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番外編 硲野掟の動揺

カッとなって書いた。後悔はしている。

 ──その日、掟は琉哉が住んでいるアパートの台所で夕飯を作っていた。


 食生活が壊滅的な(壊滅的なのは食生活だけではないが)琉哉に業を煮やし、掟は食事を用意することを無理矢理承認させた。


『……男子高校生に食事を作ってもらう成人女性ってどうかと』


 と琉哉は不満そうだったが。


『だったら自分で作れるようになれ。まあ、目玉焼きすら真っ黒焦げにする奴が食えるものを作れるか怪しいけどな。ちなみに俺が食えると思うものを作ることが最低条件だ』


 と言うと口を(つぐ)んだ。


 掟が琉哉に料理を教える手もあるが、琉哉の部屋の台所は狭いので普段から掟は調理時に琉哉を立ち入らせない。

 

 見られるのは嫌だし教えるのは苦手だ、とその時は言ったが。


 ガチャリ、という音に、掟は思考を中断した。


 すぐに玄関からスーツ姿の琉哉が現れる。


「あ、掟君来てたんだ、ただいまー」

「ああ、……おかえり」


 この挨拶は未だに慣れない。


 最初の頃は琉哉が在宅中でも、帰宅前に掟が部屋にいても、普通に『いらっしゃい』と言われていたが、最近は帰宅時に掟が部屋にいた場合『ただいま』と言われるようになった。


 気を許してもらえた、と思った瞬間嬉しさと何とも言えない気恥ずかしさが込み上げたのを覚えている。

 それは今も変わらないのだが。


「──っておい」


 掟が物思いに耽っている間に料理に伸ばされた手を掴む。


「つまみ食いはすんなっつっただろ」

「だっておなかすいた」


 文句を言う琉哉の顔は疲れているように見えた。

 ので。


「……仕方ない、ほら」


 と掟は丁度切りかけだった蒸し鶏の切れ端を琉哉の目の前に差し出した。


 普段なら琉哉は手に取り自分の口に運んだだろう。


 しかし。


 何を思ったか琉哉はそのまま食い付いてきた。


「!?」


 掟は指を離そうとしたが一瞬遅く、蒸し鶏と共に指は琉哉の唇と舌に触れた。


「ごめん、あまりに空腹だったからそのまま食べちゃった」


 口の中のものを飲み込んだ後、申し訳なさそうに琉哉は言った。


「……子供か」


 かろうじて、突っ込みを入れる。


 はあ、とため息に聞こえるように息を吐き、

 

「満足したなら着替えて俺の邪魔をしないようにそのまま向こうで待ってろ」

 

 といつも通りの言葉を返す。


 はーい。と琉哉が着替えの為に自室に入り扉を閉めたと同時に、掟は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。


(あれはわざとか!? わざとなのか!?)


 顔は赤くなっていなかっただろうか、いや、赤かったら琉哉が何か反応していたはずだ。平然と誤魔化すなんて芸当ができるとは思えない。


 実際琉哉は「最近掟君のオカン(レベル)が上がった気がするな……って私の所為か!?」と別の方向で掟同様に頭を抱えていたのだが、掟は知る(よし)もなかった。

やったね掟君オカン度とヘタレ度が上がったよ!!

……リア充ネタを書こうとしたはずなのにどうしてこうなった。

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