暁に消える翼 6
暁が出てきた扉の奥では、あの独特の臭気に包まれて、二人の男性が横たわっていた。
「!? 原八木先生……っ!?」
手前にうつ伏せで倒れていたのが原八木だと確認すると、近くに携帯電話が落ちている事に気付いた。
暁は、原八木の携帯で連絡を取ってきた。
「まさか、暁――」
「ああ、違う違う。ヒト兄を刺したのはあっち」
琉哉の問いに暁は否定し、奥で仰向けで倒れている男性を指した。
震える足を叱咤し、琉哉はゆっくりと、全身が赤黒く血で染まった男性に近付く。
見開いたままの瞳は何も映す事無く濁っている様に見える。
何かを叫ぼうとしたのか、口を開けたまま事切れた様だ。
……琉哉は、その変わり果てた男性に見覚えがあった。
「暁、確かこの人は、暁の」
「父親『だった』人だね」
何の感慨も無さそうに、暁は告げた。
「別にここまでする気じゃなかったんだけどさ。この親父のあまりの自分勝手さに腹が立って、気付いたらメッタ刺し」
まるで虫でも潰したかのような、嫌そうな表情で父親を見て言う暁に、琉哉は改めて思った。
――ああ。やはり彼女は、三年前より壊れている、と。
「三年前から」
いきなりその単語が出たのでどきりとしたが、暁は気付かなかったようだ。
「三年前、私が入院した時から様子がおかしかったんだけど。去年母さんが死んでから余計おかしくなった」
「……それは」
家族に不幸が訪れれば精神が不安定になってもおかしくはない。
琉哉はそう思ったが。
「父さんは、私を生かす為に、他人を犠牲にし始めた」
と、予想も付かなかった言葉を暁が発した。
「ねえ、おかしいと思わなかった? 三年前から発見されているのにも関わらず、どうして『黒翼症』の事を病院が秘匿しているのか」
暁の口元が歪んだ。
「『黒翼症』はただの新種の疾患なんかじゃない。新薬の副作用によって引き起こされた、人工的に作られた病だったのよ」




