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壊れた極彩色  作者: 州川良心
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日常異談

壊れた極彩色 


第一章日常異談 


 外は暑かった。今年一番の暑さであった。日差しが肌に突き刺さり、二人の男の表皮は赤黒く染まっていた。快晴の青空のもと、表の公園では子供たちが楽しそうに遊んでいる。裏の人気のない一本道を挟んで小さな墓地がある。木に覆われており、陰は多いのだが今日という日はその日陰を貫くほどの熱が降り注いでいた。そこに二人は立っていた。


「なあ、ばけやん。なんで俺ら真っ昼間からこんな小さな墓荒らしてんだ?やるなら夜でいいじゃねえのか?」


一人の小柄な男がもう一人の大柄な男に悪態をつくような態度で尋ねた。しかし大柄な男は微動だにせず黙々と穴を掘り続けていた。こうなると何を言っても無駄だった。


「仕事に熱心なのはいいけどさあ。もう少し周りに気を配るってことを覚えてくれよ。わざわざ今日みたいに暑くて比較的通行人もいるって時になんでまたこんな仕事引き受けるちゃたのかねえ?」


小柄な男は語尾になるにつれだんだん声量を落として座り込んだ。

小柄な男の見た目は非常に幼く今から小学校に入学してもさしつかえのないほどの童顔であった。身長も150センチほどで頭は坊主であった。頬には一つの傷がありいかにも近所のクソガキという風貌であった。力もないのかスコップで土を5回ほど掘り返した時点でこのありさまであった。


「しかもあの依頼人のじいさん狂ってるぜ!なんでか知らねえが死んだ息子の墓からシャレコウベだけ持って来いなんて・・・。そんな罰当たりなことを今日の夕方までに済ませろなんて依頼してくるなんて常識人の考えることじゃねえ!」


小柄な男は赤ん坊のように足をばたつかせながら水筒の水を飲んだ。しかしすぐに吐き出した。


「おい!なんだこの水!生臭くておまけにほんのり血の味まで混ざってやがる!あのじいさん、ここの水はうめえから飲めと勧めてきたはいいが、こんなまじいの生まれた初めてだぜ!これならそこらの別嬪のゲロを直飲みしたほうが栄養もあってましだろうな!」


そういうと小柄な男はけらけらと笑い出した。冗談を言ったつもりだったが大柄な男は気にもとめずに穴を掘り続けていた。小柄な男はつまらないといった感じで地面に寝転がり目を閉じた。するとその時、やっと大柄な男が口を開いた。


「これ・・・だ」


小柄な男はすばやく立ち上がると穴の中を覗き込んだ。するとそこにはサッカーボールほどの頭蓋骨の断片がほんの少し見えていた。想像以上に白く新しいものであった。しかし骨はスコップ一突きでひびが入りそうな脆さも兼ねそなえているようであった。


「ここからは慎重に・・・」


大柄な男は足元の麻袋から一回り小さいシャベルを取り出し頭蓋骨の周りの土を丁寧に取り除いた。しばらくして頭蓋骨の全貌が露わとなった。目にあたる部分は大きな穴があり、脳の部分は横に大きく広がっており子供特有の頭でっかちな形状をしていた。大柄な男はそれをものともせずに足元の革袋の中に詰め込んだ。やはり外見上はボールか何かを入れているようにしか見えないのだった。


「どうだ治夫。これならお前と手をつなぎながら革袋を担いでいたとしてもサッカーを練習に行く親子にしか見えないだろ?それかバレーボール・・あとはドッジボール・・あと・・」


「ああそうだな!てかもういいよ球技の話題は!」


治夫は大柄な男の尻を蹴り上げた。しかし男は微動だにしなかった。


「それよりそろそろ約束の時間だ。さっさと届けて金受け取っておさらばしようぜ!なんだか気味がわりいじいさんだからよ」


治夫はそわそわしていた。強がった口調であったが内心は小心者で気が弱く臆病者である事を大柄な男は知っていた。


「お前は怖いのか?あの男が」



「ばけやん何言ってんだよ!オラはあんな奴小指でなぎ倒せるわ!そのあとは馬乗りになってあの気味の悪い顔面の皮を引き裂いて顔面の筋肉の動きを観察したるわ!」


治夫の一人称は俺のはずであったが同様のあまりオラと噛んでしまったのは、彼の内面の弱さも影響してのことであった。


「そうか。それは楽しみだな。期待しておくよ。」


大柄な男、ばけやんと治夫に呼ばれる大柄な男は淡々と返答した。


「おっおお!楽しみにしとけよ!けど観覧料は1万だかんな!俺のショーは高いんだよ!」


治夫は震えた声で笑いながら答えた。


「一万か・・。それなら女を一晩買ったほうが楽しそうだな。」


ばけやんはすこし頬を緩めた。笑うとなかなかの男前であったが冷酷な目は相変わらずであった。


「うるせえ!くちごたえすんな!この禿おやじ!!」


少々気にしていたことを言わればけやんは態勢を崩しかけたが持ちこたえた。40歳手前にして少々後頭部が薄くなってきた。普段はオールバックにしてカバーしていたつもりであったが、朝昼晩と生活を共にしている治夫にはバレバレであった。それにはなにも答えずにばけやんは大きな背中に頭蓋骨を入れた革袋を背負い立ち上がった。身長は199センチほどであった。その迫力に治夫は後ずさりした。まだこのでかさにはなれないようだ。


「では戻るか。」


ばけやんは足早に墓地の裏口へ向かった。それに続き治夫が子分のようにひょこひょことついていった。治夫は無性に悔しくなり、地面の石を大きく蹴り上げた。すると其の石が表で遊んでいる少年の頭に直撃した。


「うっ!!いってえなあ!だれだそこにいるのは!」


少年は墓地のほうへ向かい石を放り返した。治夫はまずいと思い全速力で逃げるように墓地から出た。


「あっぶねえ!見つかってたらお回りに通報されてたぜ。まったく・・」



「危ないのはお前だ。治夫」

ばけやんは振り返った。


「うっせえなあ!!はいはい俺がわるかったですよー」


ばけやんは悪びれない治夫の真っ赤な顔をちらりと見るとすぐに目を前方へ戻した。そして歩く歩幅を大きくした。

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