暁に消える翼 8
覚悟をしていたとはいえ、目の前の自身の変化に暁は怯えた。
怖い――気持ち悪い。
その感情も、もしかしたら薬の副作用だったのかもしれない。しかし当時の暁は分からず、恐慌状態に陥った。
親の――医者の制止を振り切って薬を飲んだ。『これ』が見付かれば何を言われるか分からない。同じく医者である原八木も同様。
――誰か、誰か助けて。
その時脳裏に浮かんだのは、面会に来てくれていたという友人の顔。
原八木から何度も様子を見に来てくれているらしいと聞いてはいたが、病室まで来る事は無い。暁と琉哉双方にショックを与えない様に、という判断の上で面会を許可しないのだと原八木は言うが、そんなのは親と原八木『大人達』の勝手な都合だろうと暁は憤っていた。
服を直し、ベッド横に置かれている棚の上、置いてあった読み掛けの書籍を開いて、偶然栞代わりに挟んでいたテレホンカードを手に取る。
入院前は携帯電話があった為に一度も使用しなかった――絵柄が気に入っていたので穴を開けたくなかった――が、連絡手段(携帯電話)が手元に無い以上他に手は無い。
監禁されている訳ではないので、重い身体を引きずりつつ、病室を出て一階にある公衆電話へ向かう。
唯一覚えているのは琉哉の自宅の電話番号。
何回目かのコール音の後、本人が電話に出た。
何を口走ったかは覚えていないが『一人で死にたくないから一緒に死んで欲しい』という、あまりに自分勝手な事を言ったのだと思う。
簡単に死のうとするな、と言われたが、既にこの身体は、暁自身は限界だった。
私はもう生きていられない。
――ならば、一人で死ぬしかないではないか。
一度病室に戻り、室内のテーブルの上にある原八木からの見舞いの果物が入った籠の中からフルーツナイフを取り出す。
喉元に向けるが、そこから先が動かない。
ナイフを持つ手が震えている事に気付き、この方法では駄目だと悟る。
ならば――。




