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8:愉快と混乱の学園祭(後編)

長文になります。ご了承ください。

「俺、今日はなんか失敗しない予感がする」

 ほんとにそうだと思いたい。思わず俺たちの間を歩く「ごあんないざえもん」に視線を移した。ごあんないざえもんは、大きさは90cmほどで短めのミトンの手(伸縮自在の腕で階段を昇降する際にも使用)。頭にちょんまげをイメージしたものをつけ(天野先輩いわくセンサーとカメラ)、おもちゃの刀を差し背中にはカバンをしょっている。顔がモニターになっていてふれるとタッチパネル形式の学園祭の案内項目が出てくる。

「ほんとにそうあってほしいですよ」

「助手は心配性だなあ」

 いや、天野先輩の発明品は面白いけど成功率は甚だ怪しいと学園の誰もが思っていることです。

「あ、そうだ。あと30分くらいで典が合流するって連絡きたから、どっかで待ってないか?」

「いいですよ。あ、じゃあ人通りのない場所のほうが探しやすくていいですよね」

 そのほうが、ごあんないざえもんがどうにかなっても安全だし。

「そうだな~。あ、専門棟と教室棟の間にある庭はどうだ」

「じゃあ俺、木ノ瀬先輩に連絡しときます」

 俺が待ち合わせ場所をメールすると、すぐに木ノ瀬先輩から“了解”と短いメールが来た。


 専門棟と教室棟の間にある庭に向かうと、日当たりのいい芝生のうえに人影。もしかして…と思ったら、すうすうと気持ちよさそうに寝ている飯田橋先輩。

「千都、気持ちよさそうに寝てるなあ」

「天野先輩、木ノ瀬先輩が来るまでおとなしく待ちましょうね」

「なあなあ。ごあんないざえもんの機能を知りたくないか?」

「別にしりたくない…」

「そっかー、知りたいよなあ。ふっふっふーん、実は目覚まし機能があるのだ~。えいっ」

 俺の言うことなど馬耳東風の天野先輩は取り出したリモコンのピンク色のボタンをポチッと押してしまった。

 すると、ごあんないざえもんが飯田橋先輩に近づくとぴぴぴぴと音を鳴らし始めた。しかもミトンの手で顔をふにふにとひっぱり始めている。

 でも飯田橋先輩は起きる気配がない。飴か西月先輩のクッキーが有効だけど、俺今どっちも持ってないんだよなあ……。

「ん~…うるさい~…」

 飯田橋先輩がもごもごいうと同時に右手がべしっとごあんないざえもんをたたいたそのときに、異変は起こった。


 まず顔をつかんでいた手が止まってだらりと離れ、鳴らしていた音が消えた。そしてピーっと大音量が周囲に響き渡る。

「わ?!」

「どうしたんだ、ごあんないざえもん!!」

「……ああ、やっぱり」

 飯田橋先輩が目を覚ますのと、天野先輩がごあんないざえもんに近寄ってモニターを見たのと、俺がため息ついて頭抱えたのはほぼ同時。

「……あ、発明失敗大王がいる。ん?書記もいる」

「俺は発明失敗大王じゃない~っ。うわ、ごあんないざえもんがあああ」

 なぜかがっくりしている天野先輩の後ろから、いったいどうしたのだろうかとのぞきこむと顔のモニターに「ERROR」という赤い文字が点滅している。

「えっ、なんですかこれっ!!」

「ううう~、千都がたたくからだ」

「…起こす発明失敗大王が悪い」

「天野先輩、どっちが悪いとかじゃなくてエラー表示をどうにかしたほうがいいです!飯田橋先輩、目が覚めたら俺と一緒にまずは離れましょう」

「ん~…」

 俺はまだ眠そうな飯田橋先輩をひっぱって、そこから少し離れた。うう、木ノ瀬先輩早く来てくれないだろうか。はっ!もし爆発なんてしたら学園祭台無しじゃないか!!俺は、慌ててケータイを取り出し、急いで会長、寮長、青木先輩に西月先輩に連絡をいれた。

 こうしてる間にも、ごあんないざえもんはエラー表示を出しつつ今度は周囲をうろうろし始めてしまった。しかも顔のモニターがカウントを始めている…。

「天野先輩、モニターがカウント始めてますけど?!」

「うわ、なんで?驚きクライマックスボタンを押してないのに?!」

「……先輩、何仕込んだんですか。カウント、とめてくださいよおお」

「ごめん、助手………無理」

 ごあんないざえもんはカウントを始めながら庭の中央部に向かっていき、立ち止まった。

 その頃、ようやく木ノ瀬先輩が息を切らして現れ後から先輩たちも駆けつけてくれたけど、もう遅い。

 顔のモニターが3・2・1とカウントを減らし、背中にしょったカバンからしゅるると空に向かってロケット花火がうちあがった。昼間の花火ほどむなしいものってあっただろうか…音と火薬の匂いを漂わせつつ、ごあんないざえもんはぷすぷすと煙を上げ壊れたのだった。



「俺、結局3年連続佑の失敗作を回収かよ~」

「和樹、僕だってそうだよ」

 白石寮長が軍手をはめながら、ごあんないざえもんだったものを拾い上げた。周囲では俺と木ノ瀬先輩と西月先輩に飯田橋先輩、そして俺を呼びに来た修吾がせっせと残骸を拾ったり火薬が燃えてないか点検をしている。

「ちーちゃんを呼びに来てこれか~」

「悪いな修吾」

「いいって。でも今度俺にクッキーな」

「書記もクッキー焼くんだ~」

「ええ、でも西月先輩ほど美味しく焼けないんですよ」

「そっかあ」

「大丈夫。澤田くんは素直だから教えがいがあるよ。頑張ろうね」

「はいっ」

 回収組のわりと暢気な会話に比べて、天野先輩のほうは会長と青木先輩に挟まれて恐れおののいていた。

「佑。3年連続失敗ってどうかと思うよ?」

「う、それはごめん。でも今回は千都がたたいたからだ」

「そもそも寝てる飯田橋くんを無理やり起こそうとした佑が悪い。青木くん、持ってきてくれた?」

「はい。まさか今年もこの出番があるとは」

 執事服を着た青木先輩(クラスで執事喫茶をしていたらしい)が、取り出したのはバインダー。まあ、大魔神降臨よりはマシか。


 その後、涙目の天野先輩も片付けに参加して庭はいつもの静かな風景に戻ったのだった。

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