十二話
キャシャリンは、とっても可愛い顔立ちをしていました。
ジュンは今まで味わった事のない幸せが、全身を包むかと思えば、なんとも言えない苦しみに出会いました。
これが恋ということが分かりませんでした。
キャシャリンの笑顔はジュンにとって、ただ一つの生きがいになっていました。
そんなある日、キャシャリンが
「お姉ちゃん、お風呂に一緒に入ろうよ」
と、言い張ります。
ジュンは困りました。
男性だと分かれば大変だ、とも思いますが、キャシャリンには本当の事を言おうか、と迷いました。
しかし、ちょっとの事でバレるかもしれない、と思うと
「今日は体の調子が悪いので床に入るから」
と言って、眠ってしまいました。
ジュンの女装は素晴らしいものでした。
命がかかっているからでしょうか。
誰が見ても女性に見えました。
美しい女性に変身しました。
その美しさは人の目を引き、人の注目を浴びるようになりました。
そうなるとジュンは生き辛くなるのですが、近寄って来る男性が多くなるのです。
その中に警官もいます。
その警官の前でうっかり
「僕が、、、」
と、言ってしまいました。
その警官はびっくりして
「僕と言ったよね?」
と、言います。
ジュンはどうしよう、と思い心の中でヒヤヒヤしていました。
「あのー、私には兄がいたのです。今は天国ですが、その兄が、いつも僕、僕と言っていましたので、それが移りまして」
と、言うと、その警官はさも面白そうに笑い、ジュンはほっとしました。
「そういう事ってあるよね、僕には姉がいて、いつも『そのようなことはしないほうがいいわよ』と言っていたので、僕もついそんなに言って笑われていたよ。今日、どうですか?食事でも」
「とっても嬉しいわ。しかし、おじいさんと妹がお腹を空かせて待っているから」
「あゝ、そう。ではまたの機会に」
「ええ」
深々と頭を下げて、急いで家に帰りました。
そのようなジュリーに工場主の一粒種の息子が惚れてしまいました。
「嫁にするならジュリーを。お父様お願い。僕の願いを聞いてください」
と、泣き縋りました。
父さんは
「分かったよ、しかし、なんと言ってもジュリーさんが何と思ってくださるかだよ、父さんも本当によくできた娘さんだと、思っているが」
「だから、早くしないと他のものに取られてしまいます」
「うん、早く手を打とう」
「お父様ありがとう」
ジュンにとっては大変な迷惑が持ち上がってきたのです。
やっと幸せな生活ができていたのですが、ここも安住の場所ではありませんでした。
おじいさんとキャシャリンに書き置きして、おじいさんの家を出ました。
家を出ても行くあてなどなく、とぼとぼと歩いて行きました。
吹雪が容赦なく身を凍らせます。
どこか身を寄せる所はないかと探していると、民宿と書いてある看板が目にとまりました。
働いて蓄えたお金がありましたので、寒さの為、飛び込みました。
美しい女将さんが出迎えてくれました。
優しそうな瞳、その瞳はコアラのような可愛い目をしています。
しかし、その奥に隠されている計算ずくめの目、ジュンは見出すことができませんでした。
このような奥にある計算ずくめの目は、神様でなくては見出すことは出来ません。
このような計算ずくめの心を、直感できるなら、人生行路も楽しく過ごすことができるのですが、サタンの作りしその目は青空のように澄み、何の汚れもない涼しい美しい目でした。
その毒芽の目の罠にはめられたジュンは、何も知らずに、その女将さんの言葉に従いました。
「お風呂にどうぞ」
と、言われ、風呂に入り暖まり、食事をどうぞと言われ食事をし、満腹のお腹で床につきました。
ジュンは疲れていたので、ぐっすりと眠りました。
女将は
(あの人は女ではないよ。男だよ。髭が濃ゆいもの。ひょっとして、今評判になっているジュンでは?)
女将は賞金稼ぎに早変わりしていました。
男か女か性別を確かめるために水を枕元に持って行き、わざと水をこぼし
「あら、ごめんなさい。お布団が濡れたから、お布団を変えますから」
と、言って、布団をはぐった、思った通り急所が膨らんでいた。
(思った通り男だ、この少年はジュンよ、女に姿を変えていたので、誰もが『この世からジュンの姿が消えた、霧がさらって行った』と大きく新聞に報じられていたが、霧がさらう訳がないもの。
女に化けているとは、ジュンも考えるものだね。
しかし、これが最後よ、私が捕らえた。
わぁー嬉しいわ、思わない所から大金が転がってくるとは、私に幸運の女神がほほ笑んだのよ)
と、狂喜した。
そのことにジュンは気づかなかった。
そのまま眠った。
自分が警察に売られ、死刑台に立たされることも知らずに、気持ちよさそうに眠っている。
女将は警察に連絡し売り飛ばした。
女将は警察官に
「賞金をください」
と言った、警官は
「ジェムスから貰え、警察は賞金は出すとは言っていない」
「あゝ、損した。ジェムスならお金はくれないよ、ジュンを泊めておけば宿泊代が稼げたのに」
と、悔しがりました。
そのような運命の中にいることも知らず、ジュンはすやすやと眠っていました。




