2:ここは生徒会室
「ちーちゃん、今日はまっすぐ寮か?」
「ちーちゃんいうな。今日は生徒会で交流合宿の打合せだよ。修吾は部活か」
修吾は剣道部に入っている。俺はバスケ部で生徒会と兼務だ。部活と生徒会で俺は結構忙しいはずなんだけど、なぜか天野先輩の実験につきあう時間がきちんとあるのが我ながらちょっと怖い。
「今日は宮島先輩が俺たち1年生に稽古をつけてくれるんだ~、楽しみだなあ」
修吾が手に持っているのは竹刀と道着が入った袋だ。遠征のときは防具もいれていくというその袋は黒くてでかい。
「宮島先輩?」
「ちーちゃん、知らないのかよ。うちの2年生で現在の高校剣道個人王者!文武両道のすげえ人なんだ~。俺はさ、あの人と剣道をやりたかったのがここを志望した動機の3割だ!!」
「……残りの7割は?」
「そんなの俺の学力と将来の進路を冷静に考えた結果だろうが。当たり前のことを聞くなよ」
「そ、そうだよな。ここで勉強してれば塾行かなくていいしな」
「そうそう。部活もたっぷりできるしな。じゃ俺いくわ」
「おー、がんばってこいよ~」
よかった。もし宮島先輩が動機9割とか言われたら、俺はどう対応していいか分からなかった。
時間通りに到着して生徒会室の扉をあけると、すでに先輩たちは来ていた。
「遅くなってすいません」
「僕たちが早く来ちゃっただけだよ。澤田くんは気にしないで」
にこやかなのは生徒会長の大久保先輩。
「会長の言うとおりです。気にしないでくださいね」
会計の青木先輩は副寮長も兼任していて、俺たち1年生にも敬語で話す。“敬語で話すのは僕のくせなので、気にしないでくださいね”と言うけれど、やっぱり気になる。
「澤田くん、今からお茶をいれるけど紅茶でいいかな。今日はナッツクッキーだよ」
ティーポットを片手に聞いてくれるのは副会長の西月先輩。生徒会室での仕事はいつも穏やかにお茶とお菓子をつまんでから始まる。
「あ、そうそう合宿が終わる頃にはおもしろいものが配られるはずだから楽しみにしててね」
「おもしろいものですか?」
「毎年寮長が作るのが決まりなんだ。いろんな意味で役に立つと思うよ。和樹が今日たたき台を持ってくるって言ってたんだよね~」
寮長作成のいろんな意味で役に立つものってなに?俺の頭のなかは疑問だらけになる。
「会長、寮長が来ると間違いなく打ち合わせができません。さっさと始めたほうがいいと思います」
「うん、それもそうだね。合宿の打合せを始めようか」
お茶を片付けてきた西月先輩が提案すると大久保会長もあっさりと賛成し、俺たちは打ち合わせを始めた。
交流合宿は隣の市にある合宿所で1年生から3年生までのグループごとに大部屋で2泊3日の日程で行われる。何をするかはグループで自由に決めていいため、合宿の日程が決まると寮でもグループごとに集まり議論が活発になるらしい。
「高原リゾート地が近くにあるから、だいたいグループで遊びに行くことが多いかな。ただし夜は皆で勉強するのが決まりだよ。あ、ちなみに澤田くんは僕たちと同じグループになるからね。ちなみに和樹と佑、典も同じだから。1年生からは大隈くんかな」
「え。なんでですか?!」
大久保会長の発言に俺は驚く。さっきの打合せでグループ編成はこれから考えるって言ってたはず。
すると会長はにこっとすると俺の肩をぽんぽんとたたいた。
「生徒会役員がバラバラになると、騒ぎを起こしそうな人間に速やかな対応ができないでしょ」
騒ぎを起こしそうな人間といえば、あの2人。当然ストッパーは同じグループにしておいたほうがいい。そして “助手”認定されている俺(ああ、非常に不本意だ)が組み込まれるのは当然なわけで。
あれ?でも修吾は?
「あの、修吾はどうして俺たちと同じグループに」
「大隈くんはきみの友達のなかで、唯一佑に対して怖気づいてないから。中学トップクラスの生徒しか集まらないここの生徒でさえ、佑には一歩ひいてるのが多いからね。まあ、しょっちゅう騒ぎを起こしてるのと3年連続首席ということでしょうがないんだけど」
は?ここの首席ってことは……えええっ!俺の反応を見て大久保会長はますます楽しそうな顔になる。
「ふふ、昨年の今頃は青木くんも西月くんも似たような対応をしてたのを思い出すなあ」
すると青木先輩と西月先輩がちょっと恥ずかしそうな顔をした。そっかー、先輩たちも俺と最初は同じだったのか。それが1年たつとああなるのか…俺も来年は同じになるのかな。でも俺必殺技もないし、怒ったら怖いなんて思われたこともないんだよな。
「まあ、騒ぎといっても最終日に佑が発明品を発表しようとするのを阻止するくらいなんだけどね」
「でも、昨年は結局阻止できませんでしたね…“お掃除犬ポチっと10号”でしたっけ」
「あのときは学習室を皆で片付けましたよね」
皆って、きっと今の生徒会役員と寮長と木ノ瀬先輩だよな。なんとか持込を阻止する方法はないんだろうか。
俺は天野先輩の発明品騒動話で盛り上がっている先輩たちのそばで必死に考えていた。