14-2 嵐の前の静けさ②
Eクラス全30名に、東條と浜田先生を乗せたバスは、恙無く試験会場となる千鳥戦闘演習場に到着した。学校で既に着替えと身につける装備の確認を済ましている俺達は、バスを降りた後、残りの装備のスタンバトンを配られる。その際に浜田先生から俺はスタンバトンを受け取ったのだが、今回は特に何も言われる事はなかった。
しかし首の痣が既に消えている事に少し疑問を持ったが。
そして俺達は施設内にある広めのフローリングに見える床の空間に誘導される。どうやら俺達Eクラスが最後に到着したようで、既に他のクラスは整列が済んでいた。
その列とは今回のペアを割り振った15のグループからなる列だった。既にバスの座席順と共にペア番号は通達済みだ。そんな俺と林さんは迷う事なく、12番のプラカードを掲げた試験官と思わしき人物の列の最後尾に、横並びでつく。
そして俺達の前に立つ後ろ姿に俺は見覚えがあった。既に緊張の面持ちで、周りの生徒も黙ってEクラスの整列を待っていたので、俺は声を掛ける事なく佇む事にした。
程なくして辺りは静まり返り、先生同士の確認作業以外の物音や話し声以外はしなくなる。俺はその間に試験官の顔を確認していく。かずさんが来ていないかと少し期待したのだが、そんな事はなく、代わりに俺個人としては嫌な顔を見つけてしまう。
そしてあまりいい記憶がない人物の顔から目を逸らしていると、マイクを使用したのかスピーカーから拡大された平先生の声が聞こえてくる。
身長185cmの大柄の体格から響いてくる低い声はハキハキとした発音と相まって、とても聞き取りやすい。それに1学年主任の平先生がこの場の責任者として話を始めるのは打倒な事だった。
「それでは既に施設準備が整っているので、グループ1は東棟入り口から、グループ6は南棟入り口から。そしてグループ11は西棟入り口から移動を開始してもらいたいと思う。現時刻は9時24分。予定開始時間よりも早くスタート地点に到着しても試験が始まる事はない。
既にバス内で確認済みだが、もう一度確認する。現時点での体調不良があるものは担任に申し出ろ。以上だ。
それでは試験官の後ろについてスタート地点へと移動を開始してくれ。」
平先生がそう言い終えると、指名されたグループは直ぐに東西南北に別れる為に移動を開始する。グループ内での話し合いも、スタート地点に到着、もしくは移動中なのだろう。まともに話し合いを設けないのは、何が狙いなのだろう。
俺達はグループ12なので、直ぐに移動の番が回ってくる。北棟の施設内の西棟入り口から俺達はスタート地点に向かう。既に事前説明があった上に、マップには場所が細かく記載されていたので、俺達の歩みは早かった。恐らく早々にスタート地点に到着し、話し合いをするのだろう。グループの出発でのタイムラグでの有利不利は、スタート地点への距離によって調整されているので心配はいらないだろう。細かく言うなら、移動中話し合いが出来る先頭グループが有利くらいだろう。
俺達は広い広い範囲を移動する中、次第に先頭を歩くAクラスの生徒が喋り始める。歩けば20分はゆうに越える移動の中、時間を無駄に消費するのもアホらしい。後発組より長く移動をさせられ、体力を消費するのだから、作戦の方でアドバンテージを取る必要があるのだ。
「まずは自己紹介といこうか、俺は村田翼。こっちがペアの楽谷紗姫。そして率直に言うと、俺達は皆と連携はしないほうが良いと思ってる。もちろん大人数でお互いをカバーしあうほうが強いかもしれない。
しかしそれは連携をとれる場合のみだ。今の状態では混乱を招くだけ。それならお互い何が出来るのかだけ把握して、ペアでのツーマンセルを中心に行動したいた思う。」
村田は端的にそう告げる。確かに良い点と悪い点をまとめて勝率の高いやり方を導くのは良い事だと思う。
しかし俺はこの提案に簡単に頷く事は出来なかった。いや、別に俺達のペアとしては問題なかったのだが、グループとしては問題だった。それに恐らくAクラスの総意であるこの提案に乗せらる訳にはいかない。
そこでBクラス、ではなく、3番目を歩くCクラスの柄の悪そうな生徒がそれに賛同する。
「俺達もそれでいい。寧ろペアでの自由行動にさせてもらうぜ。お前達に足を引っ張ってもらうのは困る。このグループにはリーダーも強制力もない。何と言われようとも好きにやらせてもらうが、お前達の話も少しは聞いてやろう。」
そんなグループとしての結束をぶち壊す様な発言でグループに沈黙が訪れる。俺はその瞬間、このグループで守るべき存在をとりあえず林さんだけに限定させた。
そしてその柄の悪そうな男は結局名乗る事すらせず、「ハッ」と鼻で笑い、俺達に興味を失った様子を見せていた。
そもそも俺達としては、グループが高順位になれば問題ない。そして別に俺達が相手に倒されたとしても−1ポイント。チームの中で一騎当千の強者が生き残り、高順位になるのなら寧ろ歓迎すべきだ。しかし倒される事でわざわざ他人のポイントになる必要もない。ペアで行動すれば狩られる可能性も高まる事を分かって言っているのだろうか。
恐らく納得してしまったAクラスが喋らなくなった事で、グループの発言力が確立されている人物がいなくなってしまう。俺はとりあえずその面倒な役を買って出る事にした。
「ちょっといいか?」
そこで林さんと、俺の唯一他クラスでの知人である、西川さんが驚いた様にこちらを見てくる。他の6人は耳だけを傾け、ただ歩みを進める。西川さんのペアの男子生徒はペアが振り向いた事で、少しのタイムラグの後、こちらを見てくる。
「俺は新海隼人。戦闘は得意だし、隠密能力もある程度は備わっていると思う。だから俺のペアは人柱になってもいい。体力を温存して、最終戦まで息を潜める事も可能だと思っている。」
俺がそんな提案をすると、先程のCクラスの生徒が目を大きく開いて、興味深そうに振り返ってきた。まるで俺を値引きする様な目。心底楽しそうに口角を吊り上げた後、口を開く。
「おいおい、Eクラスはゴミの集まりだと思っていたが、面白い事を言う奴もいたもんだな。その口振りだと、キルポイントを捨て、戦闘拒否の−10ポイントも覚悟の上って事か?
しょうもねぇ事で笑わせんな。そんな事がEクラスの奴に務まるとは思えんし、1番ポイントで辛い思いをしている奴の言葉は信用に足るものじゃない。
それにお前分かってんのか?」
「索敵系統に見つかる、だろ?」
俺はその男子生徒の言い出そうとした事にあえて被せるようにして告げる。多少のインパクトをこの場に残すのは重要だ。
しかしそんな俺のやり口が気に入らなかったのか、険悪な雰囲気を醸し出す。
「テメェ、確か新海って言ったな?雑魚を潰すのはつまらんが、お前は少しいい声で泣きそうだな。」
「言いたい事はそれだけか?」
俺はそう淡々と告げる。相手の煽りは俺に通じなかったが、俺の煽りも通じなかったようで、興味を無くしたのか、前を見て黙々と歩く。
俺はとりあえずBとDクラスにある事を提案しようとして、村田が先に喋り始める。
「じゃあ新海君のペアには最後まで残ってもらう役を務めてもらうって事でいいかな?」
「……あぁ。」
俺は皆に確認を取っていると思っており、自身に話し掛けられている事に気づくのが遅れたが、特に問題はなかった。
「なら頼む。こちらも敵を倒す事に集中出来る。」
「あっさり見つかってやられそう……。」
「おい、紗姫、あんまり仲を悪くする事は言うな。今は味方だ。」
「だってEクラスだよ?」
「そうだが、新海は言っただろ自分で。そもそも多少の自身が無いとこんな事を言い出そうとはしない。そうだろ?」
そんな村田の窘めで納得?したのか、それ以上不満を漏らす事はなかった。やはりAクラスにもなると、差別意識は高い様だ。俺達Eクラスはあまり意識してはいない事だったが、この試験を持って意識せざるを得ない結果を出してしまうのだろうか。
俺はそんな事を少し心配しつつも、黙って歩みを進める。結局俺が、「BとDだけでも一緒に行動した方が良い」との提案をし、それを了承される事になったのはスタート地点到着間際の事だった……。




