2-3 明暗
「あ、起きた?」
最初に俺に掛けられた声はそんな一言だった。
(確かに俺が悪かったが、異能を使って殴る程ではなかった気がするんだが…。)
俺はそんな事を思いながら頬を触る。まだ頬が痛み、ジンジンとしていた。そして俺は痛みが当分引かそうにない頬をさすりながら言った。
「いだい。お前やっぱりアホだろ?なんで身体強化まで使うんだよ…。何倍で殴ったんだ?」
「2倍…。」
楓の俺を見ずにボソッと放たれた一言に、俺は絶句した。俺は反射的に自身の顔を両手でペタペタと触る。
(え?俺の顔曲がってないよね?歯ついてる?あ、よかったついてた。)
それでも口の中は切れており、血の味が口の中に広がる。
「ご、ごめん、ついカッとなっちゃって。ごめんね☆」
楓は舌をチロリと出しながら右手を握り、頭に当ててそう言ってきた。なぜか星が見えたような気がするが気のせいだろうか。そして少しあざといところが余計に腹が立った。
「何が「ごめんね」だよ!…まぁ、楓なら調節を間違わないと思うけど、もうこりごりだよ…。」
楓の異能―身体強化。最近は20倍近くまで出せるそうだが…そんなものでパンチされようものなら、人間は一瞬でただの肉塊に早変わりする。
もちろん幼少期からそのような倍率を出せたわけではない。これは楓の努力があってこそ、ここまで伸びた。楓は意外にも努力家だったりする。
前に楓を助けた事があると言ったが、楓も軍に所属しており、その時の任務であいつはミスを犯した。
周りより少し秀でた異能だった事もあり、単身での突出をした事で楓のキャパを超えた。それを俺は命を賭してカバーなんかしたりした。
(今思うとあれは無茶だったな。)
そしてその結果2人とも助かったが無事ではなかった。楓は2箇所の骨折、俺は全治2ヶ月の入院。
そして俺が負った怪我を見て責任を感じ、それが全てストレスへとなったらしい。その結果髪の色が抜け白になると言われていたのだが、未知物質の影響により淡いピンク色になったらしい。
今となってはそんな事、俺はもう気にしていない。まぁいい、どうせあいつは覚えていないだろう。
そんな事を考える俺は、不機嫌そうな楓に話し掛けられる事で意識を引き戻す。
「ねぇ、いつになったら本題に入るの?」
「え?あぁ、悪い考え事してた。」
「キモッ…。」
楓は自身の腕で身を抱え、俺に対して拒否反応を示す。俺はそれを見て、それに対するイラつきをそのまま言葉に表す。
「はぁ?お前はいちいち余計なんだよ!ったく、今日は2つ訊きたい事があってここに来た。」
俺は怒気をあからさまに含めて言い放った。しかし俺はいつもすぐ考えこんでしまうところがある。そこは悪い癖だな。
「てか、2つなの?1つじゃなくて?」
「あぁ、2つだ。」
俺は今日、楓から昨日送られてきたメールの内容の話と、もう1件話をつける必要があると思っていた。
(先にそっちのほうを話しておくか…。)
「まず1つ目なんだが、大崎さんの事だ。」
「あ、それは私に任せて。まぁでも流石に手におえなくなったらヘルプ求めると思うからよろしく。」
「は?」
俺は意表を突かれて思わず変な声を漏らす。
「え?沙代ちゃんの異能の話だよね?違った?」
「いや、あってるけど…え?楓、お前気づいてたのか?てっきり気づいてないものだと…それで…。」
「うわーショックだなー。隼人ったら全然私のこと信用してくれないじゃん。あーあ学校の情報とか教えてあげようと思ったのになぁー。ねぇ?何か言うことあるよね?ね?ね?」
少々わざとらしい言い方と動きだったが、楓には少しだけ似合っていて悔しかった。そして俺は目の前につり下げられた餌に飛びつくしかなかった。不本意だが。
「す、すみませんでしたぁぁぁ!許してくださいなんでもしますから。だから情報ください。」
俺は高速で頭を下げて、五体投地の状態でそんな事を言う。
「うわっなんか言い方キモッ。ん?てか今なんでもするって…。」
「なんでもするとは言っていない。いや言ったけどファミレスで許してください!」
「もう仕方ないんだからね。今回だけだよ?あと沙代ちゃんの事は私に一任でいいよね?」
言い方的には乗り気ではなさそうだった楓だが、その表情はどこか嬉しそうな表情をしていた。
「あ、あぁ、任せた。それで情報っていうのは?」
「それは最後ね、そうしないと隼人帰っちゃいそうだし、ほら、さっさと2つ目の用件言ってよね。まぁだいたい予想はついてるけど…。」
そう今回楓を訪ねた1番の理由だ。楓から送られてきたメールには見て見ぬ振りが出来ない事が書いてあったからだ。それを改めて確認と共に対策を練るために来た。
(俺はアホだ。もう軍の人間ですらないのに一般人が手を出していいわけがない。平穏に過ごしたいと願っても俺の真の心にはまだ鉄の枷がついているのかもな…。)
俺は頭を切り替えて話を組み立てる。
「それで本題だ。つい先日のコンビニ強盗…いや、俺の知らない事件も起きてそうだが、それは全て陽動でその本作戦は未知物質のバイオプラント工場や研究所周辺の警備態勢の把握を目的としていたって本当か?あそこって国家機密だろ?そんな簡単に網羅出来るのかよ?」
「そのはずなんだけど…。何か大きな組織が関わっているみたいね、どこかの暗部が手を貸したのよ。それと軍の諜報部によると、どこが主体で動いているのかもわかったみたい。」
「まぁ、揺動してたやつがざるだったからな。軍なら足どりも一瞬でつくだろ。で?結局どこなんだ?」
楓はそこで少し黙る。思い詰めた顔をしており空気が変わるのを感じる。
「お、おい、どうしたんだよ?楓?何か言いづらい事なのか?」
「えぇ。まぁ言うけど…主体で動いていたのは藤堂友樹。藤堂竜星君の5つ上の実の兄ね。」
「は?なんだそりゃ?」
俺は思わず疑念の声を漏らす。
「わ、私も最初に聞いた時は耳を疑ったよ。それ本当なの?って。でも何度確認したって同じ返答しか返ってこなかったんだもん。」
楓もどうやら驚いた様で目をあちこちに巡らせていた。しかしどうゆうことだ?藤堂に兄がいたこと自体初耳だったが…あいつは関わっていないよな?でも…最初に感じた違和感もあった。でもあれはそんな奴と別の部類なような…。本人に聞い…
「隼人!!」
俺はそんな威勢の良い声で現実に引き戻される。
「は、はい!な、な、なんですか???」
「今藤堂君に直接聞いたらいいとか意味わからないこと考えたとか言わないよね?」
楓は俺に顔を近づけて目を細めてじっと見つめてくる。俺は表情を特に変えたつもりはなかったのだが、楓にはどうやら伝わったみたいだ。
「その顔は考えてたな…もぅ隼人はすぐ突っ走るんだから。いつもそう。」
「すまん、流石に俺も直接聞いたりしないよ。アハハ…。」
「本当にわかってる?それに作戦決行はいつになるかまだ分からないらしいから勝手に1人で行ったらダメだからね!ちゃんと私に言ってから一緒にだよ?」
楓は頬を膨らませながら、右手の人差し指を立てて注意してくる。そして俺は一応楓の言葉を覚えておく事にした。
「へいへい。そもそも俺1人の力なんてたかが知れてるよ。じゃあそろそろ帰るわ。学校の情報はまた今度でいいよ。じゃあな。」
俺はそう言って玄関の方に足を運ぶ。
「え?ちょ、ちょっとぉ、夜ご飯奢ってくれるんじゃなかったの?」
「わりぃ、今日疲れたらから寝る。どっかの誰かさんに殴られたしな。」
俺は靴を履きながらそんな皮肉を漏らす。
「そ、それはあんたが悪いんでしょ!なんで私のせいみたいになってるのよ!あ、ちょっと!」
こうして俺は逃げるように楓の部屋を抜け出した。
楓の姿を見ずに部屋を出たので表情は分からなかったが、言葉には少量の怒気が含まれていたのは分かった。俺は楓との会話は楓にペースを握られている気がしてあまり得意ではない。楓も同じような事を思っているかもしれないが、お互い様ということにしておこう。
(しかし、藤堂の家が関わっていたとは……あいつは関係しているのか?)
俺はそんな事を考えつつ、近辺のハンバーガー屋によってから寮への帰路についた…。




