八話
よかった、死なずに済む。
と、思うと、そこいら辺りを飛び回りたくなり、空を見ると沢山の鳥が空を舞っていました。
(鳥たちはいいな、自由にどこへでも行けて、人間世界って、どうしてこうまで大変なのだろう)
と、思いましたが、鳥たちは囁いているように思えました。
「ジュンさん、よかったね、仕事が見つかって」
と、言うかのように、鳥たちは祝うかのように、ジュンの頭の上を何回も舞います。
その姿を見て、神の導きに思え、自然の力の働きが動いているように思えるのです。
僕にも人並みの幸せが訪れるように思え、胸がジィーンと熱くなり、不安が取り去られ、生きている実感がひしひしと体を包むのです。
お婆さんがジュンの肩を軽くポンと叩きながら
「ジュン、噂をすればかげよ、ほら、支配人さんがいらしたわ。支配人さん、支配人さん」
お婆さんは支配人さんを大きな声で呼びました。
お婆さんはジュンを支配人さんに紹介しました。
「あゝ、ジュンさんですか。初めまして」
支配人さんは感じのいい笑顔を見せながら、ジュンに握手を求めます。
ジュンは恥ずかしそうに手を出して、握手をしました。
「やあ、ようこそいらっしゃいヘンリー農園へ、と言いたいところだが、坊やはどこから来たの?」
と、優しく聞きます。
お婆さんは支配人さんがジュンを警察に売るような人でない事を、よーく知っていますので、ジュンの身の上話を全部漏らすことなく話しました。
しかし、ジュンは支配人さんを全く知りませんので、そのような様子を見ていると、警察に通報されはしないかと、ヒヤヒヤしながら、黙って立っていました。
お婆さんの話を聴き終わった支配人さんは
「本当にお気の毒に、ここでいいなら好きなだけいるがいいよ」
と、言いました。
支配人さんは、ジュンの背中に軽く手を当てて
「元気を出しなさい。人生には色々あるよ。人も色々。警察も色々だよ。ここを自分の家だと思って頑張りなさい。皆、良い人ばかりだから。頑張りがいがあると思うよ。」
と、人の良さそうな優しい瞳で見て激励しました。
ジュンは自分の耳を疑いました。
心は宙に浮かびぽかーんとしています。
この世の中で自分を犠牲にしてまで、僕をかばうとは、何とお人好しだろう。
常に逆風にさらされてきたジュンでしたから、このような良き人の誠意に、甘えてもいいのだろうかと悩みました。
(確かに支配人さんは、ここにいてもいいと言ってくださったよね)
と、自分に問います。
自分の耳を疑ったりもしました。
それほどジュンにとってはこの農園にいられるという事は、生きるか死ぬかの問題でした。
そのような立場にあったのですが、ジュンは人に迷惑をかけることが一番嫌いでした。
無実の罪とはいえ、警察に追われる身、人の行為に甘えてはいけない、と思いました。
「支配人さん、ここにいてもいいと、言って下さったですよね」
「あゝ、はっきりそう言ったよ。しかし、居たかったらの話だけどね」
と、支配人さんは相変わらず笑顔を見せます。
「でも、支配人さん、僕がここに居れば、殺人犯人を隠した罪で、支配人さんもお婆さんも、大変な事になると思います」
「心配しなくてもいいよ、僕たちは何にも知らずに雇った事にすればいいんだよ」
側にいたお婆さんが
「ジュン、心配しなくてもいいよ、私たちに任せなさい。悪いようにはしないわ」
と、お婆さんも優しく笑いかけます。
「ジュン、警察に追われてることは誰にも言ってはいかんよ」
と、支配人さんが念を押します。
「はい、わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします」
ジュンは、頭をぺこんと下げました。
(世の中には、このような優しい人もいるのだな)
人間とは自分の利益のみに生きる動物だ、とばかり思い込んでいたジュンは、世の中を再発見した思いがしました。
ジュンは、谷底から這い上がっている、自分の心に気付きました。
希望という芽を出している自分を知りました。
こんな大きなお屋敷で、善良な人々に囲まれて働けるなんて!
そう思っただけで、ジュンは夢のような幸せに包まれるのでした。
お婆さんの方に目を移しますと、お婆さんの嬉しそうな目に出会いました。
「ジュン、よかったね」
と、お婆さんの目は言っております。
ジュンは、本当に良い人達に出会ってよかった、と久しぶりに幸せをかみしめていました。
支配人さんとお婆さんは、しっかりと手を握り合って
「ジュンを二人で見守りましょう」
「あゝ、そうしましょう」
と、正義のための闘志を燃やした、目と目で誓い合っていました。




