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十六話

署長の計画は計画どうり運びました。


一人残らず賊を捕らえることが出来ました。


賊は捕らえましたが、署長の胸は晴れません。


無実の罪で、ジュンを死刑台に乗せたからです。


世間体などはどうでもいいのですが、ジュンを酷い目に合わせたことが、申し訳なくどうしたら良いものかと、考えれば考えるほど、自分の軽率な行動に腹が立ちます。


どのようにして罪を償おうか、と頭を抱え込んで考えています。


「そうだ、退職届を書こう」


署長はこれより他に方法はないだろう、と考えています。


そこへ船長が顔を出しました。


「署長、おめでとう」


署長は変な顔をしました。


時もあろうにこんな時、しかも親友から、おめでとうという言葉は、皮肉を言われているとしか思えません。


「船長、今なんと言った」


と、ひどく怒った顔で言いました。


「おめでとう、と言ったよ」


と、優しく笑いました。


「船長、それは皮肉かい」


「俺がどうして親友に皮肉を言わなければいけないかい」


「本気で言ったのか」


「あゝ、本気だよ」


「本気ならなおさら悪い。船長、俺に恨みでもあるのかい」


「俺が署長を恨む?署長、勘違いもいい加減にしてくれよ。おめでとうと言ったのは、他でもない賊を一人残らず逮捕できたことだよ。人々は、みんな喜んでいるよ。それに、一人の負傷者の出さず、署長、相変わらずいい腕しているよ。大成功ではないか。これがおめでたくなくてどうするんだい」


「あゝ、そういう意味かい」


そう言いながらも署長の胸は晴れません。


むしろ顔色は青くしょんぼりしています。


「手柄を立てた割には冴えない顔をして、署長どうしたんだい」


署長は弱々しい声で


「船長、俺、俺はどうしたらいいかい。船長、自分でもわからないんだ。どうしたら罪が償えるか。船長、教えてくれよ」


いつも厳しい顔をして、自信満々の署長ですが、今にも涙が落ちそうな顔です。


「あゝ、ジュンのことかい、それなら心配するな」


「そんなに言ったって、ジュンを死刑台に乗せたんだよ。死刑台にだよ」


「ただ乗せただけじゃないか。ジュンが死んだわけではない」


「しかし、あれは、竜巻のおかげでジュンは助かったのだ。俺が救ったわけではない」


「手柄を立てたんだから帳消しだよ」


「船長、本当にそう思ってくれるのか」


「あゝ、心底そう思っているよ。だってそうだろう、失敗のない人生なんてないよ。人間は神様ではない。完璧には生きられないよ、たまには誤解することだってあるよ。今度の場合は特別だよ。だってさあ、お祈りしただけで、大雨が降り牢石を砕き道まで出来た。誰だって疑うよ。信じる方が無理だろうよ。しかし、神様はいらっしゃるのだね。有難いことだよ。正義の味方がいらっしゃるって事は」


「本当にそうだよ。有難い話さ。俺、ジュンさんに出来る限りの事をしようと思う」


「うん、そうしてやってくれ。俺からも頼むよ」


「俺、ジュンさんの事はそうするが、辞表を出そうと思っている」


「今度の一件でか?」


「あゝ、そうだよ」


「気持ちはわかるけどな、お前はまだまだ捨てたものじゃないよ。人の役に立つよ。人のためになっているじゃないか。だから、人々のためにも辞表なんて事は考えるな。ジュンさんの将来のことを考えてやれば、それで充分ではないか」


「それだけでいいだろうか」


「あゝ、それだけでいいとも。それに、そこにジュンさんを連れて来ている。謝ればそれでいいよ。あんまり自責の念にからまれるな。人々のためにもな」


署長はジュンの側に走り寄り、土下座しました。


「ジュンさん、許してください。死刑台にまで乗せてしまって、この通りです。本当に申し訳ございません」


「いいんです。誰だって誤解する事はあります。いいんです気にしないでください。署長さん、どうぞ立ってください。僕は誤解が解けた事だけで嬉しいんです。どうぞ署長さん、立ってください」


二人は手を握り合いました。


ジュンは死刑台にの恐怖を忘れたわけではないのですが、だからと言って心から反省している署長を恨むような人間ではありませんでした。


心の優しい少年ですので、恐ろしい体験よりむしろヘンリー農園の人々を助けてもらった事を感謝していました。


「署長さん、この度はヘンリー農園の人々を、お助けくださってありがとうございました」


と、心から感謝の念を込めてジュンは言いました。


「いや、、、、、、」


署長は冷や汗をかきながら恥ずかしそうに


「こちらこそ、貴方のお陰で凶悪犯人を捕らえることができました。お礼を言うのはこちらの方です。貴方のお陰で、ヘンリー農園の人々は助かったのです。賊を一人残らず捕らえた今、人々も安心して働けるというものです。ジュンさん、本当にいろいろ大変でしたね。実に面目しだいもありませんが、ご苦労様でした」


このようにしてジュンの誤解はとけました。


ジュンは、自由の身となったのです。


逃亡生活から解放されたので、ジュンにとって、これほど幸せな事はありませんでした。


自由の身となったジュンは、まず最初にお婆さんに会いたいと思いました。


お婆さんに会えると思うと、嬉しくて涙が流れそうです。


ジュンにとってお婆さんは、親以上の存在ですから。


そこへ支配人さんが走り寄ってきました。


「ジュン」


「あゝ、支配人さん」


二人は懐かしさのあまり抱き合いました。


そして、支配人さんは、ジュンの肩を優しく抱きながら


「ジュン、元気で何よりだ。話はみんな聞いたよ。ジュンのお陰で、ヘンリー農園が助かった事、ジュン本当にありがとう。大変な苦労だったね。ご苦労さん、大変な思いをしただろうね」


ジュンの目に涙がキラリと光りました。


それがジュンの答えでした。


「支配人さん、お婆さんはどうしていますか」


「お婆さんは、前より大分元気になったよ」


「そうですか、よかった」


ジュンは、歓声をあげそうになりました。


そこへ、ヘンリー農園の人々がぞろぞろとやってきました。


懐かしい顔ぶれです。


「ジュンさん、警察の人々から聞きました。命を助けてくれてありがとう」


「いや、お互いですよ。死刑台から助けていただいて、本当にありがとうございました」


「ジュンさん、お婆さんが待っているよ」


「そうですか、僕、お婆さんに会いに行ってきます」


「そうしたらいいよ。お婆さんきっと喜ぶよ」


異口同音に言いました。


久しぶりにお婆さんに会えると思うと、胸が弾みます。


ジュンはお婆さんが寝ているベッドを目指して走りました。


「お婆さん、お婆さん」


「おゝ、ジュン、ジュンだよね。夢ではないよね」


お婆さんは、ベッドの上に座りジュンの頭を撫でながら


「本当に無事でよかった」


と言って、涙を流しています。


「お婆さん」


二人は、本当の母と子のように抱き合って、再会を喜び合いました。


「お婆さん、大分元気になったみたいですね」


「そうだよ、ほら、座れるようになったんだよ」


「本当に座られるようになったね、よかった。心配してたんだよ」


「お婆さんだって、ジュンが死刑台と聞いた時、必死になって神様にお祈りしたんだよ」


「お婆さんありがとう。だから竜巻がきてくれたのかもしれない」


「お婆さんのお祈りなんかそんなに効き目はないよ。でも、よかったよかった」


お婆さんは、とめどもなく流れる涙を、どうする事も出来ませんでした。


「年をとると涙もろくて困るんだよ」


独り言のように呟きました。


そこへ、船長を始め、署長やヘンリー農園の人々が集まりました。


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