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吸血鬼はなぜ日常の謎を探し求めてしまうのか?  作者: 笹帽子
第2話 吸血鬼はなぜ目玉の謎を白日の下にさらすのか?
17/33

2-7

 出雲泉水に作業状況を見せてあげるため、駅の近くまで戻った私たちはファミレスに入り、ちょっとお茶でもということになった。

 四人がけのボックス席の片側に霧島が座り、対面に私が座った。特に意識せずに流れで座ってしまったが、これだと出雲泉水にどちらに座るか選ばせるような感じになるなと余計なことを考えた瞬間、吸血鬼は霧島側をわざわざ通り過ぎ、するりと私の左側に収まっていた。その近さにちょっとぎょっとしてしまうけれど、見ればギプスをした腕が左手、私の向こう側にある。そういえば左だったなと思い出し、私は納得した。それに霧島はでかいからこっちに二人にした方がバランスはとれているか。

「先輩、いま失礼なことを考えませんでしたか」

「ゲレゲレゲレ」

「コミュニケーション拒否モンスターやめてください」

「二十四すべての特殊装甲を一撃で……」

「最強の拒絶タイプ!」

「とりあえずドリンクバーで」

「じゃあ先輩、私が和風ハンバーグ頼むのでそれとセットにしましょう」

「ちょっとお茶、じゃないだろうそれは」

「和風要素あるじゃないですか」

「ハンバーグの要素が強すぎるんだよ」

「米をつけて和風要素を増しましょうか」

「ライスって言えよ洋食だよ普通に飯食うのかよ」

「あの、私はお茶をお願いします」

「それは確かにお茶だけど、出雲さんはドリンクバーのシステムが理解できていないな」

 吸血鬼はファミレスとか来ないのか?

 和風ハンバーグがジュウジュウ言いながら届いてすべてが油まみれになる前に手短に共有しようということになり、霧島がノートパソコンを取り出した。作成途中のデータを画面に表示して、三人で覗き込む。春島市内の鳥瞰図に主な川と水害碑を書き込んで解説をつけたもの。ここに今日の写真と解説をつけて完成する。そして、過去の豪雨時の天気図と、豪雨と土砂災害の仕組みの解説。さらに、市が出しているハザードマップと警報と避難の考え方。あとはこれをポスターに大きく印刷……するのが、いくらくらいかかるのかまだ調べてないけど、部費で足りなければ最悪、学校の印刷室で一番大きいのに印刷してつなぎ合わせればなんとかなるだろう。

「すごいですね……」

 出雲泉水がつぶやいた。どの部分のことを言っているのかわからないが、悪くないクオリティだという自信はあった。霧島と私の良い分業だった。解説の文章と、気象災害、地質学あたりの解説は私の好きに書かせてもらった。霧島はその原稿をきれいにまとめて、地図オタクっぷりを発揮してきれいなインフォグラフィックに仕立ててくれている。霧島は地図オタクが高じて地学部に入部した経歴を持つ。地学は地理も含むと思っていたらしい。もちろん重なるところはあるし含めるという考え方もあるけど、とりあえず学校の科目だと、地学は理系で地理は文系、違う教科だ。いや、うちの地学部では実際、含むのだけれど。地学はすべてなので。

「なんかもう、ほぼ出来ちゃったタイミングだったのがちょっと残念ですね。泉水ちゃんも一緒に作れれば良かったですけど」

「そうだなぁ、仕上げのチェックとか、印刷して設営とか、そういう仕事なら一緒に出来るけど」

 入部のタイミング的にそれは仕方がないことで、これからの活動を一緒にしていけばいい話ではある。

「まあでも、これから一緒にいくらでも部活をやる時間はありますからね!」

 霧島はそれを自然に口に出せる。うらやましいことだ。コミュニケーションモンスターめ。

「すごいですね……」

 まだノートパソコンの画面を眺めていた出雲泉水がもう一度つぶやいた。怖々と、右手の指一本で端末を操作してページをめくっている。機械は慣れていないのだろうか。それにしても手を骨折などすると大変そうだと思い、急に思い出したくないことを思い出して胃がうねる。結局言いたかったことが言えていない。このままでは今日の部活も終わってしまう。

「泉水ちゃん、そんなに褒めても」

「塞げ」

「いえ、すごい地学だなと……」

「だから地学部だって」

「あの、部長さん、きちんと説明してくれなかったですよね、地学はすべてだ、などと」

「すべてには地学も含まれるでしょ」

「循環参照を削除または変更してください!」

「エクセルモンスターは唸り声で発言しろ」

「和風ハンバーグのお客様」

「キュイ!」

「お前を消す方法」

 そして、和風ハンバーグがジュウジュウ言いながら届いてすべてが油まみれになった。

 少しだけ遅れてライスも来ます。

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