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スガノ神霊譚  作者: 弱酸
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参章(1)

 僕は、はんてんを着たボサボサ頭の男に袖を掴まれながら、引きずられるようにして歩いている。それにしてもこの男は歩くのが速い――いや、むしろ僕が普段から歩くのが遅い事の現れなのかもしれないのだが

「あの……、すみません」

 僕は問うた。

「ん、まだかって? 大丈夫大丈夫、もうすぐ抜けるよ」

 いやそういうことじゃない。僕が聞きたいのは、僕はどこに連れて行かれているかだ。

「そういえば君、何処か部活に入るアテはあるのかい? 」

「いえ……、特には。でも、友人から生徒会のスタッフに入らないかって誘われました」

「生徒会? あんなところは入らないほうがいいよ。脳が溶けてしまう」

 脳が溶けるとは、ずいぶんな言い様だな。何か生徒会に恨みでもあるのか。それに香春さんにも失礼だ。

「生徒会はね、別に個人的に嫌いというわけじゃないんだ。別に存在すること自体は構わないし、生徒会としての本分をわきまえるのであれば私は一向に構わない。ただ、今の生徒会の横暴さに断固として立ち向かってるだけさ」

「そうなのですか……」

「まあそこら辺の込み入ったことは、着いてからゆっくりと話そう」

「着いてからって……、今どこに向かってるんですか? 」

「それは、着いてからのお楽しみ」

 男はニヤッと笑った。

 どうもその笑顔は、僕の不安心を掻き立てる。

 あぁ、何と。僕は変な先輩(?)に絡まれてしまったようだ。この先どこへ連れて行かれるのやら……。


 男に引きずられている道中、その光景は目まぐるしく変わっていった。

 さっきまで僕たちは、灰色のコンクリートに囲まれた通りを歩いていたのだが、そこを過ぎると、巨大な室外機と一緒に、何が通っているのかもわからない銀色の配管がところ狭いしと詰まった空間を通り抜けたり、もう完全に使われなくなったのだろうか――壁を縦横無尽に走るヒビから茶色く漏れるサビが目立つ廃校舎の中を通り抜けたり、そうかと思えば、コンクリートの高くそびえる建物で陽の当たらない暗がりの下深くにある、周囲を完全に舗装された小川が流れている場所を横切ったり、とにかくこの学校の見たこともないような場所――無論、この学校はとんでもなく広いため入学早々土地勘を得ることは不可能に等しい――を通り抜けていった。

 その早足の道中、心なしか階段を少しずつだが登っている気もする。

 僕たちはそうやってこの学校の不可解なまでに複雑で不気味な建物の間を縫うようにして抜け、ようやくコンクリートから抜け出すことに成功した……のだが、今度僕たちの前にはだかっていたのは、うっそうと草木の生い茂る茂みだった。

「あの……、すみません。まだ歩くんですか」

「ん? そうだねえ。この森を抜ければ着くよ」

 僕はこの人に、道を迷ったから案内してほしかったはずだ。それなのになぜ、僕は今、何処かの部活にお邪魔しに行ってることになっているのだろうか。そんなことはどうでもいいから、僕を早く家に返してほしい。

 男はなおも歩く。僕はなおも引きずられる。

 森に入ってからの道は登山道と変わりなかった。とにかく歩き辛い。それにこの男の人に袖を掴まれながら歩いているものだから、バランスが保てず余計にグラグラする。

 森の中は何も人工音がしない

 聞こえるのは、僕とこの男の人が歩いて枯れ葉や木の根っこを踏むときの音と、鳥や虫の鳴き声のみ

「本当にここは学校の中なのですか? 校舎からもだいぶ離れたようですが……」

「もちろん、ここは学校の敷地内だよ。この学校の敷地面積は全国随一だからね。高度経済成長期に山を切り開いて幸塚高校が建てられた頃、ここらへんは自然との触れ合いの場として開発されずにそのまま残されたんだ。貴重な資源も残されてて、敷地内にはいくつかの湧き水ポイントもあるんだ」

 見知らぬ男に引きずられながら歩く道中は、いつしかハイキングの様を呈してきた。

「おっと」

 男は突然立ち止まる。僕は思わず、男の背中に顔をぶつける。

「……、あっ、すみません」

「いいやいいんだよ。気にしないでくれたまえ。それよりもまず君に見せておきたいものがある」

 そう言ってすかさず歩き始める。丈の低い草木の生い茂るヤブの中を進むと、目の前には大きな泉が広がっていた。

 青く澄んだ美しい水を湛えた美しい泉

 周囲には一つとして人の手が加わった痕跡がなく、自然の摂理によって出現したものだということがわかる。

 僕はしばらく見入ってしまっていた。

 山紫水明とはこの場所のためにあったのか。

「ここはね、生徒会の奴らにも見ずかってない場所なんだ。まあ、見つかったところでどんな手に出ようとも私達の手でその目論見は阻止するのだけどね」

「なにか生徒会に見つかると良くないことでもあるんですか? 」

「そうだな。その辺に関しても着いてからのお楽しみ」

 すると男は急に「じゃあ、行くか」などといい、この美しい泉の織りなす余韻に一切浸ることもなく、唐突に僕を引っ張って歩き始めた。

 なんだろう。この人は伏線を張るのが好きなのか?

 それから、山道に戻るとその先にある緩やかな左カーブを上っていくと開けた平地に着いた。

 そこには白い大きな建物があった。

 横に広い円柱状の四階建ての建物で、見立て僕たちがさっきまで居た校舎と変わらないくらいの年季が入っていつのだが、その壁の一部を鮮やかな緑色の蔦が覆っている。

「ようやく着いた。ここが私達の部活が入ってるところだよ」

「やっぱり勧誘だったんですか! 」

「あら、言ってなかったかな」

 言ってない!

 男は僕の不満をよそに歩みを進める。周囲には大掛かりな家庭菜園のような畑があり、そこら辺には鶏が放し飼いにされていた。向こうのヤブのそばではヤギが紐に繋がれていて、地面に生える草を食べていた。

「すみません。そろそろここが何処なのか教えてもらっていいですか? 」

「ここは、文化系の部活動のための施設だね。高度経済成長期にこの学校が建てられたのと同時にこの施設も建てられたんだ」

「ずいぶんと古いですね」

「でも建物としてはしっかりとしているよ」

「ということは、この建物に文化系の部活動がみんな入っているんですか? 」

「いいや、残念ながらそうではない。生徒会直轄の部活動は、みんな下にある生徒会管理下の『課外活動棟』に行ってしまった」

「生徒会直轄って……、生徒会が公認していない部活動があるんですか」

「あぁ、そうさ。ここの建物、通称『平凡荘』には、生徒会から公認されていない部活動がひしめき合っているんだ。そして、ここにいる者は『平凡民』と呼ばれている」

「平凡民……」

 その名前には似つかわしくない風景が僕の前に広がっているのは気のせいだろうか。

 平凡荘の屋上には誰が作ったのかわからない手作り感満載の風力発電機が数台回っていて、屋上の入り口と思われる構造物には、なぜだか円を描くようにして椅子が囲われていた。

 三階のベランダには八木アンテナやパラボラアンテナがバリケードでも築かれたかのように無造作に積み上げられていた。

 二階のとあるベランダには、何処のメーカーで何処の車種かも分からなくなってしまったバンパーやシート、タイヤなどが渦高く積み上げられ、地上に降りるためのハシゴがかけられている。

 同じくその隣には、「生徒会を直ちに断罪せよ!」「生徒会長の横暴を許すな!」などといった猛々しいプラカードがかけられているかと思えば、金星人云々、木星人云々、UMA云々が魔法陣かどうかわからないが、奇怪な図形と難読文字とともに巨大な立て看板に描かれていたりもした。

 それに、魔法使いみたいな格好をして、巨大な杖を持った人が僕の横を通り過ぎたりもする。

 平凡荘の隣には、多分アマチュア無線か何かで使うであろう高くそびえる鉄塔があるのだが、その上には見たこともないくらい大きな鳥の巣が築かれていた。コンドルでも住んでいそうである。

 僕はそのまま引きずられながら歩いていると、平凡荘の玄関屋根の上に立っていた学生二人が話しかけてきた。手には、インパクトドライバや電動丸ノコを持っている。

「やあ、管理人さん。今お前が捕まえているのは新しい部員か」

「ああ、そうだよ。早いうちに体制を整えておかないとね」

「そのうち俺らのところにも部員を紹介してくれよ」

「断る。部員というのは自らの足で発掘するものだ」

 待て待て、今何と言った?

 新しい部員? 管理人?

 僕は別にそんな重要なことを承認した覚えはない。それに僕は、この「管理人さん」と呼ばれる人に発掘された覚えはない! そもそも、この人は本当に学生なのか?

 男は重いガラス戸を開ける。薄暗い建物の中からビュウーッと冷たい冷気が流れ出す。

 中に入ると、予想通りではあったが、そこら中にダンボールの山や使用意図のわからない大小の雑多な物が積まれていて、壁にはいつの時代かもわからないポスターや張り紙が折り重なるようにして貼られている。かろうじて、中央の通り道だけは確保されている。

 中央には重厚な造りの螺旋階段がそびえている。

 僕は相変わらず管理人と呼ばれる男に引きずられ、廊下をすぐ左に曲がったところにある部屋へと連れられた。ドアの上にあるプレートには

  

  神霊研究会兼管理人室


と書かれてあった。

 僕は部屋に入るやいなや、

「やあ、君。お疲れさま。とりあえずもうひとりが来るまで、いや、願わくは数人の団体さんが来るまで、そこの椅子に座っておきたまえ」

 と、指で刺されたところにあったラウンドテーブルを囲んでいる椅子の一つに僕はすごすごと座るのであった。

 部屋はインスタントコーヒーの匂いが染み付いている。

 聳え立つ本棚にはもう入りきれないほどに本やバインダー・茶封筒などが押し込められ、それでも収まりきらなかったであろう物は、ローラー付きの透明なプラスチックボックスに詰め込まれている。部屋には水道が備え付けられていて、ポットや電子レンジ・冷蔵庫もあった。物こそ多いもののそれなりの整理整頓は施されたようだ。

 はんてんを着た男は、窓際にあるどっかりとデスクに備え付けられたデスクチェアに座る。

「いやー、久々に歩いたよ。春休みはずっとここに引きこもっていたからね」

 男の座ったデスクにもやはり、本や書類などが山積みになっている。インターネットが通っているかは知らないが十五インチほどの標準的なノートパソコンが一台置いてある。

 僕は居心地悪そうに椅子に浅く座り、男に話しかけた。

「すみません。今僕が置かれている状況が見当もつかないのですが、あなたは僕を入部させるためにここへ連れてきたのですか? 」

「ああ、そうだとも」

「でも、そんなこと僕は一つも言ってないじゃないですか。それにここがどんな活動をしているのかも一切聞いてないです」

「あら、そうだったかな? でも、君が僕の質問に答えたとき、その答えはたった一つの意味を持ってはいなかったと思うのだけどね」

「どういう意味ですか」

「それは自分自身の心に聞いてみないと」

 自分自身の心に……

 ひとまず僕はその問いに対する推論を保留することにした。

 時が経てばわかることもある。今はわからなくても、それは時が答えを知らせることだろう。答えが見つからないからと言って。別に死ぬわけじゃあるまい。

 それよりも前に僕は今聞いておかないと死んでしまいそうなことがある。それも大げさなんだけど……。

「あの……、すみません。僕、さっきから聞きたいことがたくさんあって困るのですが」

「ほほう。では何からでも好きに聞いてみたまえ。まあ、その答えの正確性は一切保証できないけどね」

 ずいぶんといい加減な人だ。

「あの、名前から伺ってもいいですか」

「答えないとだめ? 」「はい」

「でも、私は君の名前を知らないにもかかわらず、こうやって僕の部屋に君を連れてきてそこに座らせても全然気にならないよ。だって世の中、知らない人ばかりだから」

「でも、僕は気になります」

「そうか、わかった。では君の名前から聞こうか」

「僕の名前は、川霧結です。今年入学したばかりの一年生です」

 男は目を一瞬大きくした――驚いたような、感動したような、いろいろな感情が混ざりあった好奇心の目。男は、それまでどっぷりと座っていた椅子から少し前のめりな姿勢になった。

「ほう……、かわきりくんか。かわきりというのは、山から海に向かって自然に流れる水の道という意味の『川』に小さな水滴の粒が空気中を漂うことで視界を妨げる現象という意味の『霧』で、川霧くんなのかな? 」

「はい」

「ということは……、君は清玉宮神社を護る川霧家のご子息ということなのかな? 」

「はい……、あの……、そうかと言われればそうなのかもしれないのですが、確かに僕はそうらしいのですが、今はそこに下宿してるだけで他は何も知らなくて……」

 半ば不安そうに僕は答えた。

「何も知らない……」

 男は少しうつむいた――少し残念がったような、否、他の考え事にしばし耽っているようなそんな顔をしていた。

「あれだけの名家なのに、そしてその名家の内の一人だというのに何も知らないというのは、ずいぶんと不可解な気もするのだが……、まあいい。これから君に探ってもらうこともあるだろうから」

 男は満足げに笑った。僕は薄らと不安げな笑みを浮かべた。「探ってもらう」とは、僕はこれから一体どんな目に合うんだ。この男の何を考えているかもわからない笑みは僕をただ一心に不安にさせる。

「で、それはそうと、次は私の自己紹介だね。私は奥田川成明おくたがわなりはる、『神霊研究会しんれいけんきゅうかい』の部長をしている。よく、『しんれい』という言葉を聞いて心に霊の『心霊』を想像する人が多いのだけど、この研究会で相手にしているのはその類ではなくて、神に霊の『神霊』を研究しているんだ」

「それは何か違いでもあるのですか」

「おっ、どうやら興味があるようだね。さすが私が探してきただけのことはある」

 そういう訳ではない。ただ、この先に巻き起こるかもしれない不安感を事前に払拭しておきたいだけだ。

「心霊と神霊の違いは、それほど難しくはない。『心霊』の方は、いわば人間や動物に宿る魂のことだ。まあ、*しんれい*といえば必然的に多くの人はこちら側の方のことしか知らないのだけれど、でも私達の研究会では、それ以上のより本質に迫った事象を探っていんだよ。それが、神に霊の『神霊』だ。これは読んで字のごとく、神様そのものだということなんだけれど、この研究室では神霊と心霊は不可分の存在だと見ている。これは、それぞれ独立した存在ということではなくて、心霊は神霊に内包される意味的概念であろうと見ているということだね。なぜそう思うのかというと、例えば、菅原道真公のように人の霊魂が怨霊となってそれから神として祭り上げられた人もいれば、天狗のような妖怪とされていたものが神として祭り上げられることもある。逆に、それまで畏怖の対象として崇められてきた存在が逆に妖怪のような別の意味での恐怖の対象として生まれ変わることもある。これらに何か明確な違いがあるのか。おそらくきっと無いんだ。人や獣の魂は心霊であるが、それらは総称して神霊の一部であるというのが、我が研究会が唱えている仮説だ」

 奥田川さんは満足げに笑った。

 好きなことを語りだすと、周囲が見えなくなる性格なのだろう。

 ただ説明が長すぎて、言っている意味がよくわからない……。

「まあ、部に関する説明は以上かな。自己紹介とかその辺のことは、後からみんな戻ってきてからにしよう。それで、何か質問はあったりするかな? 」

「……随分とオカルトチックな部活動ですね」

「オカルトチックねー……。まあ確かに、世の中にある心霊的現象を研究するという意味では、それは他の部活より群を抜いてオカルトチックで超常現象的なんだろうけど、でも実際は違う。そう、まるっきり違う。百八十度違う」

「どう違うのですか」

 奥田川さんがさっきよりも更に前のめりになった。

「この研究会は本質的に無神論なんだよ。神様を信じていないんだ。まあまあ、そんな意表を突かれたような顔をしないでくれよ。私は、別に君を驚かそうだなんて思ってない。本当のことを言ったまでだ。で、話を戻すと、まずなぜ無神論だと言えるのかだね。この研究会が目的とするのは、神霊とそれらにまつわる諸現象の『理解的解明』なんだ。信じることではない。これがどのような意味を孕んでいるかと言うと、例えば、世界中で信仰されている宗教と呼ばれるものは、往々にして、神様・仏様を一心に進行している。実在する個人を崇拝することもあるけれど、これもまあ同じことだろう。そして、これらは、自らの感知できない超自然的対象に縋っているとも、そもそもその存在を疑っていないとも言えるよね。対して私たち神霊研究会は、それらに疑いを持って接していて、それどころか、『神霊』と呼ばれる存在と対峙している。『神霊』にすがること無く、むしろ研究材料にしようとしているのが私たち神霊研究会ということになる」

「うーん……。やってることは、なんとなく、漂う空気のようなものを感じ取りはしました」

 でも、*理解*は一生かけても追いつきそうにない。

「それで、この研究会は具体的な活動というのは……? 」

「それは追々話すよ。必要なときに必要な分だけ話す」

 はぐらかされた!

 そして、奥田川さんはデスクの隣の窓から外を覗きながら、

「おお、戻ってきたようだね。どうやら今日の勝負は私の負けのようだ。後で、追風になにか奢ってやらないと」

 はて、何のことやら。


 バタンッ!

 部屋のドアを勢いよく開けて威勢の良い耳障りなくらいに元気な女子高生が入ってきた。

「ハルちゃーん! おまたせー」

 ハルちゃん? あぁ、奥田川さんのことか。随分と可愛らしいあだ名で呼ばれているじゃないか。意外にも程がある。

「その名前で呼ぶな、追風。それは、幼稚園のころまでのあだ名の筈だ! 」

 そして、この人が追風さんというのか。

 幼稚園……。ということはこの二人は幼馴染?

「いーじゃん。うちはその名前、気に入ってるんやから! 」

 随分と可愛らしい名前で呼ばれてるじゃないか。

 それから追風さんは、僕の存在に気がつく。

「おっ! ハルちゃんも新しい子見つけてきたんやね。でも残念ねぇ。今日の勝負はうちの勝ちやから」

「どーやらそのようですねー」

 ハルちゃんが照れくさそうに、チェアに深く沈み込む。素直じゃないなあ。

「おーい、ふたりー! 入っておいでー」

 そう言うと、部屋に二人の女子高生が入ってきた。一人は、高校生とはとても思えないどこからどう見ても高校の制服を着ただけの小さな子で、もうひとりは、かつて何処かで見覚えのある目をした……

 そのとき、僕は強烈な衝撃を伴う突き刺さるような痛みを心に感じた。

 どうして彼女はここにいるんだ、という根拠もない不安感が僕の中で渦巻き始める。

 既視感と呼ぶべきか、或いは、デジャヴュと呼ぶべきか……。

 僕の記憶の中では、存在してはならない筈の人がいる。

 彼女を初めて目にした筈であるにもかかわらず、唖然とした表情で僕は彼女を見ていた。


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