黒い翼と出合いと別れ 5
標が殺し掛けた女性が目を覚ましたのは、二人が自分達の住んでいるアパートに連れ帰った後の事だった。
目を覚ました直後は、何があったのか思い出せないのか周囲を見回していたが、ひたと標に視線を向けると、そのまま動きを止めた。
「…………」
「あ、あの」
「…………」
「えっと……」
助けを求める様に、標は掟に視線を向けた。
「あー……、あんた、何処まで覚えてる?」
もう少し質問の内容を考えるべきだったかと思ったが、口に出してしまった以上どうしようもない。
「…………」
無言で女性は視線を泳がせた。
その隙に掟は女性の全身を確認した。運んでいる間は余裕がなかったからだ。
二十代だろうか、あまり特徴のない顔、黒髪でやや長めのショートカット、服は黒いラウンドネックの長袖シャツにデニムのジャケット、そしてジーンズ。玄関には履き古したスニーカーが置いてある。
ラフな装いを見て、もしかしたら家が近くにあるのかも知れないと掟は思った。
「……コンビニ」
女性は呟いた。
「で、買い物したんだけど……袋……」
「あ、あるよ」
標は立ち上がり、背後の冷蔵庫から袋を取り出した。
「もしかしたら、中にあったプリンとかちょっと崩れてるかもだけど」
「……まあ、中身が飛び出してなかったらいいよ」
言って、女性は標から袋を受け取り、中身を確認した。
そしてついでのように、
「それで、どっちかが犯人?」
と、平然と聞いてきた。