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魔法使いは機械人形に乗って  作者: 高野十海
第一部 エスペルカミュ編
7/34

06 光放つアマタリス

「伝令! 来ましたよ、エスペルカミュの機械人形が七機! あと一時間で目視も出来ます!」

「来たか!」


 王国騎士団の伝令兵が飛び込んできて、シズマたちはテーブルから立ち上がった。

 屋敷から機械人形を隠した場所までは、歩いて十分ほどの距離まで運んできてある。

 搭乗する組はコンバットジャケットに着替えて、それから屋敷の入口に集合した。

 シズマとサナ姫のは、エスペルカミュのを元にして作られているが、急造品だけあってもこもことした膨らみは少ない。

 代わりにシズマによる加工がなされているためか、シルエットは二一世紀の宇宙服に近い代物だ。

 そこにはいつも厨房で雑事を引き受けている女使用人が待っていた。

 彼女は抱えていた袋を差し出す。


「これ、お弁当です!」

「ありがとう。中身は?」


 シズマは上着とヘルメットをボタンで接続しながら袋を手に取る。


「ハムとチーズのと果物のジャムが一つずつ!」

「バッチリです!」


 甘いのとしょっぱいのが一つずつ入ったサンドイッチを受け取って、サナ姫は白騎士の元へ急いだ。


「飲み物は紅茶か?」

「はい。これ、ナイタラさんにハチミツの小瓶」

「よくわかってくれた!」


 にっこりと笑って袋を掴み上げ、ナイタラは釘の機械人形(オーギティ)の方へ走っていった。

 屋敷の外で警備をしていた王国騎士団も、破損したオーギティから取り出した第五生成機関エーテル・ジェネレーターを配置した場所へと向かい始めた。

 すでに火は入っているものの、戦闘となれば出力は上げておいて損はない。

 三十分近くかけて、全員の戦闘配置が終わった。

 陣形は白騎士とオーギティだけがぽつんと元鉱山から飛び出した形になる。

 エスペルカミュからまっすぐファーネンヘルトへ向かえば、オーギティ三機がやってきたように、ここへ姿を見せるだろう。

 それを利用して砦のように使ったものだが、機械人形相手に対歩兵の防御力は大して役に立たない。

 それ故に発掘兵器が戦争の主役になっているのだから。

 しかし、バックアップとして大規模魔法を放てばシズマたちのためになるだろう。

 ハムチーズサンドを齧ってモニターを眺めながら、シズマはふうふうと息を吹きかけて紅茶を飲んだ。

 文字通りの魔法瓶は、なかなかの保温性能がある。


「コーヒーでなくてはダメということはないのですね」

「ん? ああ。茶葉は高いから、飲み慣れないだけだよ」

「そういう事情もありますか」


 サナ姫の飲み物は紅茶にミルクとハチミツをいれたものだ。

 それを飲みながらジャムサンドを口にしつつ、首を回して周囲を見た。

 変換負荷は二人にとって、もはや慣れたものだった。

 毎日続けていたせいか、変換炉自体が鍛えられたようだ。


「ナイタラ・エーン。腰が引けているのではありませんか」


 白騎士に左に控えるオーギティは、どうみても怯えているようだった。

 釘といういうよりはどこか萎びたきのこに見える。


「うっ……それはそうだろ。あたしはエスペルカミュなんだぞ!」

「ですがそのオーギティを見て、彼らがそうは思ってくれません」

「わかってる! だけどあたしができるかどうかは、やらなくちゃいけないんだろうけど……っ」


 ぽろぽろと溢れてくる涙を拭いながら、どうしても一線を超えることができずに、ナイタラは歯噛みした。

 ファーネンヘルトのために戦うという屈辱は飲み込めても、同士討ちをしなければならない心理的負担はあまりにも大きい。

 同胞を攻撃するぐらいならいっそ、と思うほどに追い詰められている。


「ナイタラは機械人形を倒せとは言わない。しかし、気は引きつけて貰わなければ困る」


 積極的に攻撃しないだけでもいいというなら、彼女にもやり方はある。

 シズマからそう言われて、ほんの僅かだけ彼女も気持ちは浮上した。

 しかし、足首にはめられた枷はそれほど軽くない。


「わかったよ……あたしだって、機械人形のパイロットなんだ」外部スピーカーのスイッチを切って、オーギティのシートに深く背を預けた。「あたしは仲間を見殺しにするのか……?」


「シズマ・ヨナは優しい」


 批判するような言い方でサナ姫は口を尖らせた。

 シズマは笑いながらそれを受け止める。


「厳しく締め上げるだけでことが進むなら、世の中はハリガネで縛られているだろ」

「正しいことが正しいわけではないと?」


 まるでそれを信じられないものであるかのように、彼女は目を見開いて言った。

 手に持ったサンドイッチを落としかけて、あわてて掴みなおす。

 それを見ながらシズマは紅茶を一口啜った。


「答えに辿り着くルートは一つじゃないんだよ」

「上に立つ者のようなことを言う……」

「お前よりは長生きしてるってことを解かれよ」


 もし彼女であれば、ナイタラ・エーンをうまく扱えたかということを考えて、そのルートを脳内で辿ってみた。

 無理に言い聞かせても戦闘中に離反した可能性が高いように思えて、シズマのように逃げ道を用意することが正しいと見える。

 正しいことを正しいと思って生きてきた人間にとって、それが絶対ではないということは恐怖でもあり衝撃でもある。

 シズマと出会ってから、サナ・オズマの世界は徐々にひび割れていっていた。

 彼女が小さな口で小鳥のようについばみ、ようやく最後の一片を口にしたところで、白騎士からの警告音がコックピットに鳴り響いた。


『敵機接近、七機』

「んぐっ……ん、んん……ん、ぷはっ! 敵ですか!」

「エスペルカミュが来たか。サナ姫は備えろよ!」

「わかっています! シズマ・ヨナだってやってくれるんでしょう!」

「そういうプレッシャーは跳ね除ける!」


 手のひらに拳を打ち付けると、シズマは気合を入れた。

 白い筒型の操縦桿に腕を入れて、モニターを望遠モードから通常に切り替える。

 目をつむったサナ姫は、意識を深く保って自分のなかに潜り込んでいく。

 それが彼女が一週間で得た、魔力変換効率を上げつつ、感覚を研ぎ澄ます方法だ。

 ふたたび目を開けた時、彼女の目にはあらゆる色彩が鮮やかに映る。

 同時に、すべてを俯瞰しているような視点を持ち、顔を向けなくても何故か見えるという不思議を当然のように受け止めていた。


「砦の大規模魔法の用意は!」

「出来ています!」


 オーギティから取り出した外部スピーカーで叫ぶ騎士は、自分で出したあまりの音にひっくり返った。

 コックピットというシェルで覆われていなければ、多用できるものではない。


「わかりました、後ろを信じます。さあ、出番ですよ人形繰り」

「ああ。三回転半宙返りだって決めてみせようか」

「それは頼もしい。ですが決して吐かないように」

「はっ、俺の名と白騎士に誓って」


 ローブを羽織り、錫杖を持ったような優美なシルエットが、モニターにくっきり映し出された。

 ひとしきり笑ってから、シズマとサナ姫はアマタリスの姿を捉えた。




        *




「見えました、白騎士です! 剣と盾なんてものを用意して! それにオーギティ……オーギティだって!?」

「お前たちのを直したんだろう。アマタリスならどうということはない! 釘なんかとはわけが違うんだよ!」


 ルギット隊が、鉱山を背にした白騎士とオーギティを捉えた。

 その瞬間、尼僧の機械人形(アマタリス)七機のコックピット内に警告音が響き渡る。


『敵機識別、純白剣アルリナーヴ』


 全周囲モニター内を『剣』のマークが乱れ飛び、警告音は鳴り止まない。

 いまだアマタリスは最大警告を放っている。


「どうなってやがる。純白剣ってのは白騎士か!? アマタリスだぞ。最高の機械人形のはずだろ!」


 ナレ・ルギットが叫び、警告音を切ってようやくコックピットの嵐は収まった。

 ルギット機を先頭にして、鏃の陣形を組んでいた全機は、完全に立ち止まっていた。

 困惑の空気が流れたところで、それを断ち切るべく千人長は動いた。


「敵はド(エレ)ぇ大物らしいぜ! 国王様からいただけるご褒美は相当のものってことだ!」

「おお! だったらビビってる場合じゃねぇな!」


 全機が警告音を解除したところで、ルギットが命令を下す前に、最後尾に居たプマック機が動いた。


「俺にやらせて下さい! あの白騎士は、俺たちの仇です!」

「プマック! 勝手に動きやがって!」


 プマックを先頭としてバラバラに動きはじめたアマタリスが白騎士に挑みかかった。

 白騎士――アルリナーヴは左手に構えた盾を突き出し、半身になって剣を地面と平行に保っている。

 機体の全長ほどもある錫杖を振り回すと、プマック機はそのままアルリナーヴへ向けて叩きつけた。

 それを盾で受けたシズマは、オーギティと比べ物にならないパワーに押し込まれる。

 受け止めきったところで、右手の剣を突き出したが、返す錫杖が外へ弾いた。


「白騎士がぁ! エスペルカミュのオーギティを汚してくれた!」

「この声、この前の……」

「隊長! 生きていたんですね!?」


 シズマがいい切る前にナイタラが叫んだ。

 オーギティから聞こえた声で、プマック機は思わず振り向いてしまう。


「ナイタラだと! そのオーギティから声がしたが……」


 動揺していることがわかったシズマは、わざと怒らせるような言い方で告げた。


「そうだよ、ナイタラだ! こうしてオーギティに乗ってくれている!」

「バカな! エスペルカミュを誇りに思っている女がそんなことを……」

「あたしはナイタラですよ! ですがこれは――」


 言い訳をしようとするオーギティの外部スピーカーをサナ姫が切らせた。白騎士はプマック機を煽るように盾を突き出しながら引いていく。


「ファーネンヘルトめ、オーギティだけでなくナイタラまでも!」

「ナイタラはお前を選ばなかったってだけだろ! フラれた男が情けないんだよ!」

「貴様はぁあ!」


 プマックが激昂して、めちゃくちゃに叩きつける錫杖ユニットを盾で受けながら、シズマはカウンター狙いで剣を突き入れた。

 プマック機は回避する素振りを見せない。

 ローブのような装甲に傷がつくが、省みずにそのまま攻撃に転じる。


「前に出過ぎだプマック! アマタリスはその距離か!」

「繋がせないんだよ!」


 ルギット隊が合流しようと前に出てきたところを、半壊鉱山の砦から大規模魔法の光が放たれた。

 炎の渦が巻き起こり、ルギット隊とプマック機を隔てる。

 炎の中に消えるプマック機は、相変わらず錫杖を叩きつけようとしていた。


「うおおっ……! オーギティの第五生成機関エーテル・ジェネレーターを使ったか!」

「しかしなぁ! アマタリスならこんなものはなんてことはない!」


 ルギット隊の一人がアマタリスに乗ったまま魔法を放つと、錫杖が強く輝いた。

 しゃらんと輪状のユニットが鳴り響き、放たれた魔法を増幅する。

 濃密な霧が辺りに立ち込め、炎の渦が消えていく。


「機械人形はこう使うんだって知らなかっただろうなぁ! 機械人形に乗るのが魔法使いなら、大規模魔法は使い放題だろうが!」


 エスペルカミュは、発掘初期時代からラオベイリンとともに、その使い方を模索してきた国だ。

 ファーネンヘルトの付け焼き刃から考えれば、途方もない実験と検証を繰り返している。

 その結果、第五生成機関エーテル・ジェネレーターを載せているのなら、魔法使いをパイロットにするのがもっともよいとされた。

 さらにルギット隊から放たれた、永遠の冬のような吹雪が、半壊鉱山砦ごと凍りつかせようとする。


「騎士団は下がりなさい! これ以上は負傷者が増えるばかりです!」


 サナ姫の言葉を聞いて、王国騎士団はわらわらと逃げはじめた。

 大ぶりの一撃を、盾で受けるのではなく小さく跳んで避けると、大きく引き絞った剣がプマック機の左肩を貫いた。

 空振って生まれた隙を、ぼうっと眺めるほどシズマはお人好しではない。

 破損した肩部からじりじりと火花が散り、小爆発を起こす。


「プマックは下がれ! なんのためのアマタリスだと思っている!」

「くっ……はい!」

「逃がすかよ!」


 シズマが踏み込んだところへ、錫杖のしゃらんという音色が弾けた。

 閃光が走り、わずかに遅れて轟音が空気を破壊する。

 ルギット隊のアマタリスから放たれた稲妻が、白騎士の眼前を焦がしていった。


「ちいっ! 一歩早かったか!」


 シズマは慌てて下がるが、前方はすでに三機のアマタリスが塞いでいた。


「ナイタラ・エーンはよく防いでいますが、もう持ちません!」


 圧倒的性能差にもかかわらず、ナイタラは二機のアマタリスを相手に回して、いまだオーギティを保っていた。

 だが腕を一本と釘頭を犠牲にしたもので、足が崩れれば一瞬で瓦解するだろう。

 それは極めて近い未来の姿だ。


「……しょうがないよな、こうなったら。サナ姫、やるぞ」

どっち(ヽヽヽ)です」

「俺の得意技だ」

「ならば彼らにも見せてやりましょう。失敗はなしですよ」

「わかってる!」


 シズマが深く息を吐くと、白騎士に集中しはじめた。


魔力流掌握(フル・コントロール)、スタート!」


 瞬間、白騎士の動きが変わる。

 大きく沈んだかと思うと、バック宙で十数メートルも跳びながらナイタラ・オーギティの前へ着地した。


「跳んだぁ!? デタラメなことをしやがる!」

「ぐうぅぅぅっ……遅い!」


 機械人形の強力な衝撃吸収機構でも、追いつかないほどの急制動を掛けて、シズマは一歩踏み込み刃を抜き放つ。

 反応の遅れたアマタリスがまともに喰らった。

 右肩から先を切り落とされ、錫杖ユニットを取り落とす。


「こんな動きがありえるのか! これが純白剣のアルリナーヴなのか!?」


 サナ姫は覚えのない名前を聞きながら、血液が偏る世界の中でそれを受け止めた。


「アルリナーヴ……。白騎士はそういう名前なのですね」

『肯定。種別『剣』、色別『白』、機体登録名アルリナーヴ』

「そんなことは、後回しだ……!」


 ギシギシと白騎士の関節が軋みを上げた。

 慌てて退こうとする片腕のアマタリスへ一足で詰めると、左腕の盾で殴り飛ばす。

 バランスを崩したところへ、剣が胴体を貫いた。

 足で蹴り飛ばして剣を引き抜き、慌てて錫杖を光らせるもう一体のアマタリスへ向けて、機体を鋭く捻った。


「一つ! 魔力付与(コーティング)!」


 白騎士の剣が淡い輝きに包まれ、アマタリスへ向かって投げつけられた。

 大規模魔法を中断して錫杖で受け止めようとするものの、それごと切り裂いて深々と胴体へ突き刺さる。

 どちらもコックピットを狙った一撃だ。


「二つ! 次はどいつからくたばりたい!」


 乱暴に剣を引き抜き、アマタリスを投げ飛ばすようにして振り払う。

 シズマはぜえぜえと肩で息をしながら、外部スピーカーを使って吠えた。

 魔力流掌握(フル・コントロール)は、彼のやる大道芸人形のように、魔力(マナ)の流れを直接操作して、強引に動かすものだ。

 もともと魔力(マナ)で動いているものだから、理論上、わざわざ通さなくてもコントロール自体は可能だった。

 問題は、人間が乗っているということに尽きる。

 機械人形が軋むほどの動きを見せれば、それを想定していないコックピットへの負担は想像を絶する。

 つまり、実働時間はシズマとサナ姫の体力に直結していた。

 そしてそれは、もうすでに限界に来ている。


「ナイタラ・エーンは下がって下さい。それ以上はオーギティの役割を超えています。よくやってくれました」

「サナ・オズマ……わかった。あたしは、義理は果たしたよな……」

「ああ、十分だ。あとは俺がすべて片付ける」


 アマタリスをちらりと見ながら、ナイタラは下がった。

 彼女はシズマたちの弱点を知っている。

 だからこそもう動けないということはわかっていた。

 それ以上に、自分が動けないということも。

 ルギット隊が本気で自分を殺しに来たのだから、いまのナイタラにはエスペルカミュが故郷であるとは思えないのは当然のことだ。

 なにを信じていいのかわからないまま、オーギティはゆっくりと鉱山からファーネンヘルトの方へ消えていく。


「足を前に踏み出す気がないなら、人様の庭に入ってくるんじゃないよ!」


 喉が張り裂けんばかりに虚勢を張りながら、二人は時間を稼いで息を整える。

 整ったところで、もはや魔力流掌握(フル・コントロール)はできないだろう。

 しかし、ふつうには戦える。

 二機を撃墜して一機の肩を破壊した。

 十分な戦果だが、ルギット隊は普通の戦闘をしにきているわけではない。

 ここで引く理由はなく、ただ用心深く白騎士アルリナーヴの戦力を計るだけだ。

 わずかに戦闘が止まった瞬間があった。

 その内に、一機のアマタリスが牽制のための魔法を放った。

 錫杖すら光らせぬ、小手調べの小さな火の玉が白騎士へ直撃する。

 装甲にダメージは毛ほどもない。

 しかし、ルギット隊の空気は変わった。


「嘯いてくれやがる。純白剣は演技がお上手だぁ!」

「もうすこし騙されていてくれれば、回復したんだがな」

「させるかよ。だがあの動きは脅威だった。今のうちに仕留めさせてもらう!」


 ルギット千人長ら五機が半円状にアルリナーヴを囲んだ。

 同時に、大規模魔法を唱え始める。

 誰を攻撃しても、その瞬間に四つの大規模魔法が炸裂するだろう。

 倒しやすいのは片腕のないプマックだが、倒しても残った四人にもっとも影響がない。


「シズマ・ヨナ。覚悟を決めましょう」

「……ああ。よく頑張ったよな、俺たち」

「ええ。仲間は全員逃げました。残っているのはわたしたちだけです」


 シズマとサナはシートに背中を押し付けて、まるでここが天国であるかのように気を抜きはじめた。

 もはや、こうなってはどうにもならないとばかりに、目にやわらかな光さえ携えて。

 やがで五機の大規模魔法が完成し、あとは放つばかりとなると、二人は目を閉じた。


 真冬さえも夏に変える炎の渦が、

 轟音を伴う破壊の稲妻が、

 屋敷さえ持ち上げそうな吹き荒れる竜巻が、

 小山ほどもある巨大な岩が、

 大気(エーテル)を収束して撃ち出す魔力砲が、白騎士へ殺到した。

 あらゆる轟音と光が埋め尽くし、全機械人形のモニターがホワイトアウトする。


「――!」


 シズマとサナが轟音の中、ぽつりと聞こえない声を呟いた。




『肯定。魔力波防御(マナ・シールド)、展開』


 そのすべてを、光の盾が粉砕した。


「さあて、エネルギー喰らいの切り札だ」

「ならば幕が下りる前に、大立ち回りと行きましょう」


 二人の眼が開けば、そこには飢えたオオカミのような強い煌めきが宿っていた。


「あれだけの魔法を……バケモノめ……!」


 その声がどのアマタリスから聞こえたものか、シズマたちに考える時間はなかった。

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