタンバトンを邪魔に思いながらも引き上げる。落ちない様に抱き寄せる形になるが、直ぐに林さんが俺から離れようとするが、その高さのあまり再び俺に身を寄せてくる。


「絶対に手、離さないでくださいね!絶対にですよ!」

 そんな必死に訴える様な林さんの言葉を聞いた俺は軽く頷き、伏せる様に指示する。

 そしてその直後に開始する高速な高度上昇。

 そんな中、林さんの「バカァァァ!!なんで高度上げるんですかぁぁ!?それに早いですぅぅ!?」との悲鳴は、雲一つない絵の具で塗り潰された様な真っ青な空に吸い込まれて、俺以外の誰にも聞こえる事はなかった。

 その時、俺は初めて林さんの大声、もとい絶叫を耳にする事になった。

 そして林さんは、自分の足元が点々と穴が空いている事に気づく事は無かった。


―――――――――――――――――――――――――――


 上空200m。澄み渡る綺麗な空。そこで俺は正座をし、林さんに説教をされていた。数分程で高さに慣れ、いや、諦めた林さんは余裕が出てきたのか、先の事に怒っていたのだ。流石に俺の手を離す事は出来ない様なので、しっかりと手は握った状態での説教は、状況も相まって誰の目から見ても異常な光景だった。

 元よりその高さ故に見ていられたのは試験官しかいなかっただろう。それも肉眼ではなく、異能を介しての監視だが。


「君、新海(しんかい)君、聞いてます?」

「あ、うんうん聞いてた。」

「絶対聞いてなかったですよね?はぁ、新海君は女の子への対応が全くなってないです。」

 俺はそう言われては黙るしかない。珍しく怒る林さんをこのまま眺めているのも悪くなかったが、それは時と場合による。今は試験中だし、こんな大空の元でする事でもなかった。

 俺はこの移動方法に耐性がある俺と(かえで)が異常である事を更に強く頭に刻んだ後、行動に移す事に決める。


「林さん、今回は俺が悪かった。埋め合わせは今度必ずするから、今は作戦を開始しよう。」

 俺がそう言うと不満をだらだらと喋るわけにもいかなくなった林さんは、渋々頷き、異能を使用する。

 自己犠牲(サクリファイス)。それが彼女の異能。別に細かく教えてもらう必要はないと伝えたのだが、俺はある意味信頼出来るとの事で、教えてもらった。その代わりに俺も他言無用で異能を教えている。少しリスクを冒した選択だったが、林さんは障害にはならないと判断した結果だ。

 そこで俺は林さんの異能使用の合図を確認すると、それに合わせて高度を下げる。林さんの異能は珍しいものであり、事象をそのまま改変するタイプの異能だという事を教えてもらった際には驚かされた。

 基本的に異能の種類は2つに分けられており、先の林さんのような特化型。科学的に事象改変する汎用型。これは正式な名前は決まってはいないが、異能の主な性能を評価して世間一般にはそう呼ばれている。

 詳しく言うなら俺や神無月(かんなづき)さんに春雨(はるさめ)さんが使う異能は、科学的に事象を解析し、原子の根本的な性質を変えずに変化させるのが汎用型だ。俺で例えるなら液体そのものを定義し、それをまとめて制御する。物質の性質を変えることなく、それを液体として扱う。これは自身の体の一部として体感しやすく、扱いやすい。それに応用が効き、汎用性が高い事が名前の由来だ。

 それに比べ特化型は、「万有引力を2倍にする」といった単純な能力だ。この世の理自体を改変するので、感覚が上手く掴めず、扱いが難しい。

 しかし単純な能力だからこそ、多様性は失われるが、強力無比な性能をしているものが多い。例えば楓の様に身体の能力を数倍にする様な能力は単純だが、とても強力だ。それ故に特化型と呼ばれる様になっている。

 どちらが良いというわけではないが、単純に性能を無視して特化型は全体としては珍しい。なので俺は驚いたというわけだった。

 そして林さんの異能、自己犠牲(サクリファイス)はその名の通り、自身の犠牲によって大きな力を得る事が出来る。その為、3種の干渉力はそもそも存在していないらしい。

 しかし林さん曰く、「自分の異能はどちらかというと、汎用型に近いですね。」と言っていた。俺はその際、意味が分からず首を傾げてしまったが、後の追加説明を受けて納得した。

 例えば今林さんが行っているのは、五感の一部、つまり、味覚嗅覚触覚を代償にし、聴覚視覚を強化している。代償の度合いも自在に決めれるらしいが、まだそこまで完璧に掌握するのは難しいらしい。

 つまり俺達が今行っているのは、安全な上空からの一方的な監視だ。屋外なら視覚情報により、全て筒抜けになり、屋内でも距離が離れても多少の音なら拾えるらしい。

 単純だが恐ろしく使える異能だ。俺はそれを面白い能力と評価したが、林さんは「気持ち悪い異能です。」と言っていた。どうやらその性質が相まって、小中学校では、忌み嫌われていたらしい。

 俺は扱い方次第では化ける異能が埋もれていくのは勿体ないと思っていた。俺が異能に対して戦術的価値を求めてしまうのは、最早癖だ。それが当然な考え方では無い事を改めて感じた。

 そもそも自己犠牲(サクリファイス)は、定義したものの中で代償を払い、その中のものを強化する事しか出来ないらしく、戦闘中は全く持って使用しない味覚を代償にし、身体能力の底上げをするといった事は出来ないらしい。それでも、純粋に視覚を強化すれば役に立つし、身体の筋繊維を定義すれば、右腕を代償とし、左腕にそれを全て力として変換出来るらしい。

 何度も言うが、本当に扱い方次第では化ける。俺からしてみればカットの全くなされていない大きな原石だ。

 そして自身の異能によって苦しんだ過去を持つ1人の少女。何故こうも、世は理不尽なのだろう。

 俺は触覚を失い、体のバランスを1人では取れない林さんを支えながら、そんな事を思っていた……。

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