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十五話

〜ヘンリー農園の危機〜


ジュンは、船長さんに今までの出来事を話しました。


そして、ヘンリー農園の人々を助けてください、と頼みました。


話を聞き終わった船長さんは


「よし、よくわかった。僕に任せなさい」


そう言って、警察に連絡をしました。


電話に出たのは、船長の学生時代の友人である、クエートン署長でした。


船長は、事情を話しことの重大さを述べました。


署長も船長の話に


「うん、うん」


と頷きながら聞いていました。


ジュンという人間は、何者か?それは、自分たちが今、血眼になって探している殺人犯ではないか、警察側としては、喉から手が出るほど、欲しい人間です。


署長の目は輝きました。


「船長、そのジュンを俺に渡してくれ」


「いや、それはできない」


「なぜだ、賞金が山ほどかかっているというのに、警察も賞金を出したというのに」


「ジュンは、犯人ではないからだ。僕の正義感が渡さない」


「どうしてそれがわかる、今出会ったばかりの少年の言うことを信じているのか、長い間の友情はどうしたのだ。お前がそれほどバカだとは思わなかったよ、長年勤めた退職金の何倍もの賞金が貰えるというのに」


いささか、船長もムカッとしました。


しかし、今は県感度している場合ではない。


署長がわかるまで話し合わなければならないと、思い直しました。


「おい、船長。僕をからかうのも大概にしろよ。神様にお祈りをしたら、大雨が降って岩戸が崩れ道まで出来ただと、そんなことが信じられるか。未だかつてそんな事があったか。船長、お前はいつから妙な宗教の信者になったのだ」


相変わらず署長は、口汚くののしっています。


しかし船長は、穏やかに説得します。


「署長、そのような奇跡が絶対に起きないとは断言できないだろう」


そのように言われてみれば、思い当たる事が多いのに気付きました。


ジュンを追うたびに霧が発生したり、大雨が降ったり、竜巻に警官を奪われたり、偶然にしてはあまりにも、不思議な出来事ばかりです。


署長は


「うーん」


と唸りながら、額をポンポンとげんこつで叩きました。


(ひょっとしたら、ジュンは天使では?バカな現実において、そのような事があるわけはない。しかし、だよ。あまりにも偶然が重なりすぎているよ)


署長は、今度は頬をつねってみました。


やはりいたい。


(船長の言う通り、これは考え直さなければならない事件だ。船長の言葉には心を打つ真剣なところがある。これは、ガセネタではない、賊が来るかこないか、これにかけてみよう)


と、思い始めました。


その時、催促するように、船長は


「おい、署長、聞こえているのか」


「うん、ちゃんと聞いておる」


「ぐずぐずしている場合じゃないぞ。まず、賊を捕らえろ。なんといったってそれが先だ。この件に関しては新聞で知ったが、署長らしくないぞ。失敗ばかりして、よいか、頭をよーく冷やして、よーく聞いてくれ。署長はジュンにこだわり過ぎているぞ。とにかく人の命がかかっているのだ。ヘンリー農園へ行って、農園の人達を救え。それが先決だ。いつも署長に命令されてきたが、今度は俺がお前に命令する。今すぐヘンリー農園へ行き、賊を捉える準備をしろ。もし、賊が来ない時は俺が全責任を持つ」


「船長、わかったよ。賊が来るかこないかに賭けよう。今回はお前の顔を立てよう」


「俺の顔などどうでもよいが、どじるなよ。成功を祈る」


「持つべきものは親友だな」


「ジョークなど言っておる場合か」


「それもそうだ」


クエートン署長も優秀な署長さんですが、今回に限りどうかしていたのでしょう。


ジュンのことでは署長らしくありませんでした。


署長はただちに大勢の警官を率いてヘンリー農園へと急ぎました。


早速、ヘンリー農園の人々に事情を話し、他の場所へ避難してもらいました。


署長自ら、農園の下男の服を着て、婦人警官を下男の妻に仕立て上げました。


警官は全員、農園の人に変装したのです。


署長はみんなの前で


「それでは、今から賊をどのようにして逮捕するかについて説明します。なんといっても賊は極悪犯です。心してかかってください」


「はい」


「はい」


「まず、第一に賊に悟られないように。農園の人になりきって、自然に仕事をしているように見せかける事。これは、賊をおびき寄せる手段です。第二はここにある、、、、」


と、署長は瓶を手に持って高々と上げました。


「これはブドー酒の瓶に催涙弾を詰め込んで、ブドー酒に見せかけておりますが、あくまでも催涙弾です。この瓶をあのブドー酒倉庫に、五十本置いております。本物のブドー酒は他の場所に保管しております。賊が来れば私が咳払いをします。そしたら、僕が持っている催涙弾の入った、この瓶を倉庫に運んでください。賊はきっとブドー酒を狙い、あの倉庫に入るでしょう。いや、賊がそのように思うように、みんなの力で誘導してください。倉庫に賊を引き入れるのです。もし、この作戦に失敗すれば、賊と斬り合うしかないのです。そうなれば、あなたたちが被害にあいます。だからなんとしても、あの倉庫に賊を引きつけねばなりません。それにはブドー酒倉庫は、ここだよ、ここだよ、と敵に思わせるのです。賊が罠にハマれば、皆さんは倉庫から離れてください。導火線に火をつけます。火をつけると倉庫の中にある催涙弾が、煙を出す仕掛けになっています。賊はびっくりして倉庫から飛び出すでしょう。そこを狙って逮捕するのです。私の咳払いを注意深く聞いていてください。皆さん、失敗のないように、みんなが力を合わせて、一人残らず捕まえようではありませんか」


「はい」


「はい」


時計を見ると午後三時です。


船長の話によれば、賊がやってくるのは夕方だとの事なのですが、日が暮れ暗くなれば仕事にならないので、5時頃には来るだろう、と署長は推定しています。


警官たちは、緊張の時が流れました。


時を刻む秒針の音と、心臓の音が静けさを破ります。


それほど静かでした。


ただジィーっと、に時間が過ぎ去るのを待っております。


話をしたり咳払いをしたりする人は一人もいません。


長い二時間です。


その静けさの中に、バサバサと人の忍び寄る音がします。


やはり賊は来ました。


ジュンを信じた船長の言った通り賊は来ました。


今まで署長はジュンを捕らえる事に執念を燃やし続けていました。


しかし、犯人は他にいたのです。


(俺ともあろう者がなんという勘違いをしていたのだ。しかし、今は後悔などしている暇などない)


署長は咳払いをしました。


警官たちは、一斉に仕事にかかりました。


賊たちは


「おい、あれを見ろよ。今、ブドー酒を運んでいるぞ」


「そうですね、あの倉庫がブドー酒の倉庫のようです」


賊の話し声が警官たちの耳に入ってきます。


それほど静かでしたのどかな農園なのです。


美しい自然に囲まれていますが、この美しい自然に相反し、今、起きているものは、人間のどす黒い欲望と殺人です。


「あの倉庫に行って、ブドー酒を持っている奴を殺せ。そして、ブドー酒を盗むのだ」


と、命令的に言います。


その冷たい言葉は頭領です。


警官たちは、賊の話し声で罠にはまったと内心にたりとしています。


「お頭、農園の奴らはブドー酒を運び終わったとみえて、部屋の方へと帰っていきます」


「うん、そうか、いくら俺たちでも必要以上の殺傷はしたくない。物さえ手に入ればいいのだ。今のうちに乗り込んで、ブドー酒を盗もう。値段の高いのから袋に入れられるだけ入れて馬車に運べ。馬車いっぱいになったら引き上げる。農園の奴が俺たちに気が付けば、殺せ、よいな」


賊たちはっ目をきょろきょろさせながら、倉庫の中へ忍び足で入って行きました。


署長は、今だとばかりに導火線に火をつけました。


倉庫の中から煙がもくもくと立ち込めてきました。


賊たちは


「ゴホンゴホン。一体どうしたというのだ。なんの煙だ」


ブドー酒だとばかり思っていた賊にとって、思わぬ変な歓迎に途方に暮れています。


いったい何が起こったのだろう。


ブドー酒は何に化けたのだろう。


「お頭、これは何ですか」


「わかるくらいなら苦労はないわ。おゝ、こりゃーすごい煙だ。ゴホンゴホン。おーい、みんな馬車に戻れ、また出直すぞ」


煙にむせりながら賊が出てきます。


警官たちは、今だとばかりに手錠を賊の手にかけます。


次から次へと賊は警官に捕まりました。


用意してあった自動車に、警官たちは賊を乗せようとしますが、賊は何とか逃げようと暴れます。


「おとなしくしろ、逃亡を企てると殺すぞ」


と、言って、警官がピストルを向けます。


賊は


「「殺しきるなら殺せ」


「そうだ、そうだ、正当防衛にはならないぞ、お前たちが死ぬはめになるぞ。それでも良いのか。逃がしてやったほうがお前らのためだ」


「そうだ、そうだ、死ぬのはお前たちだ。死にたくないと言って、慌てふためくお前らを見てみたいものだ」


と、言って、警官に唾を吐きかけます。


賊は何人もの人を殺しているので、捕まれば死刑だ、と思っているので、力のある限りで抵抗し暴れます。


警官が空に向けてピストルを、一発ドンっと撃ちました。


「静かにしろ。職務妨害で殺すことだってできるんだぞ。死にたいのか、ごちゃごちゃ言わずに自動車に乗れ」


一人の賊に十人の警官が包囲しました。


賊も観念したのかパトカーに乗りました。


十五人の賊は15代のパトカーに一人づつ乗せられ、一台のパトカーに四人の警官が乗り、一台のパトカーに白バイが六台つくという、物々しい警戒ぶりです。


何と言っても、凶悪犯の団体です。


今まで、何十人という人を殺し、全財産を奪い、その被害者も自殺に追い込められる、という悪者の集団という事もあって、警察は一人も逃してはならぬ、ということで警戒ぶりは厳重なものでした。

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