暁に消える翼 9
「屋上に行く前に翼をナイフで切り落とした。無理かな、と思ったけど何とかなったよ、痛みも無かったし」
そう、何でもなかったかの様に暁は言った。
「そして――屋上から飛び降りた。……琉哉のせいじゃない、私が、道連れにしようとしただけ」
暁は琉哉に優しくそう言って。
「自分が赦せなくて死のうとした。でも死にきれなかった。――だから、他人が犠牲になってしまった。『黒翼症』患者として」
暁の視線はすぐに鋭くなり父親の遺体へと向けられた。
「院長の娘が新薬を服用し、その副作用で身体と精神に異常を引き起こし飛び降りた、なんて知られたら世間はどう思うか。……それをネタに、父さんは脅されて新薬を他の一部の患者に黙って処方薬として与えた。勝手な事をした娘を見捨てれば良かったのに」
「それは……」
それは、それほどまでに娘の事が大事だったのではないか、と琉哉は思ったが、口には出せなかった。
「それでも、積極的に投与していた訳じゃなかった。だからこの屋敷で療養していた私は気付かなかった。……去年母さんが亡くなるまでは」
そこから父さんは変わった、と暁は呟いた。
「今までは母さんが引き留めていたみたいに、母さんが死んでから父さんは新薬を投与する患者を増やした」
何も身体に異常が見られない者もいれば、薬自体が合わなかったのか急死した者もいた。
元々病を患っていた人々である。
以前の様に少人数であれば、誰も不審に思わなかったかもしれない。
「今日、ヒト兄が来て口にしなかったら、気付かなかった」
急死する患者が増えているようだ、と。
恐らく以前から疑惑を抱いていたのだろうが、それが暁と同じ症状を患った縞朔標、そして中原高也の存在で確信を持った。
原八木は屋敷を訪れ、在宅中の院長へ問い質した。
その、答えは。
「『暁の為だ』と父さんは言った。『暁の身体の治療の為に、似たような症状を持つ患者が必要だった』と。父さんは自分から進んで新薬を患者に投与した」
つまり、と暁は歪な表情で告げた。
「縞朔標と中原高也は私を生かす為の実験台にされたのよ」




