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異世界転生=俺TUEEEとか思ってる奴ちょっとこい

作者: はやた

平和な世界による転生者やトリッパーの一コマ

  羽ペンを走らせて、今日発生した喧嘩の報告書を仕上げる。ただの一般人の殴り合いならこんな書面作らずに済むが、生憎相手が貴族、と言っても準男爵と辛うじてがつく男であるためさほど騒ぎにはならないものの、問題は問題のため上の領主に伝えねばならない。



  ただの...おまけに道を譲らなかったなんて馬鹿げた理由で起きた喧嘩のせいで仕事が増えた、最近ついた若い領主を想像し気の毒に思う。まだ日本で中学生くらいの少年に外交だの領主だのを任せることに不安と同情を覚える。異世界なら当たり前なのかもしれないが、この世界自体がまあまあ平和であるため日本人の感性が抜けない。





 ため息と共にあの神とのやり取りを思い出す。





***


 アルフド=ラチェット……元、尼崎大樹はただの一社員である。



 残業代がでないが、無駄遣いに気を付ければ問題はない給料だったし上司はサービス残業になることを申し訳ないと謝って、罪滅ぼしなのか色々差し入れたし雑用等を手伝ってくれるいい人である。はっきり言ってしまえば満たされているくらいだ。




 同窓会でその事を羨ましがられたり代われと罵倒されたり、もしくは更に自慢されたりとどこにだってある会話をしているのを覚えてる。






「ぁんだってぇのよぉ、このくそあまぁ!」

「だから誤解だってば!」




 昼ドラでしか出ないような声に、全員思わずそちらを見やった。すると灰皿が飛んで慌てて近くの友人を庇い、後頭部を打って気絶した。それだけならまだよかったのだが、念のためにと呼ばれた救急車で飲酒運転した車に突っ込まれ即死。ふざけた運命だ。現にこの世界の神は天を仰いだらしい。お前が仰いでどうする。







 そのあまりにも不憫な死に様の為尼崎が転生の機会を得られたのだ。






「や、自分が言うのも可笑しいですけどいいんですかそれ」



 転生とは結構、大変なイメージがある。すると異世界の神である中年くらいの気だるげな男は「みんなそう思っているけど、競争意識を高めるためにとかで五十年に二、三回くらいやってるから実際しょぼいよ」と言われた。競争してるんですかとかスパンが割と短めだとか思ったが、口にしなかった。詳しく聞いたら夢が壊れる気がした。



「まあ期待してたら悪いけど、俺の世界って平和なんだよね。特にそっちと変わったものないし」

「あ、そうなんですか?」

「うん、科学とかここまで発展してないけど普通に惑星名も同じ地球だし。そもそも魔法とか魔王とかも今ないから。大昔のお話ってことで、おとぎ話になってる。必要なら作るけど、いる?」

「騒ぎなりそうだしやめときます」

「懸命な判断だね、実際、人口調整にしたって、そこまで問題ないから必要ないし、そもそも何もしなくても何故か争ってるし。まったく、こっちだって限られた資源しか動かせないし、そもそも俺だって新参者で神の下っ端なんだから勘弁して欲しいね」


 わざとらしく肩をすくめる神に、尼崎は同情せざる負えない。どこでも縦社会はあるようだ。人口云々は置いといて。神は「それでさー」と気が抜ける口調で話しかける。





「何か古参の神様から無駄にチートとか力をよこせとか言ってくる奴がいるから気をつけろって言うけど、それホント? 俺まだ七年目だから実質転生初めてなんだよね」

「本気で浅い!!」




 思わず突っ込んでしまった。

 尼崎は確かにザブカルに理解があるが、特別オタクと言う程ではなくにわかであることを自覚している。さらに言ってしまえば、強さとか、ハーレムとか男の夢を見るがそのためにわざわざ危険に飛び込んだりするかと言われれば首を振る。そのため、




「チートとかいりませんから、貴方の世界のことについて訊いた後転生先の指定とかできませんか?」






 平凡に生きることに決めた。




***

 そもそも、彼に言わせてしまえば生まれながらにして自我があり前世の記憶があること自体が「チート」に入ると思うのだ。



 経験こそが何よりの宝だと思うし、何よりもいくらか年を取り選択の幅が広いことこそが反則的である。少なくとも同年代には。



 だから今世ラチェット家に次男坊として生まれたアルフドは、両親へそれなりに甘えてみたり、兄のエルドには色々と可愛がってもらったり、同年代の頼れる(中身が立派な社会人のために当然の帰結と言える)兄貴分にされたり、近所にも頼られたり異世界の文学へ興味を持ったりとのんびり、と同時に好き勝手に生きてきた。神曰く「本当に大した問題がない世界」のようで国同士の争いは二百年も前に終結してるし、経済的な云々はあるにしてもそれは逃れなれない問題だから除外していいだろう。


 


 ただ、冒険者ギルドがあること、そのギルドが領土を治めてる貴族達と密接していることには驚いた。荒くれが集まり貴族はそれを馬鹿にしている、という考えがあったのだが結構暇らしいのかちょくちょく夢に現れる神からしたら偏見らしい。



「この世界には司法があれど、結局は自衛した方が確実だからね。ギルドは各部門の代表やそこの責任者のための情報部門兼自治体だよ。一番詳しいのは実際に住んでよく見てる住民だからね。もち、そういった君の思い浮かべる貴族もいるけど、昔のちょっとしたいざこざから作られた、国の監視機関なんてのもあるから堂々とできやしないって」





 どうやらこの世界は、本当に良くできた世界のようだ。アルフドは思わず感心したことをよく覚えている。神が言うには



「この世界自体、十つもの世界を束ねたベテランの神様が任期切れで転生するから、慣れろってことで任されたんだよね。色々複雑な問題抱えた世界を任せる訳にもいかないでしょ? 下手したら神格も給料も削られるし」



 とのことだ。給料と同じ扱いの神格につい口元が引きつったのは仕方ないだろう。




 まあ、こうして色々と夢を見ていた部分がなくなる以外はちょっとした家族の問題や対人関係に対してのいざこざぐらいしか、頭を悩ませる必要はなかった。




 ―—アルフド=ラチェットが冒険者ギルドに事務員として、働いていた一七歳の夏の日までは。




 この世界にも学校という物があるが、科学が発展してないため写本しかなく授業料が結構高い。そのため読み書きなどはギルドから出来る大人が来て教会で教え、子供達はそこで学んでいた。



 アルフドも例外なく、両親から早い段階で教わり、そのまま本を読んだり地面に書いて練習したりと文字を習得した。幸い、アルファベットに近い文体で複雑ではないしローマ字と似たようなものですぐ習得できた。



 もちろん、前世持ち特有の異常な速さのために悪目立ちをしてしまった。周りからは天才扱いされ学校を勧められたが断った。この世界の学問よりもまだほとんど忘れた自分の世界の知識の方が上だと断言できるからである。全員もったいないと思えど、一人の子どもを特別扱いできるほど裕福とは言い切れない領地のため無理強いはしなかった。先代の領主が非常に残念がっていたが、その代わりにと蔵書を見せてくれるため学ばせる事自体諦めていないようだ。




閑話休題。話を戻す。そのためアルフドは幼い時から即戦力としてギルドに手伝いとして出入りしていた。冒険者と名がついているが要は地元の自衛団なので殆ど顔見知りであり、アルフドはよく可愛がられた。成長したらそのままギルドへ就職して、そのギルドの地域活動の授業を行っていた。





「アルフにーちゃん。なんかへんなのがいるー」




 よく他の子供と駆け回っているライトが服を引っ張る。まだ六歳の子供らしく、好奇心旺盛でしょっちゅういなくなるが、珍しく眉をハの字にしてアルフドの後ろに隠れる。




「変なの?」

「へんなの! よくわかんないことずーっといってる!」




 どの世界でも不審者っているんだな。とアルフドはどうでもいいことを考える。その場にいる子供達に動かないように言って、同僚と先輩に相談する。




「変なの、ねえ……」

「ライト君、その変な人がなんていってたかわかる?」

「えっとね、なんかちーといせかいとりっぷきたぁぁああああとかさけんでた」

「はっ?」



 思わずアルフドは間抜けな声をあげる。



「ちーと?」

「ほかにもねー、はーれむとかぐふふとかわらっててきもちわるかった」

「うわ……それは不審者だわー、怖くなかった?」

「こわくないよ! おれつよいもん!」

「アルフ君、これ先に子供達帰して……アルフ君?」

「あ、すみません……何言ってたんだろうって考えてました」





 実際はわかっていたが、嫌な予感が拭えずにごまかす。それで納得できたのか同僚であるアリシアは肩まで伸びた少し跳ね気味の金髪をいじる。


「そうよね……。えらい興奮してるみたいだけれど、ちーと? とかとりっぷとかなんのことかしら?」

「アルフにもわからないことってあるんだな」

「それより、早く子供達を家に帰してその不審者を捕まえて話を聞いた方が良くないですか?」

「確かに。そんな明らかに可笑しそうな人は放置できませんね。現に怯える子もいるわけですし」

「おれこわくないよ!」

「他の子が怖がるからだよ。あの……俺が話に行ってみますか? 女性が行くのも危険ですし、俺が一番体力ありそうですし」




 子供達に振り回されて追い掛け回されたり、遊びに付き合ったりとしてるため体力はある。それに、もしかしたらアルフドと同郷の人間でえらい勘違いをしているかもしれない。




「そうだな。俺はちょっち腰やっちまったからあんま動けねえし。アルフ、任せていいか?」

「ええ!? 危なくない? 武器か何か持ってった方が……」

「バカ。アルフ、危ないって思ったらすぐ逃げろ。いいな?」




 その言葉に頷いて、早速向かい……思わず頭を抱えた。












「はあ!??!?? なんでステータスが出ないんだよ!?!??! おい、神!! どういうことだ!! 俺様のスーパーハーレム街道必須のステータス!! 超魅力はどこだ!???!?!? おい、聞いてんだろこら!!!! てめえの不手際で殺したくせに中途半端な対応してんじゃねえよ!!!!」







 うん、どう見たってオタク日本人ですありがとうございます。



 アルフドは思わず天を仰いだ。後ろにいるであろう同僚や先輩はドン引きしていることだろう。実際アルフドも引いている。




「あ、あー、すみませーん。何してるんですかー?」

「はあ? 男かよ、ここは幼女がお兄ちゃん何してるの? 俺に話しかけるところだろ!」




 ロリコンだったか。



 ここで既に同僚は目を鋭くさせ、先輩は指の関節を鳴らし始めた。




「いえ、ここにわけわからないことを言っている人がいると教えてもらったのでー。で、貴方はどちら様ですか?」

「ふっ、これから革命を起こす男。それだけ言ってやろう」



 起こす必要がないんだけど、とアルフドは胸中で呟く。



「先輩……」

「ああ。アルフ、ありがとうな。もう戻っていいぞ」






今日、愛らしい女の子の父となった先輩が顔に青筋を浮かべつつ笑った。




その後、先輩によって干物状態になった男はギルドに保護という名の監視がついた。




夜、疲れたため早く寝ていたらあの男と、元の世界では高校生くらいの女の子がだらだらと汗を流している金縁の眼鏡をかけた太り気味の男を睨んでいた。





「ああ、お休み中ごめんね? ちょぉぉおおおおおおっと話さないとならないとんでもないこと起きたからさ」



【ちょっと】にかなりの怒りをこめて、中年の男は笑いかけた。しかしそれは先輩の笑みと重なり、更に状況がただ事ではないことが簡単に想像できたので身構える。




「大丈夫よ。ここには貴方以外の転生者はいないから。こ、こ、に、は、ね?」



同じような笑顔を浮かべて眼鏡の男から視線を外さない女の子。アルフは取り敢えず、訊くべきかと思ったが、それよりも男が口を開いた。




「今日、さぁ妙なのに会ったでしょ?」

「あ、あのロリコンの日本人らしき人に」

「うん、正直でいいね。まず結論から言うね。この女の人、俺と同じベテランさんから世界を引き継いだんだけど、その世界を貰えなかったからって嫌がらせってこの眼鏡に別世界の人間を無理矢理ねじ込まれてた」




思わず固まる。そして




「…………は?」




それしか、言えなかった。








「うん、馬鹿らしいとか思ってる。そんな馬鹿らしいことでこんなことやらかすなんて思わないよね!!」

「私達神って管理している世界の《格》でどれだけ偉いのか力が強いか、なんて考えがあるからね。ベテランさんはすっごい強い人だから遺産相続みたいな争いが出てね? それで新人や、信頼できる知人に任せるってなって任せた新人を指導するって形になったの」

「ちなみに、彼女が信頼できる知人さん。結構神歴長いから色々助言もらってる…………のに、このおっさんが!」

「訳わからないこと言って引き継いだ神達に子どもじみた嫌がらせするわ、あることないことでっち上げて吹聴するわ、おまけに問題のあるのばっか転生やトリップをさせてるわ!! おかげで世界が滅びかけて、先が面白そうな新人が自信喪失しちゃうし!!」

「し、か、も!! 俺の引き継いだ世界は何もないって言ってんのに! 変な力持ちを送り込んでくるし!! 慌てて力を封印したけど!! あの超何とか使われたらせっかく整っている世界バランスが狂っちゃうだろうが!」





あぁ。あの男が叫んでたのは力が使えなかったからか。



アルフは現実逃避気味にそんなことを思った。






「で、問題だけど……上も下も大騒ぎで、とてもじゃないけど末端の僕らの世話までできない状態なんだよね。さっきの滅びかけた世界が《格》がとても高くて失ったら神全体の力が一気にガタ落ちするからほとんどそっちにかかりきりだし」

「私は他の世界から面識のある子に任せれば大丈夫なの。だけど、こいつはこの間別の世界のバランスを整えた所で力が上手く出せないの……」

「……いやな予感がするんですけど」





たらぁ、と背中に冷や汗が流れる。



アルフの両肩をがっと掴んだ男は非常に申し訳ない、だが断ることを許さない、という調子で口を開く。





「馬鹿の回収、お願いします」

「やっぱりか!」

「力もちゃんとつけるから!」

「いりませんよそんなもん!」

「だけど、相手が魔法やら超能力とか持ってるのばっかなんだよ!」

「そんな気はしてました! 相手がハーレムとか叫んでたので!」

「力を使えなくする力だから! ね!?」

「いやですってばぁぁあああああああ!!」

「ほら、今ならまた転生でもっといい身分へ昇格させるから!」

「身分に合わせて仕事も面倒になるってわかったんで断固拒否します!」

「……やっぱり餌に釣られないわね。これで面倒押し付けたのに」

「なんて入れ知恵してるんですかちょっと!?」




と、押し問答をしたがやはり断れず。




アルフは「能力無力化」を手にして、眼鏡の男によってねじ込まれた人間を捕まえるはめになったのだ。







***

あれから、半年。



嬉しくないことに、回収は非常に順調である。




それはほとんど大半が「ハーレム」だとか「オレ最強」とか「チート」とか言ったり能力で問題を起こしたり、アルフが常時周りに能力を無力にするように見回りとして力を使いその度「俺の力が使えねえ!?」となってまた騒ぎになるからである。まずは田舎から始まるのが転生物の鉄板なのかあっという間に二桁になった。最早ただの単純作業だ。


今日の準男爵も転生者で、「自分は騎士になって美人の王女に惚れられて王になってハーレム」とかイタイ夢を見てる元日本人だった。いっそ、哀れにすら思う。




もう、アルフ含むギルド従業員達は「またか」と心を無にして書類と相手に向き合うだけだ。




その中で、ほとんどアルフが事情聴取を行っている。若い男は出稼ぎにいくため、あまりギルドにいないためだ。相手にしたがらない、もあるが。




あの男の「俺は世界を救う男になるんだ!」がこちらにまで聞こえる。普通なら使われない留置所が今日も大活躍だ。蹴飛ばしているのが金属が軋む音までした。




ぼぞっ、と何度目かわからないセリフを口にする。





「この世界、魔物も戦争もねえから」





今日も、世界は一部を除けば概ね平和だった。








なんか長くなった上にまとまりませんでした

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