表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/216

1-1 全ての始まり?

―――西暦2078年4月4日。今日から俺が通うこの学校―高度(こうど)異能(いのう)育成(いくせい)第一(だいいち)学校は所謂(いわゆる)異能(いのう)使いと呼ばれる学生が集まってくる学校だ。

 そう、俺は今日この学校の入学式があり、それから華やかな学校生活を送ろう、いや、送れると思っていた。広大な敷地に新築を思わせる綺麗な校舎。異能(いのう)、部活動関連の多種多様な施設。俺はその光景を見て、大いに期待を膨らませていた。

 しかし。俺は自身が在籍するクラスの前の扉で立ち止まり、座席表で自分の座席を確認した。

 そしてクラスの中を一度見渡して、暗い穴に突き落とされたかの様に絶望した。


(もうグループが出来始めている……だと?!)


 自分で言うとなると少しむず痒い思いになるが、俺はそんじょそこらの有象無象よりは顔が整っていると思う……。多分だが。それに相手から話し掛けてくれさえすれば俺はコミュニケーションもとれるという自信もあった。

 しかし、俺は既に盛り上がっているグループの中にこの身1つで突撃し、会話を切り出してその輪に入っていく事が出来る程、俺の心は強く出来ていなかった。残念な事に。

 つまり何が言いたいのかというと、俺は初日からひよって友達作りに失敗したのであった。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺は自身の席につき、頭を抱えていた。そこで無意識の内に、手に力がこもってしまう。


(くそっ!グループ作りにまだ参加してない奴に声を掛ければよかった!)


 そう、グループ作りは中盤までは進んでいたのだが、全員が全員、グループ作りに参加していたわけではない。俺同様に1人で待機時間を過ごしていた奴もクラスの半数は存在していた。だが俺は分かっていながらも声を掛ける勇気が湧く事はなかったのだ。悲しい。

 あとほんの少しでも俺に踏み出す勇気が湧いていたら、こんな事にはならなかっただろう。

 しかし俺は何もせず、ただ時間を浪費したわけではない。

 俺は当初、隣の席に声を掛けようとしていた。とりあえず相手の様子を確認する為に隣に顔を向ける。隣の席の住人は机の上で腕を組み、それを土台にして気持ち良さそうに寝ていた。俺はその光景を見て、呆れと感心、この2つが同時に迫ってきた。


(寝てやがる……。こいつ入学初日でまだ入学式すら終わっていないっていうのに、その待機時間で寝るなんてどんだけ図太い神経してんだ?俺には真似出来ないな……)


 というわけで失敗した。俺は声を掛けて起こそうとも考えたのだが、まず名前を知らない。否、それは正しくない。クラスの扉には座席表が張り出されて、そこには名前もしっかりと記載されていた。俺は間抜けな事に隣の奴の名前すら覚えていなかったのだ。

 揺すって起こす事も考えたのだが怖くてやめた。少し嫌な予感がしたからだ。俺はこういうのには敏感だ。これは断言出来る。それは横に置いといて、次だ。

 俺の席は教室の左端の最後列(さいこうれつ)。つまり席を立たずして声を掛けるとしたら、俺の周りの3人ということになる。

 しかし待機時間という事もあり、右斜め前の住人は席にはいなかった。つまり、俺に残された希望は俺の前の席の住人に託されたという事になる。まぁ、失敗したわけだが……。ぐすん。

 まぁ待て。まずは俺の努力を聞いてくれ。さっきも言ったが俺は前の人の名前も覚えていなかった。なので、とりあえず俺から名乗る事で誤魔化し作戦を決行した。


「あ、あのっ!」

「……何?……私に用?」


 彼女は辺りを見渡し、自分に話し掛けられた事を確認しながら振り返る。その時に漆黒のストレートの髪が少しだけなびく。彼女の容姿を一言でいい表すのなら、美美(びび)しい。とても可憐な女の子だった。


「あ、あぁ、そうだ。えーと、俺の名前は新海(しんかい)隼人(はやと)。俺、友達がまだこの学校にいなくて1人なんだけど、よかったら……って急に馴れ馴れしいよな、こんなんでもいいなら友達になってくれないか?」


 俺はそんな彼女に見惚れつつ早口で話を進める。

 最早最初の挨拶ですら心の中では既にうっきうき。勝手にテンションが上昇の一途を辿っている俺は、あまり楽しそうではない彼女の顔を見て、だんだんと不安が押し寄せる。


「新海……隼人……」


 そこで彼女は俺の名前を呟いて、表情を曇らせる。


(ん?なぜここで(しか)めっ(つら)になるんだ……?)


 しかしすぐ様無表情に切り替わり、先の事は忘れて欲しいと言わんばかりに話を再開した。


新海(しんかい)君でいいかしら?悪いんだけど、私はこの学校でやりたい事があるの。私の実力を試しに来ているわけ。だから友達は作る気ないの。ごめんなさい。他をあたってくれるかしら」

「え、あ、あぁ……。って、名前だけでも教えてくれないか?」

「は?」


 彼女は俺の言葉に驚きを隠せずといった風に声を漏らしていた。再びその顔は無表情に戻り、落ち着きを取り戻す。


「……あ、いや、そうね、わかったわ。私は神無月(かんなづき)(よう)。一応、よろしく」

「あぁ、よろしく……」


 こうして俺の友達作りは、俺の心と共に両断されたのだった。


―――――――――――――――――――――――――――


 俺の友達作り失敗の件から約5分程が経過。待機時間が終了したとほぼ同時に、先生と思わしき人が入って来た。

 身長は160cm程。スラっとした足に綺麗なくびれ、胸も成人女性の大人っぽさを感じる程度にはある。そんな大人の色気を放っている妖艶な女の人だった。ある1点を除いて。

 その女性はつむじ周りの寝癖と思われるものが凄かった。せっかくの艶のあるストレートのロングヘアーも台無しである。これには俺を含めたクラスメイトも唖然としていた。

 その女性はヘンテコな髪によって、生徒が声も出せなくなっている(あいだ)、眼差しはしっかりと俺らを捉えて離す事はなかった。この鋭い視線には気付かない奴もいたがクラスの半分、つまり俺を含めた約15人程はしっかりと気づき、先生?を注視していた。

 そして、その人物はニヤリと顔を歪め、面白可笑しいといった様子で笑う。手にしていたものを教卓にそっと置き、そして、芝居がかった動きで手を広げ、喋り始めた。


「今日からこのクラスの担任となった東條(とうじょう)(あい)だ。よろしく」


 少し大きめに発せられた言葉は滑舌も良く、綺麗に聞き取る事が出来た。そしてその人物の名前に、俺は聞き覚えがあった。

 元二等総長の東條愛。かなりの実力者で学校の先生をやっている事に驚きだった。

 俺はそんな事を思いつつ、続きの話に耳を傾ける。


「まず最初に言わせてもらうが、お前達はまだまだ弱い。このクラス全員で襲いかかっても私は無傷で、全員を簡単に無力化出来る自信がある。まぁ、若干未知数な奴も混ざっているがな」


 その瞬間クラスメイトは皆、困惑した顔を見せた。先生は急に何を言い出しているのかと。頭上にクエスチョンマークを浮かべ、そんな突拍子もない言葉に驚いている事を一蹴するように鼻で笑う。


「ふっまぁいい。直に意味が分かるだろう。」


 東條は意味ありげな事を言って不敵に笑う。


「この学年は5つのクラスに分けられておりA・B・C・D・Eに分けられている事は既に知っているな?このクラス分けには少しばかり手が入っている。入学試験の結果や、お前達の過去の成績書を見てAからEに振り分けられている。このクラスはE。つまり、最底辺の評価を学校側から下された集まりだという事だ」


 その瞬間物静かだったクラスがざわつく。俺は以前見た学校のホームページの画面を思い出しながら思索(しさく)(ふけ)る。

 俺達はこれでもこの学校に入学出来ている。なぜこの学校に入学出来ているだけでこのような言い方をするのかというと、この学校は名実共に全国1を争うトップレベルの学校だからだ。

 他にも有名な学校はあるが、この学校程ではないらしい。つまり、この学校に入学出来るということは全国レベルの実力があるという事と同等と考えていいからだ。

 実際そうだ。この学校は普段、入学希望者で溢れかえっているらしい。そして俺達は、全国屈指の実力主義の学校に入れた事により浮かれていたのかもしれない。

 そこでさっそく出鼻をくじかれたわけだ。

 そしてクラスの皆からひっきりなしに声があがる。それも当然の様に湧いて出てくる不平不満なのだが、東條はその声をものともせずに話しを続けた。


「まぁ待て、悪い事ばかりではないぞ?ささやかな希望を言うとしたらだな、まぁこの学年全てのクラスに言える事だが、クラスの中に1人だけ正当な評価を受けていない、いや、正当な評価を受けているがあえて下のクラスや、上のクラスに入っている生徒がいる。つまりお前達の場合はDクラス以上の実力を持ちながらもこのEクラスに在籍しているという事だ。

 毎年クラス替えは行われるが基本的に何も変わらない。個人の頑張りが学校側に認められての昇格だ。まぁ例外もあるがな。まぁ、どのクラスに入っても学校側の待遇は変わらない。そこら辺は私が保証しよう。

 さて今後の予定だが、この後直ぐに入学式があり、その後はもう一度この教室に戻り校内の説明を終え次第、実際に案内する。今日の予定はそれだけだ。

 よし、席を立て。講堂に移動するぞ。まぁ、せいぜい足掻くんだな。自身の実力を高める事は、私も担任として全力でサポートしてやるぞ?」


 最後に激励とも、嘲笑ともとれる言葉にクラスメイトは言葉を失っていた。そして俺は気付いていた。拳を強く握り締め、覚悟を決める姿を見せる少女が1人いた事を。


―――――――――――――――――――――――――――


 入学式が行われる講堂に移動し、決められていた席に着くと、ほどなくして入学式が始まった。入場行進とかちょっぴり期待してたりしたがそんなものはなかった。ちなみに講堂は新入生しかおらず、上級生と思わしき生徒は見受けられなかった。

 そして理事長の長い長い話を聴き終えると、現生徒会長の激励の言葉に移った。現生徒会長は2年生の時に、軍から正式にオファーがあり、卒業後は軍に所属することが決まっているらしい。この学校では卒業後、軍に所属する生徒は珍しいわけではない。

 しかしそれは殆どが3年生に決まるものらしい。2年生の内に実力が認められるのは異例と言える。しかも、学校が長期休みの間に、軍に顔を出して訓練に参加していたらしい。そんな人が生徒会長を務めているのは当然のようなものに思えた。

 生徒会長は背筋を伸ばし、お手本の様な姿勢で壇に上り、マイクの前に立つ。身長は180cm後半。制服の上からでも分かる、鍛えているであろうしなやかな筋肉。そして黒髪ショートの爽やかイケメンだった。しっかりと制服も着こなされており、髪も整えてある。女子生徒の中では一目惚れをする人がいても可笑しくはない。


(なんやねん、全部持っとるのかよ。f○ck)


 俺は内心で悪態を吐きつつ話を聴いていた。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

私は生徒会長を務めている神宮寺(しんぐうじ)橙夜(とうや)といいます。今後はこの学校で……」


 生徒会長はテンプレートな事を話し、これといった特別な事は何も話さずに終わった。その間に、生徒会長は絶え間なく視線を1年生に向けていた。どこを見ていたまでは正確には追い続ける事は出来なかったが、一度だけ俺と目が合った 気がした。

 恙無(つつがな)く入学式も終わり、教室に戻った俺達は予定通りの工程を踏み、そこで今日は解散となった。

 案内の間、上の空だった俺は話を適当に聞き流していた……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ