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黒い翼と出合いと別れ 9
翌日は仕事が休みだったので、彼女は目覚ましを掛けなかった。
いつもならば昼過ぎまで寝ているのだが、何か音が聞こえて目が覚めた。
彼女が住んでいる部屋は1Kなので、キッチンとバス、トイレ以外には自分が寝ている部屋しかない。
何の音だろう、と布団の隙間から薄目を開けて周囲を窺うと。
何故か、TVが点いていた。
昨日はシャワーを浴びてそのまま寝た。TVなど見た覚えがない。
と、寝起きの胡乱な頭でそう思いながら、体を起こした。
……その時、やっと恐ろしい事に気付いた。
『彼』は女性が起きた事に気付くと、TVを見ていた顔を彼女に向けた。
「あ、おはよう」
あまりの爽やかな笑顔に思わず、
「おはよ……」
と返しかけたが、状況を察して女性は青ざめた。
「なっ、なんで……」
「渡した鍵、実は僕達の部屋のなんだ」
本物はこっち、と黒髪の少年は二人の間を遮るテーブルの上に鍵を置いた。
「ちゃんと財布の中身まで確認しなきゃ駄目だよ、『たかわらるか』さん」
女性の名を呼ぶ少年の手に、財布に入っている筈の免許証があった。
孝和良琉哉。
それが、彼女の名前である。