黒い翼と出合いと別れ 29
「危うく僕も過ちを犯す所だった。お姉さんの友達と僕は違う。僕は逃げちゃいけなかったんだ」
申し訳なさそうに、だが微笑んで標は言う。
「お姉さんを巻き込みそうになって、本当にごめんなさい」
再度謝り、標は琉哉に頭を下げた。
「そんな、標君は悪くないよ」
慌てて琉哉は言う。
「元はと言えば、私が余計な事を話したせいだし」
「余計な事なんかじゃないよ。お姉さんが友達の事を話してくれたおかげで、僕は改めて自分の事を考えられた」
「……考える?」
「うん。……今まではどうしても死ぬ事が怖かった。だけど『自分』を失ってまで生きていたい訳じゃない」
まるで自分に言い聞かせるかの様に、標は呟いた。
「標君?」
意味が分からず、琉哉は首を傾げた。
「あ、えっとつまり。どうせ死ぬ事は避けられないんだし、最初黒翼症の事を知った時思ったみたいに、死ぬまでは好きな事をしたいなって思って」
笑顔で標は言って、琉哉の疑問をはぐらかした。
「……なんで昨日の件から一転して前向きになってんだ」
掟は標の言葉を怪しんでいたが、
「だって、よく考えたら結局人間はいつか死ぬんだよ? 最期まで死ぬ事にずっと怯えてそのまま死んでいくよりいいじゃない」
一緒に死のうと持ちかけていた時とは違う、何故か吹っ切れた様子の笑顔に、琉哉は少し安堵し、少しだけ、残念に思った。




