猫と天使と二重存在 20
「……翼を切り離せば標は死ななかった、と中原は言っていた。」
掟のその言葉に、巡は「初耳です」と言い、視線を整に向けた。
「まあ、間違ってはいないと思うよ? 現にアキ姉は切り離して今まで生きてはいるし」
「何やら含みのある言い方ですね」
巡が目を細めた。
「翼――腫瘍を切り離しても身体機能は回復しない。症状の進みが遅くなるだけで、完治はできないらしいよ?」
整は巡にそう言い。
それに、と今度は掟に話を向けた。
「僕はよく知らないけど、中原君の性格って元からあんな感じ?」
「俺も仲が良い方じゃないけどな。……でも、基本大人しく自分の席で本でも読んでるような奴だった」
それに比べると、公園で対峙した時の状況は異様だった。
「『自分が自分でなくなる感じ』って昔アキ姉が言ってた。……今はもう、そんな事を言った事すら忘れてるかもしれないけどね」
整の言葉に、掟はかつての標を思い出す。
たまに起こす無意識の行動。
そう考えると、切り裂き魔事件を起こした中原と、琉哉を殺そうとした標は何処か似ている。
標は自身の状態を理解していた。
だからこそ――。
掟が納得しかけると同時に、
「なるほど。だからこそ、兄は翼を切り離す事をせず『自分のまま』亡くなったのですね」
納得した様に、巡は言い。
「そう自分で判断した辺り、巡ちゃんのお兄さんは格好良いね」
「ありがとうございます」
整の言葉に頭を下げていた。
……口にしなくて良かったと。
二人の様子を見ながら、心の底から掟は思った。




