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第一章、第四節

「はぁ……」

 正面のドアが閉められた後、俺は大きなため息をついて椅子に座り込んだ。



 突然の戦闘。まともな戦いであったかと言われればそうではないが、神経がすり減ったことは確かだ。

 今後こういうことがないことを祈りたいものだが、ここが異世界で自分が魔王であるとしたら、そう簡単にはいかないだろう。

 覚悟はしておかないといけないのかもしれない。


「魔王様、大丈夫?」


 サキュバスの少女が俺の顔を覗き込んできた。どうやら、俺のことを心配してくれているらしい。

 まだ幼さが残る少女。亜人ではあるが、頭の角と背中の羽さえ除けば人の子と大差はない。

 そのあどけない姿に少し心が癒された気がする。うん、幼女っていいよね。


 あっ。別に俺はロリコンではないからな! 絶対違うからな!



 一息ついた後、少女の頭に手を乗せて、笑顔を交えてこういった。


「大丈夫だ。心配してくれてありがとな」


 それにびっくりしたのか、目を大きく開いて驚くが、しかし嫌ではないらしく、「えへへ」と言いながら目をつぶってされるがまま撫でられていた。



 しかし、何というか不思議な気分である。

 娘と呼べるような人は自分にはいなかった。家庭も持たず、ただ仕事に明け暮れた仕事人間である。

 友人は同年代のおっさんだけ。当然仕事仲間もおっさんで、女性との交流など仕事上の付き合いのみで、こんな子供と話しをすることなど、人生の中でほとんどなかった。



 ……娘か。


 自分に娘がいたらこれぐらいの年なのだろうか。

 幸せに暮らせていた自分がいたとしたら。

 もしかしたらこんな子供と一緒に暮らしていたのだろうか。


 人並みの幸せを手に入れられていたら、

 もしかしたら、もっと違った人生になっていたのだろうか……



 


 そんなことを考えていると、突然、正面の門が開かれた。


「め、メル様、リズ様……報告します」


 そういって現れたものに、ぎょっとなる。


(あ、あれは……レッサーデーモン?)


 全身緑色の悪魔のような姿をした異形の生物。

 日本では見たことがない、身の毛がよだつその姿に顔が引きつった。


「ゆ、勇者一行の片割れが……もうすぐ……ここに……」


 全力疾走でもしてきたのか、息も絶え絶えにレッサーデーモンはそう言った。

 異形の姿に意識が飛びかけたが、何とか戻すとこう返した。


「勇者一行?」


 勇者はさっき、リズが客間に送ったはずである。さすがに、話をすると言った手前、暴れているとは思えないんだが。

 そう思っていた矢先、怒声が部屋中に鳴り響いた。


「勇者様!無事?」


 そういって飛び込んできたのは14・5程度の少女であった。

 入り口付近にいたレッサーデーモンを蹴り飛ばし、(それはちょうど飛んできたので俺がキャッチした)周囲を見渡して、魔法使いの魔法で少し焼けていた絨毯を見て、真っ青な顔をしながらこう言った。


「ゆ、勇者様……」


 あっ。これ、絶対勘違いしているな。

 


「あー。勇者なら来客として客間に送った……ぁぁぁあああああああああ」


 ミシッ


 少女は目にもとまらぬ速さで突進してきて、拳を突き出した。無意識に体を反らしたおかげで、拳は当たらなかったが座っていた椅子に見事命中し、大きなくぼみを作っていた。


「ちょっと待て。話を聞け」


 俺は立ち上がると、その場からすぐさま離れる。

 が、彼女の瞬発力はすさまじく、即座に距離を詰めてきた。


「よくも勇者様を! みんなを!」


 そういって拳を振るう彼女。

 間一髪で避けるが、このままでは防衛もままならない。

 手に持ったレッサーデーモンを放り投げると、見様見真似の体術で応戦する。


「だから、話を聞けって」


 半狂乱になりながら殴りかかってくる少女の拳をぎりぎりのところで捌いていく。その間、何度も落ち着けと言って諭すが、こちらの言葉は聞く耳を持たず、だんだん熱が入っているように見える。


 どうしたものかと考えている中、水滴のようなものが顔に当たった。

 ふと気が付くと少女が泣いている。

 勇者を殺されたと勘違いしているせいであろうか。


 女の涙は武器とはよく言ったものだ。

 その姿に一瞬怯み、反応が遅れた。


(やばっ)


 拳が目の前へ迫ってくる。意識が動きに追いついても、体はそうはいかない。


(これは痛いのもらうな)


 そう思って目をつぶった時、


「ふぎゃっ」


 という、情けない声と共に、少女が胸元に寄りかかってきた。


「おっと」


 倒れこんできた少女を受け止る。どうやら気絶しているようだ。


(一体何が……)


 前を見ると、その後ろから現れたのは鋭く銀色に光る槍先。


(ゲッ)


 一瞬血の気が引くが、その槍が動くことはない。

 ゆっくりとその槍の柄を辿っていくと、少女よりも身長が低いものの、それをカバーするぐらい大きな盾を持ち、やたらとごついプレートメイル着た、中年のおっさんがこちらににらみを利かせて立っていた。


「お前が、魔王か?」

「あ、ああ。そうらしい」

「そうか。連れが先走ってすまなかった」


 そういって両手を開いて差し出してきた。


 えっ、なに? 抱き着けって?

 別におっさんに抱き着く趣味はないんだが。


 

 おっさんの行動に戸惑っていると、鼻を鳴らし、訝し気な顔をして俺の胸元を指さした。

 ああ。少女を渡せってことか。


 寄りかかっていた少女を手渡すと、おっさんは肩に少女を乗せ、無言で部屋を出ていった。


「な、なんだったんだ……」

 

 呆然としていると、突然隣から声が聞こえた。


「勇者たちを送っていく帰りにお会いしまして、状況を先に説明をさせていただきました」


 いつの間にかリズが帰ってきていたらしい。

 どうやら事情を理解した上で、少女を止めてくれたらしい。


「おぅ。そうか……」

 

「結構気さくな方でしたよ」



 いや。絶対あれは気さくではない。

 そう思いつつ、俺は頭を抱えるのであった。

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