02 衰退期の魔法使い――2
翌日になっても金貨十枚は、ずっしりとシズマの胸にへばりついたままだった。
どうにも店を開ける気にならず、コーヒーとパンだけの朝食を済ませると、町から一番近い森へ足を向けた。
そんなことでは身を滅ぼすことは明らかだ。せっかくジャンク屋としてすこしずつ信頼を得てきたというのに、腑抜けてしまえばそれが泡と消える。
だいたいのことは、体を追い込みストレスを発散させればすっきりとするものだ。
半時間ほど走って森に入ると、喧騒とは無縁の空間が佇んでいた。葉擦れのざわめきは波のようにただ深々と心に入る。
もやもやとした感情を解き放ち、深緑をただ一人の叫び声で打ち砕いていく。
喉がほとんど枯れる頃になって、ようやくシズマは落ち着きを取り戻した。けほけほと咳をしてから口を大きく開ける。
頭上に魔法で水を生み出して、ほとんど全身で浴びるようにして水を飲んだ。げほげほとまた吐いて、もう一度水を生み出す。
「ああ、クソ……喉が痛ぇ」
そのまま動く気にもなれず、ただ巨木の根元に座り込むと何を見るでもなく、ぼうっとしていた。
そうしている内に意識が飲まれたか、いつの間にか土のベッドで眠りこけていた。昨夜があまり眠れなかったせいもあるのだろう。
そして次に目覚めた時、昼でも薄暗かった森は赤い光が差し混んでいた。これからまた影絵のような獣の時刻へと移り変わろうとしている。
昼から何も食べていないせいで彼の腹はぺったりとして鳴き声も上げず、水を浴びたまま寝入ったせいだろう、ゾクゾクと体の芯から冷え切っている感覚に、シズマは慌てて魔法で全身を温めた。
「ちょっと風邪っぽいか?」
すぐに帰ろうと腰を浮かしたところで、暗い森に人工的な光が煌めいたのを見つけた。思わず木の陰に身を隠して、顔だけでそっと覗き込む。
カンテラで闇を切り裂く、昨日の貴族一行の姿がそこにあった。
(貴族が森に? 狩りをするなら朝からだろ)
ざっざと行進めいた歩き方には緊張を伴っていて、夜の森林浴や森の中のログハウスに帰るという様子でもなかった。すなわち、貴族が人目を避けたいことをしているとすぐに思い至る。
シズマは全身の寒気が吹っ飛んだ気がした。
(貴族娘の鼻を明かせる? そんなもんじゃない。もっとお宝の匂いがしてきた)
背筋に稲妻が走り、冷え切っていた体内は、いまや煮えたぎる熱が轟々と渦巻いている。
エネルギーが足りないと主張し始めてきた腹をなだめるために、野草や木の実を拾ってはそのまま口に放り込む。苦味と酸味に堪えながら貴族たちの後を追った。
やがて彼らは山の麓近くまで歩いてきていた。このあたりは鉱山になっていたが最近は出が悪く、ろくな金属が出ていないという話だ。
しかし鉱山へ行くためには、わざわざ森を抜けなくとも町から道が通っている。でなければ不便すぎてとても掘り出した金属を運びきれない。
首をひねったが、その疑問はすぐに解消した。
貴族一行は鉱山に入るのではなく、そこからぐるりと回って別の入口から中に入っていった。こうなっては後を追って入ることもできない。
遭遇してしまえば数に劣るシズマが不利で、尚且つ相手は権力者なのだから消されるということも考えられる。彼らが出てくるまで、酸っぱい木の実を齧りながらずっと隠れていた。
一時間ぐらいだろうか。シズマが柔軟をして体をほぐしていたところで、カンテラの灯りが鉱山別入り口から昇ってきた。
茂みに身を隠し、彼らが入り口付近で話し込んでいるのをじっと眺めていた。それから彼らが十分に離れて灯りが見えなくなるとひっそりと動き出す。
待っていた時間で夜目に慣れていたせいだろう、なんとかぬかるみなどを避けて別入り口に辿り着いた。中に入って、夜目ごときではとても内部を進めないことを理解した。
「……見つかってくれるなよ」
一度振り返って入り口から周囲を見回すと、すこし中へ進んでから魔法で灯りを作り出す。
LED照明のような冷たい青白さではなく、乳白色のような温かみのある優しい光だ。配光を調整して前方のみに向けてから、ゆっくりと進んでいく。
地下へ続いているせいかなだらかな坂のようになった内部は意外に広く、人が三人並んで入ってもまだ余裕があるだろう。
地下へ向かう度に空気が湿気を帯びてきて、シズマはくしゃみをしながら進んだ。そしている内にすこしずつ狭くなり、また段々と広くなってくるまで数十メートルも通路が続いた。
「……鉱山とつながっていないのか?」
怪しい談合か禁品なんかを扱うなら、これほどまでに広く内部を掘り進める必要はない。
何かが警鐘を鳴らし始めていたが、それは足を止めるだけの音量ではなかった。
やがて行き止まりらしき広間に辿り着いたところで、シズマは大きく目を見開いた。
「巨人……じゃないよな。ってことは、機械人形か!?」
機械人形――この世界が一度滅ぶ前に造られた、機械仕掛けの巨大な人型兵器だ。
大気を血として動く、この世界を支配する最強の武装である。
別大陸の大国『ラオベイリン』では、破損したものや朽ちたものを含めて多量が出土しているが、シズマの暮らす国『ファーネンヘルト』で出土したという記録はない。
隠匿するには大きすぎるし、持っていて使わないということはありえないから、これが初めて出たものだろうということは予想できる。
逆に言えば、いままで埋もれていたものが出てきたということは、これから発掘されると考えるのが自然な発想だ。
腰から下は埋まっているのか隠れて見えないが、そこから上はほとんど露出していた。
シズマは露出した装甲板を指でつついた。
金属的な冷たさはなく、軟らかいとも硬いとも言えない不思議な感触がその指に伝わる。ぐっと力を込められた指は一切沈み込まず、受け止めるような跳ね返すような不思議な感触を返した。
指の節で叩けば高く音が響いてしっかりと硬度があることがわかる。
照明を当てて見るとわかるが、それは白く艶やかな色だ。普通ならこびりついた土や砂で汚れているものだが、まるで洗浄したてのように汚れがない。
こんな場所に隠匿されているのだから、わざわざ洗うわけもないだろう。つまり、出土したときからこの状態なのだ。
すこしでも知識があれば、今まで発見されている遺失技術でも最上級であると判断できる。
機械人形が出土するのはラオベイリンに次いでエスペルカミュが有名だが、その二つから稀に出てくる王室献上級とくらべてもまったく劣らない。
少なくとも現在、同型が多数発掘されて運用されている量産の機械人形と比べれば、相当に質が良さそうなことはわかる。
「それならこいつを祭り上げるってことは考えられるよな」
良質な機械人形が出土するというのは、世界を揺るがしかねないニュースだ。
これだけの質のものがたくさん出るとすれば、ファーネンヘルトは大国になるための切符を手に入れたに等しい。
「……本当に冗談じゃすまないな。とんだものを見つけちまった」
頭のなかで最大音量で叩かれる警鐘に、あの時従っておけばよかったと思いながら、震える手を握りしめた。
「ええ、冗談ではすみません」
幼い、しかしはっきりとした声が背後から聞こえて、身体の熱は完全に冷え切った。
ギリギリと油の切れた歯車のように振り向けば、そこには貴族一行の姿があった。
サナ・オズマの眼はよく砥がれた刃物に似た色の光を放っている。
「サナ・オズマ……!」
「そうです、シズマ・ヨナ。素人の尾行に気づかないとでも思いましたか?」
屈強な男たちの構えるマスケット銃はシズマを捉えている。銃口は全部で六つだ。
「腕輪をありがとう。マスケットなら三発は耐えられるという話ですね。なので倍を用意しました」
「あの瞬間から疑っていたのか!?」
「わたしも魔法使いだということです。あなたほど道具を作る腕はありませんが」
町に技術力のある職人が居ると知れば、権力のあるものならその情報はすぐに知れる。
それがもし反逆の可能性を持つかもしれないなら、前もって準備しておくことは可能だ。
ましてや彼女は、目の前で金に飢えたシズマの顔を見ている。用心するには十分な条件だった。
作成者なら予備か真打ちか試作品か、いずれにしろマスケット銃に耐える防御力を装備していると考えたサナは、それを上回る数を用意した。
腕輪の障壁は常時魔力を消費するから、長い間使えるものでもないということも理解している。
「秘密を知ってしまったから消すということか」
「いずれ発表するものです。しかしその前に仇なすつもりなら、そうなるでしょう」
後ろには初老の紳士も居るというのに、この場を支配しているのは間違いなく彼女だった。
シズマは乾いた喉を何度か鳴らして、その場で一番上の立場にあるのは小さな娘だと悟った。
「おとなしく捕まれば、牢屋で勘弁してやるって?」
「危険の代金にしては安すぎると?」
「ただの貴族じゃないわけだ。サナ姫ってところか」
「王族ではあります」
ファーネンヘルトの姫。
シズマの全身から脂汗が吹き出た。国で一番偉い種族にケンカを売ったのだから、死刑にならないだけサナ・オズマが善良であることは明らかだ。
だからといって言葉が真実とは限らない。しかし従うより他に安全に助かる道はないだろう。
「わかった……」
両手を上げて、うなだれるように下を向いて目をつむった。
厳つい男たちが手を縛ろうと近寄っていてくる。
突如、光が爆発した。
シズマが作り出していた魔法光が激しくスパークし、数千ルーメンという光量で空間を埋め尽くす。
それはわずか数秒ではあったが、シズマには永遠よりもほしい数秒だった。
「があああああっ! 目、目がぁ!」
「お、おおおお……!」
「くっ……目が戻るまで銃はいけません! 跳弾があります!」
サナはシズマが自分を人質にするのではないかということを予測して、身にまとう魔法の道具を全開で起動した。そしてシズマが居た方から、走り去っていく音が聞こえると失策を知る。
「シズマ・ヨナは機械人形を奪うつもりです!」
「遅いんだよ!」
シズマが機械人形へ手をかけたあたりで護衛の男たちの目がなんとか戻った。その背に躊躇なくマスケット銃を撃ち込む。
しかし弾丸は透明な障壁に阻まれ、あらぬ方へ飛んでいった。次々に銃弾が撃ちつけるが、しかし弾丸は通らない。
「腕輪とは比べ物にならない防御ということですか! シズマ・ヨナ!」
「謀ったのはお互い様ってことなんだよ! サナ・オズマ!」
慌てて厳つい男たちは、マスケット銃を手放して機械人形を昇るシズマへ走り寄るが、それはあまりにも遅かった。すでに胸部コックピットブロックへ達している。
「俺の勝ちだ、サナ姫には!」
「やれるものならやってみなさい! すぐに砂上の城であったと知るでしょう!」
「負け惜しみなんだよそういうのは!」
胸部装甲近くのレバーを目一杯引くと、装甲板が開いてコックピットブロックが露わになる。
黒い空間に計器や操縦桿が並ぶ場所へ飛び込んで、操縦桿を握ったところで目を見開いた。
「……マニュアルとかってないのか!?」
くたびれた様子がないシートの裏なんかを探してみても、書類のようなものは一枚も現れなかった。
そうこうしている内に護衛の男たちが胸部付近まで昇ってくるのを上から見ると、デタラメにスイッチをいじったりレバーをガチャガチャと引いてみるが反応がない。
「シズマ・ヨナは観念しなさい! すでに砂の土台は崩れているとわかったはず!」
「認められないだろ! あと一歩なんだよ! ここまできて、そんなことってあるか!?」
「わたしたちが入った時に動かそうとして叶いませんでした。そうなる運命だとは知っていたのです!」
「そんなのって……」
だからといって諦め切れるものではないと、胸部コックピットへ入り込もうとする男たちを吹き飛ばすために魔力変換炉を全開にした。
途端、曇った夜のようだったコックピット内に次々と星明かりが灯った。
流星が飛んで、あらゆる計器が作動し始める。
『魔術師級の搭乗を確認、起動開始』
コックピットに手をかけようとした護衛の男たちが弾き飛ばされ、胸部装甲版が閉じていく。まったくの暗闇だった空間の下半分は湿った土で暗く、上半分は天井すれすれの空間を映し出している。
「う、動いた。これはコックピット全体がモニターで、カメラは……全身にあるわけか?」
低く唸るような、甲高く叫ぶような、不思議な音が全体から放たれ始めると、シズマの体にシートが自動で最適化された。
完全なフィッティングが終わると、その裏から様々なロボットアームが出てきて体に張り付き始める。
「なんだよこれは! 機械人形ってこういうものなのか。単純な作業機械じゃない!?」
『魔力変換炉と第五生成機関の接続確認』
「大気だけでは動かない……? 魔法使い専用の機械人形ってことか! だとしたらサナ姫たちに動かせなかったことはわかる。コックピットの中で魔法を使おうとは思わないものな」
『魔力反応炉、起動開始』
直後、シズマの魔力変換炉に酷い負荷がかかり始めた。
膨大な大気が流し込まれ、無理矢理魔力に変換してはそれを循環させていく。たった一人で全盛期時代の大魔法を使うようなもので、彼の全身から脂汗が吹き出た。
砕けよとばかりに歯を噛み締め、二度と戻らないのではないかと思われるほど皺が眉間に深く刻まれる。
「な、なにが起こりました。機械人形が起動した? シズマ・ヨナは特別ということですか!?」
一度、循環が始まると負担は和らいだ。ほとんど枯渇状態だった魔力を運動可能な状態まで取り込むために無理な負荷がかかったようだった。
今の魔力変換量なら、シズマは魔法の装身具を使うようなもので慣れている。
「見ての通りだサナ姫! いまからこの機械人形を動かすぞ! 踏み潰されたくなかったらさっさと退けってことだ!」
シズマが叫ぶと、それを感知した白い機械人形は外部スピーカーを通してサナ姫たちに言葉を伝えた。
空間が巨大な音の塊で満ちて震え、パラパラと天井から砂が落ちる。
「くっ……みんな、退却して下さい! いまの私たちに、あの白い騎士は止められません!」
外部の音もマイクが拾い、コックピットではサナ姫がすぐそばに居るように聞こえた。
全身に汗が浮かぶ中でにやりと笑い、全員が広間から我先にと出始めたのを確認すると、改めてコンソールを見た。
腕を突っ込むためのものに見える白い筒が二本と、足元にはペダルがある。それで歩くのだろうなとは想像できても、腕を入れる方はわからない。
「白い機械人形は、動かし方を教えてくれるのか?」
『手動時操作方法、表示』
正面モニターに操作方法が現れ、周囲のスイッチ類から文字が浮き出た。
肉眼でカメラを通して拡張現実を見たような奇妙さに、シズマは一年半ぶりに科学的テクノロジーを感じた懐かしさもあり、口角を上げた。
「待てよ。手動時ってことは……オートもあるってことだろ。誰も傷つけずにここから外に出られるか?」
『自動機動を開始しますか?』
「始めるのはあの姫さんたちが外に出てからだ。開始地点はここから洞窟の外まで。出会っても生体反応があるものは攻撃しない」
『了解。命令確認、待機』
待ってるあいだ、じっくりと操作方法とスイッチを何に使うかを確認していた。
それから十数分後、白い機械人形のレーダーから洞窟内にサナ姫たちの反応が消えた。
『自動機動、開始』
白い機械人形は腕部マニピュレーターを地面へ打ち付けると、固いはずの岩はいともたやすく砕かれた。
腰から下が数十秒で露出すると、広間はもう半壊状態だった。崩落寸前のところを白い機械人形が支えている状態だ。
ここから狭い通路を這い出るのかと思いきや、白い機械人形は腕部マニピュレーターで地面と同じように天井を砕いた。
「オートパイロットって、めちゃくちゃだ! 細かい条件を指定しなくちゃこうなるんだったら、セミオートかマニュアルを覚えないと使えないじゃないか」
洞窟内から外部への最短ルートを通った白い機械人形は、わずか数分で鉱山を半壊させて全身を外気に晒した。全周囲モニターは、暗い森と唖然とした表情のサナ姫たちを映し出している。
「シズマ・ヨナは……ここまでするのですか!」
「やりたくてやったわけじゃない。事故だ……といって、信じてくれるわけもないが」
シズマが頭を振る動作を真似たように、白い機械人形は首を振った。
それを見てサナ姫は烈火に燃える感情を抑えながら尋ねた。
「意図的でないことは……認めましょう。その白い機械人形を奪って、どこへいくつもりです」
「どこへって……とりあえず、別の国か。ファーネンヘルトにはいられないだろう」
「そんなことをされてはファーネンヘルトは沈みます! わたしのせいですか!?」
「アンタは関係ない。機械人形を奪ったからだ」
「すべての罪を許しますと言ったら?」
「小賢しい謀り屋の姫様は信じちゃいない」
「この国の未来と、サナ・ペルタッツ・ディーボ・オズマとその父母に誓います」
サナ・オズマのことはかけらも信じていないシズマだが、その言葉にはすこし考え込んだ。
実際のところ、体調は最悪だった。
起動時の負荷もそうだが、風邪っぽいところに無茶をしたものだから、視界がぼやけはじめている。
乗ったまま遠くへ逃げられるかといえばそうはできないだろう。彼女が寄り添うように、寄り添わなければいけない事情がある。
「……マスケット銃はすべて壊す。置いていけ。そして護衛の男たちは去れよ」
「言うとおりにして下さい……」
白い機械人形の足元に六丁のマスケット銃が積まれた。それを持っていた護衛の男たちは見上げて睨みながらその場を走り去っていく。
シズマはそれを踏み砕いて粉々にした。護衛の男たちが全周囲モニターから映らなくなるまで待った。
シズマはコックピットから降りようとしてモニターの操作方法を睨んだ時、白い機械人形のレーダーが敵対反応を示した。
『三機接近。識別は敵軍』
「機械人形が、ファーネンヘルトで他に三機もか!? また謀ったかサナ姫!」
「わたしは知りません! そんな兵力があれば、この国はもっと……っ」
「だったらなんだよ! 襲撃とでも……襲撃、なのか!?」
望遠機能で機械人形の全体を捉えると、それは隣国のエスペルカミュが多く発掘してきた『オーギティ』と呼ばれるタイプだ。
頭部は平べったくて少し大きく、全体のシルエットが棒のようだから、ラオベイリンからは『釘』と呼ばれている。
「エスペルカミュは隣の国だから、ファーネンヘルトで機械人形が出土するのは許せないってことはあるか!?」
「そういう可能性はありますが……!」
「情報が早すぎる。スパイが紛れているわけだ」
「それは帰ってから洗いましょう。帰れれば……ですが」
オーギティの狙いは明らかだ。白い機械人形と、あわよくばサナ姫を殺しておけばファーネンヘルトの国力は下がる。
機械人形で大国になったエスペルカミュの考えそうなことだと舌打ちした。
白い機械人形を跪かせると、コックピットを開け放つ。
「乗れよ! 足元に居られたら踏み潰すだろ!」
「戦うのですか!?」
「遊んでくれるってわけじゃなさそうだからな!」
マニピュレーターを慎重に操作して少女をコックピット内に迎え入れると、すぐに胸部装甲を閉じて立ち上がった。
「きゃあっ!」
衝撃吸収用のシートに座っているシズマと違い、サナは大きく揺られて転がるようにしてシートの背部へと移動した。
「喋るなよ。舌を噛むぞ。それと吐くな」
「吐きません! わたしは姫でもあります!」
「誓えよ!」
「名に誓って!」
白い機械人形が立ち上がった時、望遠をせずとも確認できるほど三機の機械人形は近寄ってきていた。