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1時間25分の密室  作者: 江田翔
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のぞみ7号。品川発事件行

えっと、ひどく幼稚な文章で見てて辛い部分あると思いますが気ままに更新していくので宜しく御願いします。

品川駅は、混んでいた。

電光掲示板を見れば、大体3分おきに西へ向かう新幹線の発車時刻が書かれている。

しかも、そのうちの何本かは1000キロ以上離れた福岡県、博多へ向かう列車なのだから驚きだ。

まぁ最も、常識的に考えて、福岡まで新幹線で行く人はいないだろう。

品川からなら、京浜急行に乗って羽田から飛ぶのが一般的だろう。

スーツの内ポケットから出したスマホを確認する。

今日は、自分の勤める出版社の、大阪支社に行くことになっている。

何と言っても、今大阪では某兵庫県の政治家の不祥事で、うちのような小さな出版社の支社レベルでは人が回らないらしい。

今の所東京では取り立て大きなネタもないので来て欲しいと言われたのだ。

勿論自分だって暇ではないが、来いといわれた以上「行かない」とはいえないものだ。

10時までに心斎橋に着ければよかったので、品川6時56分発、のぞみ7号、博多行きを選んだ。

7号車の海側の席が取れた。海側ということは、富士山を眺めることはできないと言うことだ。

残念だな。と思いつつも仕方なく、改札機を通りホームに向かった。

駅員が元気よく挨拶をしてくれたが、軽く頭を下げる程度にした。



隅田川を選んだのは失敗だったな。

後になって激しく後悔をした。

東日暮里から走って10分ほどの隅田川に着くと少年は、明治通りの橋下で足を止めた。

ホームレスが使っていたのか、小汚く悪臭を放つブルーシートを見つけたのでそれを被る。

就寝時間後見回りに来る親にバレないようにスマホを使う中学生のように、画面を震える指でスクロールした。

「東京はダメだ。東京にいてはダメだ」

心の中でもう一人の自分が囁くような気分の悪さを覚え、喉を痛いものが逆流して来る。

おそらく鏡が目の前にあったのなら、リスのように口を膨らませた自分は滑稽に映っていたのだろう。

吐き出さなければ溢れてしまいそうだ。仕方なく一旦ブルーシートから顔を出し、川に吐き出した。

出したからといってスッキリするわけでもなく口内は気持ち悪いままだ。

ゲボが自分の服にかからなかったのは幸いだった。

上着を着ていたのならそれを脱げば済む話だが、上着はさっき返り血を浴びた際に、捨ててしまった。

今来ているシャツを脱げば下は肌着になる。

肌着で街を歩いていれば間違いなく通報されるだろう。されなくても職務質問くらいはされる。

かと言って自分の汚物かかった服で歩いていても確実に声は掛けられる。

少年はまず、これからどうするかを考えた。

死体は警察に見つかっているだろうか、まだ大丈夫なんじゃないだろうか。

勝手にプラス思考で考えた。

ただ、それも時間の問題だろう。何も死体をドラム缶に詰めて東京湾に沈めたわけではない。

耳を澄ます。聞こえて来る街の音はどれも明るく、自分のいまの精神状態とは反している。が、肝心のサイレンは聞こえなかったので、安堵のため息を吐いた。

次に、逃走先を考えることにした。

「犯人は北に逃げる」とか言う有名な言葉があるが、

北へ行くつもりは毛頭なかった。

人間は心理的に逃げるときは西へ向かうことが多いそうだ。

自分もその例に則って、西へ向かうことにした。

まず、交通手段は新幹線を選んだ。

明日の朝の新幹線で行こう。3時を示す時計を見てそう決めた。いまの時間走っている新幹線はない。

本当は飛行機にしようと思ったが、航空券は買う際に名前を登録する必要があった為、リスク高く思えた。

次に、西と言って思いつく新幹線沿線の地名を挙げた。名古屋、大阪、広島、福岡。

まず、名古屋と大阪は近すぎる気がした。

できるだけ遠くに行きたい。

福岡にしよう。スマホの地図を見てそう決めた。

勿論物理的な距離からくる安心感もあったが、それ以上に自分の興味を注いだのは、朝鮮半島の近さだった。

パスポートを持っていないし、第一持っていたとしても使う頃には指名手配されているかもしれないので、直接行くことは出来ない。なので、パスポートのいらない対馬まで船で向かい、そっからはボートか筏でも使って韓国に入国しようと考えた。無茶苦茶な計画だとは思わなかった。いくら近いと言われる対馬と韓国の釜山は、約40キロある。

大阪〜京都に匹敵する距離の海を自力で渡るのはどう考えても不可能に近かったが、この時の自分には出来るような気がした。出処のない自信が自分を覆い固めた。

ふと、浅草の方から隅田川沿いの歩道を歩いてくる老人の声が聞こえた。

こっそり顔を出して耳を澄ます。足音からして二人はいるようだ。


「さっきよ、警察に話し聞かれたんだよ」

「なんてよ」

「近くで殺人だってよ。なんか知らねえかって。」

「知ってるわけねえ。知ってても金くれなきゃ教えねえよ」


隅田川を選んだのは失敗だったな。

日暮里から近すぎる。にしても警察仕事早いよ。

ため息をつくと、捜査の手が回ってくる前に夜明けの東京を歩く始めた。

まずか資金を集めなくてはならない。



[新幹線を御利用いただきましてありがとうございます。

間も無く、24番線に、6時57分発、のぞみ、7号、博多行きが、到着いたします。]


ホームに新幹線の接近を知らせる放送が鳴った。

ふと進行方向前寄りに目をやった。

一番先頭の1から3号車は自由席だ。

これから出張なのだろうか、まるで通勤ラッシュのホームのように列を作っている。

これだけ人がいたら座れないだろうな。

内心で、ご愁傷様ですと声を掛けたくなる。

そもそもよく考えればこの新幹線の始発は品川ではなく、東京だ。

平日の朝東京を出るのぞみは、大体始発の段階で自由席は埋まっているものだ。

グリーン車は兎も角、指定席か自由席かは、天と地の差だった。

駅員が、柵から離れるよう繰り返す放送をかき消すように、

白い車体が滑り込んできた。

白い車体に青い帯は、鉄道と言うより、飛行機のような斬新なデザインだった。

ブレーキを何回かかけ、品川の駅に停車しようとする。

まるで、落ちる穴を選ぶルーレットのように、きっちりと決まった位置に停車した。

[品川、品川です。この電車は、6時57分発、のぞみ、7号。博多行きです。次の停車駅は新横浜です。]


品川と東京は新幹線を使うような距離ではないので、当然降りてくる乗客はいない。

その為、それなりに人はいたものの乗り込むのに時間はかからなかった。

席に着くと列車はすぐに発車した。

車内放送のチャイムが鳴ったあたりで、箱根駅伝で有名な新八ツ山橋の下をトンネルで通過する。

東海道線の上を跨ぎ、大きくカーブを描く。

自動車学校が見え、昔免許を取得した時のことを思い出した。

大田区に入ると、閑静な住宅街の中を新幹線は高架橋で行く。

暫く進むと、新幹線の高架が下がったのかまたは向こうが上ってきたのか分からないが、横須賀線と線路を並べた。

この辺りから新幹線のスピードも上がってくる。車内放送では、丁寧に車掌が博多までの駅の到着時刻を案内している。

横須賀線で、ふと、芥川龍之介の「蜜柑」を思い出した。

神奈川は横須賀駅から汽車に乗った主人公が、故郷から奉公に行く娘との汽車内での出来事を書いた短編小説で、

横須賀に海軍機関学の関係でいた芥川龍之介の体験を元に書かれたと言われている。

そう言えば、この東海道新幹線では、小田原、熱海も通る。ここもまた、芥川龍之介の小説、トロッコの舞台になっている場所だ。

小田原熱海に軽便鉄道工事が始まると、それに興味を持った主人公、良平が手伝う事から始まる物語だ。

一応出版社に勤める人間なので、文学は好きであった。

特にその中でも、蜘蛛の糸を始めとした芥川龍之介は別格であり、その舞台を少しでも感じることができる新幹線も悪くはないなと思った。

そんな事を考えていると、鉄橋の音がした。窓に目を向ければ、大きな川を渡っている。位置的に考えて多摩川だろう。

案の定それは多摩川で、川を渡り切ると、川崎は武蔵小杉の街に飛び込んだ。あっという間だ。


電話が鳴った。

非通知からだった。

普通は、非通知からの電話なんて出るべきではないのだが、

仕事柄、匿名の告発なんかもあったりするので、出ることにしていた。

車内で通話するのはマナー違反だし、第一他の乗客に聞かれていい内容かどうかも分からない。

三人がけのシートで、横に誰も座っていないのが幸いだった。

通路に出ると、7号車博多寄りのデッキに出ると、誰もいないのを確認し、ドア横の壁にもたれ掛かった。

「自然出版、社会部、佐々木です。」

隠す名前でもないので、正直に名前を言った。

「助けて欲しいんです」

電話の向こうの相手は静かに言った。

普通電話と言うものは、互いに名乗り合うべきな訳で、自分の名前を出さずに要件を言ってきた電話の向こうの相手に、いい気はしなかった。声からして、若く、男だ。

ただ、助けて欲しいんですと言う一言は気になった。

「どのような要件でしょう」

「いくつか僕の質問に答えてもらってもいいですか?」

「どうぞ」と、返しながら電話の相手の心情を探る。

まず、微妙に声が震えている。

緊張しているのか怯えているのか。

だが、言うことははっきりしていて、おそらくもう自分の頭の中で何を話すのか決めているのだろう。

「あなた、自然出版の、佐々木寛之さんですよね」

誰かわからない人間から自分の名前を言われるのは慣れないものだ。

胃を締め付けられたような不快感が身を纏った。

そもそも自分は一介の雑誌記者だ。有名人でもなんでもないのになぜ名前が出回っているのだ。

「そうですよ。」感情を抑えて言った。そして、「助けて欲しいと仰いましたがどのような意味ですか?」

「殺されるんです‼︎助けてください」

携帯を思わず耳から離したくなる声のトーンだった。

自分の頭で2秒ほど考える。恐らくこの電話の相手は、被害妄想か、薬物中毒か何かだろう。

「そのような内容でしたら、最寄りの警察署へ駆け込むのが一番ですよ」会社の顔を立て親切に言う。

「殺されるのは、僕じゃありません。僕の友達、少年Aです。」

「少年A?]

思わず聞き返す。ドラマの見過ぎだろうか。この電話の主は。

「ごめんなさい。正直言って名前は明かせないんです。

今日の朝、少年Aの携帯画面を見たら、殺害予告が届いていたんです。

今日、お前を東海道新幹線の車内で名古屋京都走行中に殺すって。警察に助け求めても殺すって書いてあるんですよ。臭いですよね。

びっくりして、話を聞こうと思ったら、もういないんです。で、彼の携帯を見たら、のぞみ7号で博多へ向かうってメモがあって。それで、急いで東海道新幹線に乗りそうな記者とか探偵とか調べたんです。そしたら、偶々あなたの奥さんのインスタを見つけたんです」

思わず笑ってしまった。大体お前を殺すなんて小学生が書きそうな殺害予告、イタズラに決まってる。

「インスタを見つけてどうしたんだよ」

妻…佐々木愛菜。大学時代からの付き合いで、去年結婚した妻だ。にしても、どっから見つけたのか知らないが、この電話の相手はストーカー気質なのではないだろうか。さっきとはまた別の気持ち悪さが出てきた。

車内に、新横浜到着の車内放送が掛かり、それが電話の声と被るため少し聴きにくくなった。

「今朝、投稿がありました。旦那が大阪出張に行ってくるから駅までお見送り♡って。投稿時間と、あなたの家の最寄り駅、高田馬場駅から最寄りの新幹線駅である品川までの所要時間を見たところ、6時36分に品川に着くことが分かりました。東海道新幹線の時刻表を見ると、37分に博多行きのぞみ5号がありますが、乗り換え時間は何と1分。

あまり現実的とは言えないじゃないですか。その次にあるのはこだまですし、何より行き先が名古屋です。

そしてその次に大阪に行くのは57分発ののぞみ7号なんです。

以上のことから佐々木さんはのぞみ7号に乗ると判断しました。」

「君さ…探偵になれるんじゃないかな?」

少年の無駄な推理力に、興味を惹かれている自分がいた。「まぁ、一か八かだったんですけれどね」

と、少年が付け足した。

「何で、その“少年Aとやらは命を狙われているんだ?」

新幹線は、減速をし、環状2号線をまt愛でいる所だった。

「やっちゃったんです。人を」

「何だよ?ヤの付く自由業の女取っちまったとかか?」

段々電話の向こうの相手への口が軽くなってきた。

「それもだいぶヤバいですけど、こっちももっとヤバいです。やっちゃった。漢字で書くと、殺害の殺って字が当てはまります」

そういう少年の口調はどうも嘘をついている様には思えなかった。

分岐器の上を渡り、列車は新横浜駅に到着した。

驚くことに、東京都内から新横浜まで新幹線を使う人は一定数いるらしく、何人かが降りていき、大勢の人が乗り込んできた。

ドアが閉まりデッキから人が消えると、会話を再開させた。

「殺しちゃったってことか?」

「今朝、東京都荒川区東日暮里一丁目の路上で、高校生の遺体が見つかったんです。

その事件の犯人が少年A。本当は名前言いたいんだけど、おじさん警察言っちゃうかも知れないでしょ。」

そんなニュースを朝、スマホで見たのは覚えがあった。

「犯人を助けるのは罪になるんだぞ」

「おじさんは名前知らないんだから助けたことにはならないでしょ。それに見つけたとき自首を促せばむしろヒーローだよ。」

東日暮里一丁目と言えば、都営日比谷線の三ノ輪駅を出たすぐのあたりだったはずだ。

「死んだのは、東京都荒川区南千住に住む高校2年。小村陽平。17歳。

頭を鉄パイプで一発か。」

鞄から取り出したタブレットで記事を検索し、読み上げた。

新幹線は、新横浜を離れ、環状2号線の下を潜り、ランドマークタワーを始めとしたみなとみらいエリアを遠目に車窓に写すとトンネルに潜った。

「そのニュースです。記者さんなら、警察に知り合いなんかいたりしないですか?」

「数人はな」

トンネルを走ると轟音がし、電話がしにくい。

「もし、この事件に関わってる関係者がいたら聞いて見てください。凶器は、アムロ製鉄製の鉄パイプです。

警察が発表してなければ、写真も出回ってません。少年Aの携帯に写真が残ってました。

そう、少年は言うが、そんなこと警察に聞けるわけない。それがもし本当だった場合自分が重要参考人にされてしまうからだ。

信じられないことに、自分はこの少年の言ってることが虚言に思えず、また、事件に関心すら持っていた。

「俺は何をすれば良い?んだ。で?」

「こんな事言ったら舐めてるかも知れませんね。僕は少年Aの今の服装を知りません。

反対に少年Aは今自分が命を狙われていることを知りません。

走行中ののぞみの車内で、どっかの号車に乗っている少年Aを見つけ出して欲しいんです。そして自首を促してください。大丈夫です。公共の場で暴れる程能がない奴じゃないです。

制限時間は次の名古屋に着くまでです。新横浜から名古屋は1時間25分らしいですよ。マァもう発車して数分経ってますけど」

無茶苦茶だと思った。

「見つけ出してどうすれば良い?」

後でメールで送る電話番号に連絡ください。」

電話を切られてしまいそうな雰囲気があったので、急いで付け足す。

「後最後に、その、君の名前を教えてくれないかな?」

「横山です。横山瑛。エイです。水族館にいそうな名前だって揶揄われますよよく。

それでは佐々木さん。よろしくお願いします。」

丁重に言うと、電話は切られた。


つづく








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