黒い翼と出合いと別れ 4
「あ……掟……?」
標は呆とした様子で掟を見た。
「気が付いたか」
掟は掴んでいた標の服の襟首を離した。
「……また、やったんだ」
「……いや、今回はもっと酷い」
状況を思い出し、掟は眉をしかめた。
「お前、人を殺し掛けてた」
確かに、標は女性の首を絞めていた。
「…………」
標は掟の言葉に顔色を変え、地面に倒れたままの女性を見た。掟は女性に近付き呼吸を確認する。
「大丈夫だ、死んでない。生きてる」
その言葉に、標はホッと息を吐いた。
「気を失ってる。……今のうちに逃げるぞ」
「うん……っていやいやダメだよ!!」
掟に言われて素直に従いかけた標だったが、慌てて首を振った。
「男ならまだしも女の人だよ!? しかも気絶してる人を放って行くなんて……」
「気絶させたのはお前。暗いから顔は見られてないと思うけど、気付かれたらまずいだろうが」
「でも……」
「でもじゃねえ。行くぞ」
掟は歩き出し、数歩進んだ所で振り向いた。
「……何やってんだ」
「やっぱり、放っておけない」
標は女性の体を持ち上げた。
「後で訴えられるぞ」
苦々しく掟が言うと。
「――だったら、今、殺しちゃえばいいのかな」
予期せぬ台詞に掟は標の顔を見た。標は女性の顔を無表情で見下ろしている。
「標」
「――え、ごめん、何か言った?」
掟の声に顔を上げた標の表情は、元に戻っていた。
「……いや。連れてくなら早くしろ。人が来るだろ」
「いいの?」
「このままここにいる方がヤバい」
本当に危険なのは標自身なのだが、それは口に出さず掟は標の元に戻り、女性の腕を取った。