黒い翼と出合いと別れ 3
四月も終わりに近付いた、ある日の夜の事だった。
掟は標と共にコンビニへ買い物に来ていた。
「おい標、お前味噌と醤油どっちが――」
言いかけ、掟は持っていたカップ麺を持ちつつ動きを止めた。
側にいた筈の標の姿が見えない。
「……またか」
ため息を吐き、掟はカップ麺を棚に戻し、コンビニを出た。
――標が掟に病の事を話した後、標は自分の親に死ぬ前に一人暮らしをさせて欲しいと説き伏せた。
最初は難色を示されたが、一人では不安だからと、掟が付添人として同居する事で同意を得る形となった。
病でなくとも基本、標の親は息子に甘いのだが。
――そして数日前から、標は奇妙な行動を取り始めた。
見知らぬ相手を付け回すようになったのだ。
掟は理由を聞いたが、
「追わなきゃいけない気がした」
と、本人もあまり分からない様子だった。
「病気の副作用なのかも知れないね」
と標は言ったが。
とにかく、それが判明してからは、掟は標を一人にしない様に気を付けた。放っておくと何処に行くか分からない。
家の玄関に鍵を掛けて閉じ込めておくという手もなくはなかったが、ずっと閉じ込めておく訳にはいかない。
「……さて、どっちに行ったかな……」
数度の経験から、遠くへは行かない事が分かっている。
左右を見回す。――一瞬、黒い影が見えた気がして掟は視線を向けた。
そこにはコンクリートの壁に挟まれた、路地裏に相当するであろう空間があった。
覗き込んでみると、人影が二つ、地面に横たわっていた。
下にいる人間が、上の人間にのしかかられている。普段の掟ならば「ラブホに行け」と思う所なのだが、今回は真逆の状況だと真っ先に気付いた。
上にいるのが標で、下の人間を襲っていたのだ。
「――標!!」
掟は叫んで標を引き離した。