最終話 未来への標
――高校が夏休みに入ったある日。
通い慣れたコンビニに足を踏み入れると、聞き慣れた声が「いらっしゃいませー」と挨拶をしてきたので、掟は思わず顔を顰めた。
「ちょっと掟君、その表情はヒドくない?」
ショックを受けたように言う店員。
「海浦……お前ワザとだろ」
「えー? 何がー?」
コンビニ店員――整は惚けた様に言った。
事件が一応の終わりを見せた後、整は何故かアルバイトを始めた。
人生経験がどうの、と言ってはいたが、琉哉の住んでいるアパートと掟の住んでいたアパートの間にある公園近くのコンビニをアルバイト先に選んだ辺り、理由はそれだけではないだろうと掟は睨んでいる。
「ところで掟君」
「……何だ」
「引っ越しは終わったの?」
整が笑顔で聞いてきた。
夏休みが始まってすぐ、掟は標と住んでいたアパートを引き払い、家族の住んでいる元の家に戻っていた。
元々標の我儘から始まった生活である。自分一人で住んでいても意味がない。
生活費を全て自分で稼ぐ力が無い以上、家に戻った方が気楽でもある。
……他にも色々と理由を付けて。
柄にも無く名残惜しいという思いがあったが、掟は半年も住んでいなかったアパートを後にしたのだ。
「家からこのコンビニまでどのくらいかかるのかな? 今度遊びに行っていい?」
「黙秘する」
どちらの問いに対しても。
ズルいヒドいと連呼する整に、
「客にそんな態度じゃクビにされんぞ」
と注意してみる。
「店長さんが入院中なのだそうですよ」
いきなり背後から説明を受け、聞き覚えのあるその声に身体が硬直する。
ゆっくりと振り向くと、友人の妹が立っていた。
「ご自宅の階段から足を滑らせて転落されてしまったそうで」
「……何でお前が知ってるんだ」
「先程整さんからお聞きしました」
平然と巡は答えた。
何故お前がここにいる、と問い質したかったが藪蛇になりそうなので、そこは敢えて無視して再度整に向き直った。
「で。この時間はお前一人なのか」
「まっさかー。もう一人先輩がいるけど休憩中」
確かに高校生のアルバイト一人に店を任せるなど無謀だろう。
「忙しくなったら呼びますねー、って言ったから暫くは僕一人だけど」
納得しかけたがとんでもない言葉が耳に入ってきた。
今店内にいる客は掟と巡のみ。
元々客の入りがあまり良くない店舗である。
「……大丈夫なのかこの店」
「ちゃんと売り上げはあるらしいよ?」
「……まあ、じゃないと新規でアルバイトなんて雇えないよな」
「あ、新規と言えばなんだけどさ――」
整が言い掛けた時、入口の扉が開き、新たに客が訪れた。
その人物に巡が近付くのを視界に入れつつ。
「――この時間のアルバイト、まだ一人募集中なんだけど、どうかな?」
「……考えておく」
掟はとりあえず、そう答える事にした。




