ギャルゲーにTS転生したわけだが、早く戻してくれませんかね?
精神的BL要素を含みますので苦手な方は戻ることを推奨します
おれは……本気で何をしているんだ?
目の前には美少女ハーレムが仲良く弁当をつつきあっている光景が広がっている。それを眺めるのは楽しい。そりゃもう最&高に楽しい。こんな世界に来た甲斐があったもんだと、通常なら心の中で狂喜乱舞して幸せゲージをカンストさせているかもしれないくらいには楽しい。
あぁ、真ん中に男が居なかったら人生絶好調に楽しかったことだろうなぁ。
「もぅ、楠くんほっぺにクリームついてるよぉ〜アタシ取ってあげるね♡」
「おっ、サンキュー。しかし今日もいい天気だなぁ。お弁当が美味しいぜ」
あぁもうなんだこれ。この男はこんな平々凡々な会話でよく毎日楽しくやっていけるね。テンプレの化身かな?死なないかな?
ボケーっとイヤホンをしながら涼風に浸っていると、目の前からピンク髪の女の子がやって来て、お弁当を差し出してくる。
「櫟ちゃんも、ほら、食べないと!」
「ん……ありがとう。うん、美味しい……」
「そっか、ほら、こっちおいで!」
「あぁ、ぅぅう」
ピンク髪の少女に手を引かれてごみ野郎の元に連れて行かれる。これで目出度くハーレム要因の一員だ。全色揃ってヒロインコンプリート。それはもう日曜のスーパーヒー○ータイムかと言いたくなるような鮮やかな色分けにおれは組み込まれていく。
元の身体だったらきっとふりはらえるその手も、こんな小さな身体になって仕舞えば為すすべがない。
「お、櫟ちゃん!櫟ちゃんも俺に食べさせてくれるのか?」
誰がやるかそんなこと、身の程をわきまえろハゲ。
「やだ……」
「あはは、櫟ちゃんはツンデレだなぁ」
目の前の男が笑う。本気で言っているらしい。どういう脳内変換を起こしたらそうなるのだ?年がら年中脳内お花畑か!と思ったら何故かおれが赤面している……え、何これ何で?
「櫟ちゃん照れ屋さんだもんね〜本当は楠くんのこと大好きだもん、ね!」
「ち、ちがう……」
「照れてる照れてる〜」
「だから、ちが、うって」
ああ、舌がたらない。本当にこういう時は不便だよこの身体。まるでおれが本気で恥ずかしがってるみたいじゃないか。本気で嫌悪しているんだよ、気づけよごみ野郎。
「じゃあ照れ屋な櫟ちゃんには、こうだな」
と、男が手を伸ばしておれの頭に乗せる。長い黒髪が、ワシワシと撫でられる。そのえもいわれぬ感覚に、思わず「ふぁ……」と声を上げそうになってしまった。
「ふぁ……」
出てた出てた、最悪だ。うぅ、でも撫でられるのなんか気持ちいい。むかつく。
「櫟ちゃんは可愛いなぁ」
「ふ、ふぁぁ…」
頭を撫でなでしてくるこの男。ムカつくから惨殺してドラム缶→東京湾コースにぶち込んでやりたいがそうもいかない。ゲームクリアにはどうしてもこの男が必要になる。でなければ、おれは一生こんな黒髪ロリの姿で街を闊歩しなくてはならないのだ。それは困る、非常に困る。
「クリームついてるぜ、照れ屋なお姫様」
惚けていると、突然男がそんなことを言い出した。ん?何事だ?と思っていると、
ペロッ。
と指を舐められる感覚……え、あ?え?は?は?は?は?は?は?ええぇぇぇえぇぇ!?
な、な、な、な、何をしているこのごみ野郎!!変態だ!間違いなく変態だ!!さぁ通報しろ善意の一般市民たち!何を微笑ましそうな顔をして見ているのだ!どう考えても児ポ案件だろうがおいぃぃいぃぃぃいいい!!
「な、な、ひゃ、ひゃぁあ、あぁ、みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!ばかばかばかばかばかぁ!!変態!ろりこん、ごみやろうぅぅ!!」
屋上に、おれという少女の高い声が響く。
気づけば顔を真っ赤にしてその場から逃げ出していた。去り際に自分でも変なことを口走ったのがわかるが、もうそんなことを考えている余裕なんてなかった。赤りんごのように真っ赤になった顔で、屋上のドアを開けようとして、
「ふぎゃっ!」
コケた。
うん、やっぱ慣れないわこの身体。ちくしょう、微笑ましそうに見てんじゃねえよ、ばか。
……
…………
…………………
さて、この状況を説明させていただこう。今おれこと、黒衣 櫟は、美少女たちwithごみ野郎とお昼ご飯を共にしていた。これは設定通りだ。というかイベント通りバッチリ進んでいる。あぁそこから説明しないとか。
何を隠そう、ここは所謂『ギャルゲー』と言われるゲームの世界の中なのだ。ゲームタイトルは《月夜で君に会いましょう》だったかな?あー、知らないよそんなの。心ときめく美少女たちとの学園ラブコメディーを貴方へ!みたいな『THEありふれ』なキャッチコピーに何故だか惹かれて購入してしまったゲーム。あの時の自分を100万回殺してもお釣りがくると思ってる。
舞台は近年建設された学園都市:月の橋市。主人公:茶柱 楠は東京から引っ越してきた転校生。そこで出会うおかしくも心優しい美少女たち。うん、まぁ定番だ。寧ろこんなののどこに惹かれたのか自分を撃ち殺してやりたいくらい定番だった。
Ama○onのレビューが良かったし、なんならゲーム売り場には『あの名作を貴方に』とか書かれてたから、こんなすこし古いゲームを買ってしまったのが運の尽き。わくわくしながら、カセットを入れて起動して、それで……。
はい、THE END♪
最初に飛ばされたのは白い部屋。あー、よくある異世界転生の待機部屋じゃん、とか思いながらキョロキョロしてたら、前方にソファがあって女の子が座って優雅にティータイムしていた。
「だれ?」
女の子がカップをソーサーに置いて、ゆっくりと振り返る。
「死神さ」
この一言で大体察した。あ、死んだんですか俺。
えー、嘘でしょ?まじで死ぬん?ないよー、それはマジでないよー。え、死因何?ポリゴンショック?
なんか遺言というか、友達とふざけて『死ぬ直前に言う言葉』を考えたことがあった気がする。
「お前死ぬ時なんつって死ぬ?」
「我が人生に……いっぺんの悔いなしぃぃ!!」
「ぶはははっ、マジでやれよ!?ジジイになった時にそれお前の葬式の時に、『昔、それを遺言にするぜ!』って言ってたんですってネタにするからさ!」
「マジで不謹慎乙〜!」
なんだこの走馬灯みたいなの。いやいやいや、悔いしかないよこの展開。え、早い、早いよ葬式。なんだよ、100まで生きて酒飲んで死のうって話してたじゃん。まだ16なんですけど、あー、やりたいこといっぱいあるんだけどなぁ。
目の前には真っ白の髪に真っ黒の瞳を持つ美少女。そう美少女だ。16年生きてきた中でこんな美少女初めて見た。その死神と名乗る美少女が俺に言う。
「君は死んだよ、少年。いや、少女?名前は確か」
「櫟。あと少年だ。次間違えたら殺すから」
「そうかい、櫟くん。少年なのか。じゃあ早速で悪いんだが、
女の子になってくれ」
「………………………………………は?」
少女がパチンと指を鳴らす。すると、櫟は自分の体に違和感を感じ始めた。一瞬目を瞑って開いて、という瞬間に何もかもが変わってしまった感覚。
「ふぇ?……あ、ぁ、ぁぁあ、あれ?」
「どうだい?可愛らしいだろう?」
死神が大きな鏡をパチンと指を鳴らして設置する。そこに写っていたのは……
「……黒衣 櫟?」
そこには、ゲームのパッケージに写っていた女の子:黒衣 櫟がいた。俺と同じ名前だったからレビューを見たあたりから気になっていたが正直滅茶苦茶好みだ。幼くあどけないロリフェイス、美しい黒髪、長い睫毛、145かそこらの小さな身長。それが目の前に……って、
「おれ!?」
少女の高い声が響く。その声を聞いて、ますますおれは驚愕する。
「そう君だ。君には僕の実験台になってもらう」
「は!?いやいやいや、え!?なにこれ。戻せよ!」
「死んでるんだからもういいだろう?だが、君がゲームをクリアしたら、現世に戻してあげなくもない。どうだい?単純なルールだろう?」
「……なにすればいい?」
取り敢えずゲームをクリアしよう。死神相手なら恐らくおれは何もできない。それだけのオーラを死神は持っていた。
「簡単さ。ギャルゲーなのだから、主人公が誰かと結ばれればいい。君は、自身がヒロインとなるか、恋のキューピットとして立ち回るかの二択に絞られたわけだ」
「圧倒的に後者だ。前者は死んでもお断りだね………死んだけど」
「適応能力が高くて何よりさ。では、ゲームの世界に移ってもらおうか」
パチンと死神が指を鳴らした。
…
…………
…………………
回想終わり。それからのおれは必死だった。
まずこのゲームには、色で分けられた攻略対象ヒロインが12人存在する。その圧倒的ボリュームも人気の1つなのだろうが、文字通りヒロイン選びをする側としては堪ったものではない。そして、この顔では初対面で相手に舐められてしまう。あぁ、物理的ではなくてね。これで高校一年生なのだから驚きだ。小学生といっても通るのではないだろうか?
「紫式先輩、ちょっといいですか?」
図書室の主と呼ばれるほど読書家の美人パイセン:紫式 檸檬。まずは彼女を攻略させることにした。プレイをしたことはないが、レビューでこの人が2番目に落ちやすいと聞いていた。というかこの状況、実はすでにみんな茶柱 楠に対しての好感度がマックス状態なのだ。だれ選んでも変わらないなら、話しかけやすい人を選択しようと、紫式檸檬を主人公のもとへ引き合せようとする。
結果は最悪だった。
既に主人公の周りに形成されていたハーレムに、突然『紫』と『黒』が加わっただけ。完全に失態だ。
楠の幼馴染の『黄ノ国 双葉』
楠の義理の妹の『茶柱 蓮華』
楠のクラスの委員長『緑淵 柳』
楠のクラスの留学生『エリサ・ブルー』
学園のアイドル『桃姫 ぷらむ』
を筆頭とした12人のハーレムが完成した瞬間だ。中には正体がテロリストの『金崎 瓶子』なんかも混ざっている。今じゃ当初のツンツンした雰囲気はなく、デレリストとかレビューに書かれていたのを思い出した。大体なんなの、なんでテロリスト?
「ふぁぁぁあ……」
気の抜ける声を出して、机に突っ伏す。クラスの男子がチラチラこちらを見ているが全く気にしない。その気持ちは痛いほどわかるからな。
「どーしたのさー、櫟」
話しかけてきたのはオレンジ髪の少女『橙垣 蜜柑』。色はついているがサブヒロインだ。彼女のルートはないと、ウィキでみた気がする。黒衣 櫟のクラスメイトで、友達。おれがこの世界に来た時に最初に仲良くなったのも彼女である。
「なんか疲れた……」
「あやー、意中の楠くんの前でなんかやらかしたー?」
「冗談はその大っきな果実だけにして……なんで蜜柑なのにメロンがついてるのかな」
「うぬぅ、櫟がまた失礼ことを」
いつのまにかハーレム入りしてて、いつのまにか変なふうに可愛がられてて、いつのまにかゴミ野郎のことが好きなのだと勘違いされるようになってしまったおれ。最悪すぎる。でもまぁいい。それも今日で終わるのだ。
「どの道、タイムリミットが存在する以上おれが帰れるのは確定なのさ馬鹿な死神め、くっくっく」
「どったの櫟?」
そう、このゲームにはタイムリミットがある。何を隠そう今日はホワイトデー(笑)。ここまで馬鹿みたいに長かった。ここで本命チョコを返された奴がヒロインに選ばれるのだ。ハーレム入りしてだらだら遊んでたら一年が経過してしまったが、まぁおれの粘り勝ちといえよう。
因みにイベントの執行上、おれもごみ野郎にはチョコをあげている。無論市販のものだ。少し高いやつだったがそこは計算内だろう。
「くくく、あはは、あーはっはっはー!!」
「うわ櫟どしたの!?やばい奴みたいだよ?」
「やばい奴結構!今日もご飯が美味しいな!これで奴とおさらばできるかと思うとせいせいするのだ、ふはは!」
ちっさなロリボディーで精一杯胸を張ってみせる。その微笑ましい光景にクラスメイトたちは和やかな目線を送っていたが気にしない。これでクラスで変にマスコット扱いされることも、よくわからないメイド服を着せられることも、スクール水着を着てプールに入ることも、男子どもから告白されるようなことももう無いのだ!! そう、だから、もうこんな手紙が机に入っていることも…………………あれ?
「て、がみ?」
机の中に入っていた手紙、、気になって開いてみると、達筆な字でこう書いてあった。
--------------------------------------------
黒衣 櫟様へ
放課後、屋上で待っています。
--------------------------------------------
「ん?これだけ?誰かな?」
「なになに?ラブレター?」
「字に見覚えがなくもないけど、まぁアレではないだろうし」
一瞬でもドキッとしてしまったが、PVで見た告白シーンは体育館かどこかだった気がする。うん大丈夫……だろう、多分。
「愛しの楠くん?」
「あんな自己投影型ごみ主人公の誰が愛しだ」
「うぉぉ、照れてる〜」
「くっ、おれが辛辣コメントを述べるとなぜ全て照れてると勘違いされるんだっ!」
「櫟が可愛いからだよぉ」
「……それはありがと」
「可愛い!!ぎゅーー!!」
「むぐぅ、苦しい。メロンやば……」
…
……
………………
「さてさて、こんな可愛いおれ様に告白しようなんて輩は一体どこのどい………ぴゃぁぁぁあ!!!」
「お、遅かったな、櫟ちゃん」
夕焼けをバックに朗らかに笑っているのは、主人公:茶柱 楠だった。
「お、おぉぉ、ぉま、お前!こんなところで何油売ってやがるですか!?さっさとヒロイン攻略、いきやがれですよ!」
あ、この一年でこういうキャラになってるんです。許してください。
真っ赤になりながら早口で捲し上げる。頭がクラクラする。
なんで?なんでこいつがいる?待て待て落ち着け櫟。この状況はすでに告白の後で、浅ましくもこの櫟様が主人公に恋をしていると勘違いしたこのごみ野郎が、正式におれを振るために呼び出したとかそういうのだろう。きっとそうだ、そうに違いない。てかそうであってください。
「そ、それで、なんの、用?」
「あはは、決まってるだろ?」
楠がこちらにゆっくりと歩みを進める。こっちくんな!!
自然と後ずさろうとしたが、数歩下がったところで壁にぶつかって後頭部を打った。いたい……。
「だ、大丈夫か?」
「へ、平気。じゃない、痛い。これでくだらない用だったらおれは………」
ハッと息をのむ。楠は、顔を真っ赤にして壁に手を当てていた。所謂壁ドン……このキャッチフレーズは一体どれだけ使い古された言葉なのだろう?心の中でシニカルにそう思っていたはずなのに。
と次の瞬間、
「う、んんっ!んん、ん」
楠野の顔が近くなり、そしてその唇がおれの唇に重なる。今、このごみ野郎にキスされている。脳がとろけるようだ。血の巡りが早い。なにこれ、なにこれ?変な感じ。なんか、気持ちいい?
「あ、ぁぅ……」
唇が離れる。心臓の鼓動がうるさい。自分の顔が真っ赤なのは、夕日のせいだろうか?いや違う。
______こんな奴に、おれはドキドキさせられてる。
「好きだ、櫟」
「ぁ、う…」
「これが、俺の答えだよ」
無理やりとか犯罪だ、ロリコンだ、児ポ案件だ!そう叫んでやりたいのに、その言葉は紡がれない。脳が混乱して全く言葉を紡ぐことができない。
とにかく逃げよう……今は何も考えられない。これは絶対やばい気がする。
するりと腕の隙間を抜けて逃げようとするも、楠にその腕を掴まれる。抵抗すればいいのに、おれはもう雰囲気に飲まれていた。
「逃さないよ、櫟。まだ、答えを聞いていないんだ」
「ぁう。わ、たしは……」
「うん……」
頭が正確に機能しない。まだバクバクと心臓が鳴り続けている。だから自分の一人称が変わっていることにも気づかない。気づけない。
「わた、し……も」
「うん……」
「す、き……?」
「よかった」
楠に抱きしめられる。その大きな体の温もりが、伝わる。とても安心する。
わたしはもう、ただの少女だった。熱を帯びたように顔は真っ赤で、頭が熱い。
あれ?これ、熱あるんじゃ?
「あぅ………」
「あ、あれ?櫟、櫟!?うわ、すごい熱!?」
「あ、あはは、なんだ、これ。こんぐらっちゅ、れいしょーん」
目の前にコングラッチュレーションの文字が浮かび上がる。はは、ギャルゲーでそんな文字出ないっての。ゲームを知らない死神め……。
自分の意識が落ちていくのがわかる。なんか必至に楠が叫んでいるが、それももうわたしには聞こえない。ただ、その温もりがとても心地よいものだった。
…
………
………………
「………は!?こ、こは」
「お疲れ様、いやー、長かったね〜」
目の前にはあの死神。一年ぶりくらいかな?
「ってことは……わたしはゲームをクリアしたのか」
「そうだねぇ。おめでとう櫟ちゃん。自分の身を呈して主人公を落としてみせた。君は立派なヒロインさ!」
「そっか、えへへ……ん、なんか違和感」
ちょっと待って、何か大切なことを忘れている気がする。わたし?キス?ヒロイン?櫟ちゃん?んんんん?
思い返すは一年前、わたしはこの空間に来た時、どんなだった?あれ、今より髪は短くて、制服は……学ラン!?
「ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「うわっ!びっくりしたぁ!」
思い出した。思い出してしまった。何が『わたし』だよばかやろう!バッチリ雰囲気に飲まれちゃってるじゃないか!!
そうだ、おれは男だ。あっぶな、なんだこの死神最悪だな!!
「あーっはっはっは!!すごく面白かったよ!君みたいな勝気な少年が、恋する乙女の顔をしていたのだから!!写真あるけど、見るかい?」
「み・な・い!!」
「えー、ベストショットもあるんだよ?夕日をバックに口づけを交わす2人……」
「ぎゃぁあぁぁぁぁぁぁあ!!!黒歴史更新だぁぁぁぁぁあ!おれのファーストキスがぁ!!」
未だ少女の姿のままだから、高い声がキンキンと白い空間に響く。側から見たらなかなかシュールな光景だ。
「うぅ……お婿に行けない」
「元々行けないさ」
「んなことがあってたまるか。早く現世に戻せ、そういう約束だろ」
「その可愛い姿で凄まれても怖くないさ。でもま、約束は約束だ。ちゃんと現世に返してあげよう」
「はぁ、良かった。うん、生き返ったらちゃんと恋人作ってこの忌まわしき記憶を無かったことにしよう」
「ふふふ」
「何笑ってんだよ」
「いやなんでも。さぁ、現世に戻すよ」
「そうか。あばよくそ死神」
「あばよじゃないさ……くふふ」
「?」
意識がぼやけていく。最後の死神の笑みはなんか気になったが、まぁこれで晴れて元どおりだ。
目が覚めて、天井を見上げる。うん、おれの部屋の天井だ。全く問題ない。あるとしたら、
「……へ?」
鏡には黒衣 櫟が写っていることだった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
「あっはっはははは!面白い声を出すね!」
後ろを振り向くと、死神がうちの高校のセーラー服を着てベッドに座っていた。
「なんだこれ!?なんでおれまだこの姿なわけ!?」
「なんでって、別に姿を元に戻してやるとは一言も言っていないだろう?僕は現世に戻してやると言ったんだ。命があることを今日も天の神様に感謝したまえ」
「ふざけるなぁぁ!大体どう説明すればいいんだよこれぇ!」
「戸籍は変えたさ。みんなの記憶も、全て君が少女であったというものになっている。やったね☆」
「やったねじゃねぇぇええええ!!おれのクラスには男のおれにさえ告白するガチホモもいるんだぞ!?そんなおれが女になったら……」
窓の向こうから何やら声がする。
「おーい、櫟ー!!ゲームしようぜー!」
「やばい、出たぞガチホモ一号機。と、連れてるのは楠か……いや、アイツもあかん!クールイケメン面してアイツが一番ヤバい!」
クラスの友達2人が家に遊びにきていた。
「見つからないように居留守を決め込もう。特に楠には……」
「呼んだ?」
「そうそうこいつ……ってきゃぁぁぁあ!!なんで、なんでいるんだよ!」
目の前には黒髪クールイケメンのクラスメイト、茶高 楠がいた。そうだ、思い出した。こいつ茶柱 楠にそっくりなんだ!髪の色が黒になったバージョンごみ野郎なんだ!うぅ、そう思ったらなんかドキドキしてきた……。
「や……な、なんで、いるの?」
「だいぶしおらしくなったね?何かあったのかい?」
やば、マトモに顔が見れない。顔が赤くなる。
「な、なんでもない……から」
「そっか、明日は学校来れるかい?」
そうか忘れてた今日サボったんだった。じゃなくて!!どうしよう色々ヤバいって!
助けて死神……と思って死神の方を見たら、ぷーくすくすとばかりに爆笑していた。このアマァ……。
「宿題、置いておくから、明日は一緒に登校しような?櫟」
「う、うん。ありがと……楠」
「楠?櫟って俺のこと呼び捨てだったっけ?」
「やぁぁ、な、なんでもない。楠く、ん?また明日……」
「あぁ、また明日」
楠が部屋から出て行く。大体いつの間に入ってきたし、、鍵はどうしたし……と考えて、死神を睨む。
「お前か……」
「くすくす、乙女の顔だ〜。可愛いなぁもう」
「……こんにゃろ、何が目的だ」
「君を観察することさ。死神だって学校は通う。暇つぶしに、君を観察し続けようじゃないか、これからよろしく。櫟ちゃん」
絶句した。こいつ、学校に来るつもりらしい。で、学校にはガチホモ一号機と、楠がいるから……。
「……ぶな」
「へ?」
「櫟ちゃんって!!!
呼ぶなぁぁあああああ!!」
この日以降、リアルハーレムを築く楠のハーレムと櫟との間で様々なドラマが引き起こされるわけだが、それはまた別のお話。