猫と天使と二重存在 1
ここからの話では、動物虐待や人を貶めるような描写が入ります、ご注意ください。
孝和良琉哉の携帯電話に着信があったのは、ある平日の夕方だった。
仕事が終わり帰宅する途中で気付き、立ち止まり鞄を探る。
取り出した携帯のディスプレイに表示されたのは、見知らぬ番号。
そもそも電話番号を知っている人間など、仕事先や家族を含めても両手で数えられるくらいしかいない。
そして、基本登録してある番号以外は出ないと決めている。
そのまま再度鞄に入れて無視していたら、大体十秒程で着信音が途切れた。
――が。
その後五分置きに同じ番号からの着信が続いた。
いたずら電話よりは間違い電話の可能性の方が高い気がしてきたので、七回目のコール中に覚悟を決めて受話器のボタンを押した。
「……もしもし……?」
『すみません、こちらは孝和良琉哉さんの携帯電話でよろしいでしょうか?』
規則正しい、やや幼い感じの女性、というより女の子らしき声が聞こえてきた。
「そうですが……」
聞き覚えのあるような声に答えると。
『縞朔巡です。大変ご無沙汰しております』
と、彼女は言った。
思わず息を飲みそうになり、琉哉は慌てて携帯を顔から離した。
――縞朔巡。数週間前に兄を亡くした少女。
平静を装い、琉哉は口を開いた。
「巡ちゃん? お久しぶり……だけど、私の携帯の番号なんてどうやって――」
『原八木先生からお聞きしました』
琉哉の疑問に、巡は意外な名前を口にした。
巡の兄の主治医である彼は、琉哉の接触を快く思っていなかったはずである。
「それは……良い顔されなかったでしょう……?」
『兄から託された伝言を直に伝えたい、と言ったら渋々教えてくれました』
「……そう、なんだ」
『ちなみに伝言云々は嘘です』
「…………はい?」
『そうでも言わないと教えて貰えなさそうでしたので』
あっさりと言われ、何と言って良いものか琉哉は悩んだ。
『突然で申し訳ありません、少々相談に乗っていただきたいのですが』
「相談?」
『はい。ですが電話越しでは何ですので、今から言う場所へ来ていただけると助かります。一応他人の携帯でかけてますので』
『だったら使うなよ』
と、いきなり向こう側から別の声が聞こえてきた。




