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スガノ神霊譚  作者: 弱酸
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八章(2)

 僕は宇佐原の話を只じっと聞いていた。

 今の僕に、宇佐原に対してなにか気の利いた言葉をかけてやれる自信は毛頭ない。

 実家と疎遠でいびつな家庭環境だった僕は、かつて自らのことを世界で一番不幸な存在と思う時があったことを思い出し、僕はかつての僕を恥、そして責めた。

 僕は、なんて軽薄な人間だったんだと。

 世の中には、声を挙げることもできなくて、ここまで追い詰められた人がいるじゃないか。相手の気持に慣ればいいなんて、そんな口からでまかせのような真似を僕はしたくない。今の僕がまさしくそうであるように、相手の気持を知れば知ろうとするほど、僕が過去に感じてきた様々な苦しみや孤独感・疎外感とは、全く異なる闇で渦巻いていて、僕にな何も見えないことを思い知らされる。

 人のために生きるなんて言葉が、どれだけ相手の心を無視した薄情さに満ち溢れていることか……。

 ただ、僕自信にとって、最も恐ろしいのは、彼女、宇佐原が自らの暗い過去をこうも淡々と話していることだった。彼女の心が決壊していること現れなのだろう。それなりに凡庸に生きてきた自分自身ですら、自らの暗い過去を他人に語るのは躊躇するし、仮に話したとしても話した後の後味は最悪である。

 本来なら語らないのだ。語れないのだ。

 そんな暗い話は、普通心の奥底に捨ててしまうものなんだ。

 向き合ったら、自分自身が壊れてしまうんだ。

 それでも彼女は、話してしまう。

 もう、心のダムが決壊しているから、それすらも感じられなくなってしまっている。

 彼女の心に広がるのは、灰色に染まる瓦礫と深い霧に覆われたの世界だ。冷たい雨が、シトシトと降り、徐々に彼女の生きる力を奪っている。

 僕にはどうしたらいいのか分からなかった。

 けれど、僕は宇佐原を抱擁していた。

 彼女の心がこれ以上、冷え切ってしまわないように……

 彼女が消えてしまわないように……

 僕はただ、彼女がそうであってほしいと望んでいるのだった。

「僕と君の家は『不幸の家系』なんだよ。僕らが生まれるずっとずっと前から、みんな不幸を連鎖させてきたんだ。そして、僕も君もその末端にいるだけで、僕らのせいじゃないんだ。ただ、時代の流れが、歴史のいたずらが僕らをこんな状況に貶めてしまったんだ」

 宇佐原は弱々しく言う。

「でも……、でも……。私にはわからないの。もう、何もかもがわからないの……。どれだけ頑張っても、だれも認めてくれない。何が正しいのかわからないの……」

「君は自分自身を責めなくていい。君は何一つ間違っちゃいない。君のこれまでの人生の選択はどれも正解だったんだ。百点満点だ。それ以外の答えは到底考えられないと言っていいくらいにね。だから、もうこれ以上、自分自身を傷つけないでくれ。君を取り巻く何もかもは、みんな運命のせいにしてしまえばいいんだよ」

「だけど……、どうすればいいの……。どうすれば、こんなつまらない私は、生まれ変われるっていうの……」

「そんなの簡単だよ。少し不真面目くらいに生きればいいんだ。家族の期待とか、そんな重たいものは捨てちゃってさ、自分が何をしたいかとか、自分にとって楽しいことは何かとかを沢山考えればいいんだよ。他人の期待に応えるなんて荷が重いよ」

「……けれど、私にそんなこと出来るかな……? 私にそんな勇気出せるのかな……」

「大丈夫、大丈夫。それに関しては、僕が保証する。君がその一歩を踏み出せるように、僕が手助けするから」

「……うん……。わかった……。……ねえ、川霧くん……」

「なんだい? 」

「私、泣いていいかな……? 」

「ああ、いいとも。人のことなんか気にしないで好きに泣けばいいよ」

 それから、宇佐原れなは、僕の肩の上で、声を上げて泣いていた。

 これは、宇佐原にとって、赤子以来のことであった。

 本殿の前で泣き声が響き渡る。

 今日はいつになく、彼女の泣き声に美しさを覚えていた。その涙は、彼女の心の瓦礫に埋まっている希望という名の一粒の種子に注がれているのである。

 今日の星は、一段と綺麗な気がした。

 光が溢れ出している。


 日曜日の午前九時頃、昨日の疲れもあってか爆睡状態であった僕は、また廊下で目が覚めた。二回目となると、その事実に対して驚きを覚えなり始め、人間の持つ適応能力の凄さに僕はある種の驚異を感じていた。

 ちなみに、僕が昨晩こっそりと帰宅すると、うちの童女は、あろうことかゲーム機のコントローラーを手に持ったままうつ伏せで寝落ちしており、神様の俗化現象は留まるところを知らない。それに、ステージの進む速度が結構早い。もう君、ゲームの神様になったら?

 昨日こいつの姉さんから貰った「お返しの形代」は、取り敢えず、こいつの頭の上に置いておくとした。

 起きて間もなくのところで、僕は「あの人」から電話がかかってきた。

 ディスプレイには「奥田川さん」と書いてある。

 僕は電話に出た。

「……はい。もしもし」

「やあ、川霧くんかな? いやいや、調査の方はご苦労であった。それにしても、通知の件数には驚かされたよ。一体君は、僕に何回電話をかけたんだい? 」

「いやいや、驚いたのはこっちの方ですよ。こっちは頼まれて調査に出てるって言うのに全然連絡取れないじゃないですか! もしかして、僕は奥田川さんに踊らされているんじゃないかって思いましたよ! 」

 僕は、少し語気を強めていってみた。少なくとも、こうでもしないと電話越しでは怒りは伝わらないものなのだ。特に、奥田川さんのような人に対しては……。

「いやいや、君が私に踊らされているのは、あながち間違いじゃないよ」

 否定しろやいっ!

「はははは……。冗談だよ、冗談。君には本当に努力してくれたと思っているよ。私が電話に出られなかったのは、単にこちらの仕事が立て込んでいたからだなんだよ。生徒指導の先生二人が絡んできて平凡荘内部で色々と大騒ぎだったんだ」

「昨日と一昨日の話ですか? 」

「まあ、厳密に言えば、木曜日からついさっきまでだったんだけど、君に案件頼んだときに、私は、学内で能面をかぶった女子生徒が出没するって言ったよね。あれは、ある意味私が正しく君に情報を伝えていなかった部分もあるんだけれど、実際は、能面の女子生徒出没事案は、学外にまで及んでいたんだ。それに、近所の人から学校に直接連絡もあったそうだ」

「ああ、その話なら聞いてますよ」

 香春から。

「あら、そんなこと私は君に話したのかな……? まあいいや、それで木曜日に、その件を生徒指導の先生が私に問いただしてきたんだ。一体、何のつもりだとね。でも、そんな話は承知してないし、それに平凡荘の部活動を全て把握している私に認知していない部活はないと突っぱねたんだ。だがね、今でさえ生徒会側とギリギリのところで均衡を保っているというのに、何かこちらが不誠実な印象を抱かれてしまっては、平凡荘の将来も危ういだろうと思って、平凡荘の入居者で自主的な『能面女子生徒』の探索と捕獲作戦を決行することにしたんだ」

 全くあきれた。

「……そんなことなら、事前に僕にも伝えておいてくださいよ! そんな事情があったのなら、僕だってそれを見越した行動を取るんですから! 」

 この人には、情報を部員に正しく伝えるという責任感は無いのか!

「はははは……。いやいや、君の活動は、確かにこの件に強く結びついてはいるけれど、直接的には関係なかったからね。むしろ、神霊研究会としてのフィールドワークという意味合いの方が強い。必要最小限の情報しか提供しない私のさがによるものだ。それに、祠は存在しないだろうことは、最初から感づいていた」

 は⁈ 今この人なんて言った。祠は最初から無いと思っていただと⁈

「いやいや、奥田川さん。最初僕に言ったことと、ぜんぜん話が違うじゃないですか! 僕は、祠が存在するかどうかを確かめに行ったのに、無いと思っていたのなら行く必要はなかったじゃないですか! 」

「まてまて、行く必要はあったんだ! 落ち着きたまえ。その必要性は存在したし、君のその結論のお陰でこちらとしても色々と助かったんだから、そう怒らないでくれよ、川霧くん」

「でも、無いと分かっているのに探しに行かせるのもどうかしてるじゃないですか! 」

「それは、君のモチベーションを保つための必要な嘘だったんだよ。無いと分かって探すよりも、取り敢えず希望をいだいて探すほうが、探索は苦しくないからね。だってそうだろう? 希望のない人生を生き抜ける奴なんてこの世の何処にいるというんだ? 実現可能性というものが、あろうが無かろうか、とりあえず根拠のない希望を持っていさえすれば、たとえその結末が、ハッピーエンドでもバッドエンドでも最後までやり抜こうという気概が保たれるものなんだ」

「はぁ……、それにしても、どうして祠が無いと分かっていたんです? 」

「九郎丸の町内に『須賀神社』っていう祇園信仰の別の神社があったからだよ。まあ、『祇園信仰』の部分に意味はないんだけど、町内に一つの神社があることが重要なんだ。この神社は、今日こんにちの世の中においては、その九郎丸町内の氏神様なんだけど、この神社は、かつて『八景村』があった九郎丸五丁目に存在していて、九郎丸村のあった一丁目と二丁目からは、小山を挟んで随分と距離の離れたところに立地している。このことが重要なんだ。つまり、明治以降、九郎丸村を中心に周辺の村々が統合されたわけだけど、それと同時に『信仰も統合された』のではないか、ということだ」

「つまり、九郎丸祠もその頃に統合された……」

「そうなんだ。まあ、具体的には『神社合祀政策』というんだけどね。当時の神道は国家祭祀で、国が教派神道を除く全国の神社を管理していたんだけど、しかし、日本がそれまで育んできた多様性が生み出した膨大な数の神社や祠などを全て管理するのは、財政的に困難だった。そこで、行政の合理化のために一町村内に一神社でまとめて、町内の活動を神社中心に執り行うようにすれば、国としても都合が良かった。その政策が洲賀野地方でも結構実施されたみたいで、おそらく、九郎丸祠はそのころに、町内の須賀神社に移された」

「ということは、その神社に九郎丸祠があるんですか」

「うん、あったよ。このことは、君に動いてもらう前から分かっていたから。でもでも、このことで怒られちゃ困るんだ。確かに、九郎丸祠は、町内の神社に境内社として存在していたんだけれど、もしかすると、神社の外にまだ別の祠が存在するんじゃないかって疑っていたんだよ」

「それで僕に頼んだと……」

「まあ、そういうところだね。本当は、追風もしくは若宮にでも頼もうかと思っていたんだけどね。彼女らの家は、町内ではないけれど、そこそこ近い距離にあるからね」

「え、なんでだめだったんですか? 」

「祠が神社の中にあることを確認したのは、追風だったんだよ。彼女が毎朝ウォーキングに励んでいるという噂を聞きつけてね。それで、歩く余裕があるなら、神社に行って確認しに行ってくれって頼んだんだ。それで、結局確認してもらったら、祠は存在した。存在はしたんだけれど、とても手入れされているとはいい難く、ほとんど朽ち果てていたらしい。本社とか御稲荷さん、それから薬師社のお社は手入れされていたらしんだけど、もう今日においては、参拝する人もこれが祠だとも気付かなかったんだろう。おそらく、神社関係者にもね。信仰するものが失われれば、それはただのかつての遺物でしかないしね。それで、じゃあ、土日で若宮と一緒に別の祠も探してくれないかって頼んだら、断固拒否されたんだ。そんな体力も精神力も普通の人なら持ってないるわけがないってね。そんなこんなで結局、君に頼むことになった。ちなみに、追風と若宮には、『能面女子生徒』の探索側にまわってもらったよ」

 追風さん、ダイエットしてるんだ……。そこまで太っているようには見えなかったんだけどなあ……。まあ、痩せてるとか、スリムとかは断言し難い部分はあったけれど、それでも、追風さんのあの体型というのは、普通であることによる安心感が漂う風ではあったんだけれど、やはり、当の本人は切実に気にしているのだろうか? まあいい。気にすることでもない。

「それで、その能面の女子生徒は捕獲できたのですか? 」

「ああ、大量に捕獲したよ。生徒指導の先生から目撃地点を聞き出して、『幸塚エクストリーム・スパイ・パーティー3』に捕獲しに行ってもらった。学内の方は、平凡荘の入居者全員で探し回ったよ。取り敢えず、夜の見回りをしに行ってもらったり、追風と若宮を使って女子生徒の情報を掴んでもらったり、あと、能面を探すダウンジングマシンを開発した人とか、宇宙人と交信して探したり、捕獲対象がどこにいるか魔法で見えるとかいう人も結構な人数いたから、それに頼んだりしたけどね。なんだかんだで、効果は結構あった感じだよ。そのかわり、平凡荘の周りが魔法陣でいっぱいになったけどね」

 随分とノイズの多い捜索劇だな。……っていうか、そんな変わった名前のスパイチームみたいな集団いたなあ……。

「結局、捕獲した能面の少女たちは、能面を引き剥がした上で、平凡荘まで強制連行してね、彼女らの前で、そのお面を燃やしていったんだ。これについては、生徒指導の先生も立ち会っている。それが土曜日のことだったかな。ただ、萌田先生は、いたりいなかったりしたのだけど……」

「お面を引き剥がして燃やすとは結構辛辣な処遇ですね」

「別に見せしめでやったわけじゃないよ。全ては、彼女らのためだ。彼女たちは、お面にすがったがためにこのような事態を引き起こした。第一、世の中、願い事を都合よく叶えてくれる神様なんていないんだよ。神様は只見守っているだけで、むしろ、天罰を加えることの方が多い。だって、そもそも神様というのは自然に対する畏怖の現れなんだからね。だから、願い事の叶えるグッズなんてのは擬物だろう。結局は、自らの努力なしでは夢は掴めないんだ」

 そんなことを、今もまだぐっすりと寝ている、うちの神様も言っていたっけ……。

「何はともあれ、これで万事解決だ。一連の捜索で、生徒指導の先生に平凡荘の犯行で無いことは知らしめることが出来たし、これで平凡荘は数日間の危機を脱したわけだ。しかし、これで解決したわけでないことは、君も分かっているだろう? そう、犯人がまだ捕獲できていないんだ。祠がもはや存在していないことで、あのお面を配って回る男の足取りも掴めないままだけど、これは仕方ないことだとは思うよ。だって、その男が本当に存在するかどうかすらも分かっていないんだからね。我々、平凡荘の民は、謂れのない風評被害を払拭するために、日々公正である努力をするしかないし、今後も事件が発生すれば地道に対処していくよ」

 奥田川さんには、あまり深追いする趣向はないように見てとれた。むしろ、自らのテリトリーさえ守られれば、他のことは気にしないかのようであり、またある意味で、加害者と被害者という対極の存在を大して区別していなかった。

 電話中、所々の呂律がまわっていない気もした奥田川さんは、「ああ、眠い眠い。これで三徹目だよ……」という言葉がこの電話の最後だった。

 僕は、未だ起きない童女に目をやる。頭にのせた形代の人形は、先程から微動だにしなかった。

「おい、さっさと起きるんだ。何時だと思ってる」

 僕は、今日も彼女の肩を揺すっていた。


 奥田川さんは、この一件を勝手に解決したことにしてしまったが、僕にとって、そして宇佐原にとっては、まだ終りを迎えていなかった。

 本番はこれからである。

 ……と、その前にささやかな吉報を読者諸賢にしらせるとしよう。二泊三日で僕の部屋を占拠していたあの童女の本殿の鍵が直ったことを秋継さんから知らされたのだった。童女は、たいそう喜んだ様子であったが、しかし、ゲームがまだ全クリアしていないという理由で僕の部屋に留まろうとしたのだ! これは僕と秋継さんが全力で阻止した。童女はまたこれまで通り、清玉宮神社の神様として振る舞うのだが、非番のときは遊びに来るらしい。非番の神様ってなんだ?

 それに、今日という日もまた例外であった。

 奥田川さんが満足して、僕が満足していないこと。それは、今回の件の元凶を捕獲していなことである。しかし、犯人の所在は掴めず、手掛かりもない。ただ、童女が指摘していたように、このお面を配り回っていた犯人が「人間ではない」ことが、犯人を推定する上での重要な鍵だった。

「ならば、呼んでくればよかろう」

 これは、豊原姫の提案だった。

 僕が童女を結局叩き起こした後、約束通り、宇佐原れなと豊原姫が家にやってくると、良子さんと秋継さんが快く迎え入れてくれた。宇佐原には、名字を名乗ると場の雰囲気が急降下するため、適当な名前ではぐらかしてもらった。そして、童女に見た目がそっくりな姉さんは、童女の「神友かみとも」ということになった。

 随分とフランクな交友関係の神様である。

 ただ、計算外だったのは、――冷静に考えれば普通に予想付くことはともかく――良子さんが宇佐原のことを僕のガールフレンドだと勘違いしたことである。「……結くん。やっぱりそうよね。そりゃそうだよね。普通にそっちのほうだよね……」と、顔を赤らめながら言っていた良子さんお言葉を僕は未だに理解できずにいた。

 そして、僕と宇佐原、洲賀野の二神が僕の部屋で一同に介して、今朝の僕と奥田川さんにやりとりを話した後、先程の姉さんの提案があった。

「相手は恐らく人間ではなかろう。たぶん、物の怪の類か何かやろうけど、まあ、兄さんの言う通り、九郎丸祠とかいう祠の神なんやったら、呼ぶのは簡単やぞ」

「姉貴の言う通りちゃ。ただ、世の中、信仰の失われた神なんぞ、腐るほどおるっちいうもんやけど、参拝するやつもおらんのに、神だけおるっちいうのは、あり得ん。信仰する奴がおらんくなったら、死ぬのが神の定めやけんの。やから、そいつは多分、『神から堕ちた物の怪』なんやろう。元神様もとかみさまっちいうことよ」

 千年以上生きてきた姉妹の話には、確かな説得力があるのだが、この姉妹、あまりにもそっくりすぎである。喋り方だけでは、簡単にどちらか判別できない。僕のことを「結」「お前さん」などと呼び、姉さんのことを「姉貴」と呼ぶのが童女で、僕のことを「兄さん」と呼び、妹の童女のことを「あの子」と呼ぶのが姉さんであることを深呼吸しながら意識しないといけない。本当に、髪の色だけでも違ってよかった。

「でも、呼ぶにしたって、どう呼べばいいんだ? 今の僕らには、何も手掛かりはないんだぞ。相手に、伝える手段すら無い」

「お前さん、まだ気づいとらんのかね。相手は曲がりなりにも元神様やぞ。やったら、神を呼ぶやり方で、そいつを呼べばいいんちゃ」

 ん……? この童女が言っていることが僕には理解できない。というより、童女と僕の間に明確な知識の差がある。

「ああ、兄さんはあんまり詳しくないみたいやな。やったら、れなよ。お前さんがこの兄さんに教えてやり」

「ええ、わかりました、豊原姫様……」

 そして、すっと僕の方を向く。

「川霧くん、このおふた方が言わんとしていることは、相手が元神様で、しかもその依代の残骸がまだ神社に現存しているということは、その依代に再度、元神様を再度勧請することが出来るかも知れないとう言うことよ。そうすれば、私たちは、その犯人に合うことが出来るのかも知れない」

「うーん、そんな都合のいい話があるものなんかなあ。なんだか、突飛に感じるんだ。それに、犯人が物の怪の類であるという説もいまいち納得がいかない」

「なん言いよんね、兄さん。信仰ち言うのは、人間の信仰が形作るもんなんよ。こんなメタいことをうちの口から言わせんでよ」

「うーん……、ということは、犯人に会える会えないは信仰心次第だと……? 」

「そういうことやね。今回のに関しては」

 僕らは、犯人を信仰しないといけないのか。

 ……まあ、これらの疑惑は、実際に検証してみないとわからないところではある、というのが僕の思いだ。


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