黒い翼と出合いと別れ 34
「ちょっと動くな」
「え? ――うわっ!?」
腕を伸ばし、その側面で掟は琉哉の顔を乱暴に拭った。
掟が着ていたのは制服で、その生地は厚いがごわついている。
「痛っ、掟君痛い!!」
琉哉が叫んで顔を反らす。
強く擦り過ぎた所為で顔が赤くなっているが、大分涙の跡は消えていた。
「仕方ない、このぐらいで勘弁してやる」
「何で偉そうなんですか。それ以前にハンカチを使うべきです」
巡が文句を言う。
「持ってねえ」
「不潔」
今までの経験上、話し続けると自分が不利になると知っているので、掟は無視して病室の扉へ向かう。
「あ、それじゃあ私も」
いつまでも標に引き留められかねないと気付いたのか、慌てて琉哉が追い掛けてくる。
「標君、本当にありがとう」
扉を閉める前に、琉哉は改めてそう言った。
「標君に会えて良かった」
先程のぎこちない笑みとは違う、大事な物を見付けた時の様な笑みだった。
「巡ちゃんもありがとう」
「私は何もしていません」
「そんなことないよ」
琉哉は笑う。
「……なら、そういう事にしておきます」
照れた様子で、巡は言った。
珍しい顔だな、とは思ったが口に出すと何をされるか分からなかったので、掟は琉哉と帰路に着いた。




