7:愉快と混乱の学園祭(前編)
現在、生徒会室には生徒から提出された学園祭の出し物申請書が積み上げられている。基本、クラスや部活、同好会単位で申請することになっているんだけど別に個人で出したってかまわない。とはいっても個人で提出なんてのは、あの人しかいないわけで。
「じゃーん!法哉、今年もよろしくな!!」
天野先輩がうきうきとした様子で申請書を持ってきたことに驚く人間は生徒会室にはいないのだ。
交流合宿のとき発明品を暴走させて犬山先輩を巻き込んだ天野先輩は、その後犬山先輩に「スペシャル定食」を1ヶ月おごるはめになった。その後、なぜか発明品お披露目がなくなり落ち込んでいるのかと思っていたけど、それは違っていたらしい。
「ふっふっふっ。構想に3ヶ月もかけたんだぞお。最後の学園祭だからそりゃあ念入りに設計もしたんだ~」
「……佑が念入りに設計したって聞くと恐ろしいと思ってしまうのは俺だけか?」
当たり前のようにソファでくつろぎまくっていた白石寮長がむくりと起き上がりうろんげに天野先輩を見た。
「和樹、それって失礼だ!」
「だってお前、今までの発明品だって念入りに設計して作ったもんだろ?」
「そりゃそうだよ。少しのミスだって命取りなんだから」
あれで念入りってことは…俺は思わず遭遇した発明品を思い出す。今回の発明品は許可しないほうがいいんじゃないのか?
「確かに和樹の言うとおり佑の“念入り”って不安しかないよね」
会長、ズバッと斬り込みすぎです。でも俺と同じ考えだってことがちょっと嬉しいかも。
「法哉、ひどいぞ」
「ひどいって言われても。佑、昨年と一昨年の学園祭どうなったんだっけ?」
あ、会長の微笑みがなんか黒い。そして天野先輩がおののいてる。なんとなく想像はつくけど、俺は近くにいた青木先輩に小さい声で聞いてみた。
「青木先輩、昨年と一昨年の学園祭で何があったんですか?」
「一昨年のことは僕も会長から聞いただけなんですけど、発明品が煙を出しながら暴走して、あわや初代校舎に衝突するところだったらしいですよ。昨年は、受付を助けると言って案内ロボットを作ってくれたんです。午前中は順調だったんですけどね、人の熱気にショートしちゃって案内どころか校舎から脱走してしまいまして。まあ幸いにも敷地内の一角で動けなくなって無事に回収できました」
初代校舎って、いずれ重要文化財間違いなしってやつだよな。それに衝突寸前て…下手したら貴重な遺産が発明品の暴走でパーだったってことか……天野先輩、いろいろすごいな。
そんな俺たちの小さい声をよそに、天野先輩は大久保会長と白石寮長に今回の発明をプレゼンしている。
「 “2代目案内ロボごあんないざえもん”は昨年の失敗を踏まえて、ちゃんと熱にも強くなってるんだぞ」
「ほんとかよ。俺、一昨年と昨年みたいに回収につきあわされるのは嫌だぞ」
「それにそれに、今回はタッチパネル方式で来場者が選択した場所が詳しく出てきたりするんだ」
「ほー、初代ござえもんよりバージョンアップしたじゃねえか」
「ござえもんじゃなくて、ごあんないざえもんだ!」
さっきまで回収につきあわされたと不服そうに言ってたくせに、白石寮長は天野先輩の話す“2代目ごあんないざえもん”の内容に興味津々。
あー、やっぱりなとその場にいた誰もが思ったのは間違いない。
「結局、和樹は佑の発明品が好きなんだよね。まったくもう、しょうがないなあ。じゃあ僕からの条件をのむなら申請を許可するよ」
会長はやれやれと苦笑いをした。
「条件?」
「まずは、ロボを受付の隣に置いておいて佑一人で動かさないこと。それから…」
なぜか、会長の視線が俺で止まった。う、これはものすごく嫌な予感いや、確信が。
「佑がロボを動かしていいのは助手の澤田くんが見回りを担当する時間か典の空き時間に限る。澤田くん、悪いけど助手ということでよろしくね」
この場合の会長の“よろしくね”は“決まりだよ”と同じ意味である。俺、バスケ部開催のたこ焼き屋で接客、クラスのお化け屋敷で裏方、天野先輩とロボと一緒に見回り……たこ焼きとお化け屋敷はともかく見回りを滞りなく終わることができるかどうか、俺はものすごく心配になってきたのだった。