黒い翼と出合いと別れ 27
病院の前に着いた途端、琉哉の胸に不安が押し寄せてきた。
「……本当に、いいの?」
「あいつが会いたい、っつってたんだから、あんたがそこまで気にする必要ないだろ」
アパートの前での態度とは打って変わり、掟はいつも通りの様子で言った。
「何があったって悪いのはあいつだ」
琉哉にはその言い方が何故か拗ねている様に聞こえた。
「……何で笑ってんだ」
「え」
掟に睨まれ、琉哉は思わず口元に手を当てた。
微かに口角が上がっている。
「なんっか、むかつくな……まあいい。行くぞ」
正面に向き直り、掟は病院へ向かって歩き出した。
琉哉も慌てて後へ続く。
掟が標の病室のドアを軽くノックし、
「入るぞ」
と言いつつ開けた――かと思うと、そのまま閉めてしまった。
「え。……ちょっと、掟君、どうしたの?」
困惑しつつ琉哉は聞いた。
「……中に」
そう呟く掟の顔が心なしか青ざめている。
「中? 部屋の中がどうかしたの?」
掟は琉哉よりも背が高いので、背後にいた琉哉は室内を見る事ができなかった。
琉哉の問いに掟が口を開くよりも早く、病室の扉が開かれた。
「ひっ」
掟は声を上げると、何故か琉哉の背後に隠れた。
「……失礼な」
扉の向こう側から声が聞こえたので、掟からそちらへ視線を向けると、そこには小柄な少女がこちらを見ていた。
「挨拶をするよりも先に悲鳴を上げ、あまつさえ女性の陰に隠れるなんて……最低ですね」
抑揚のない口調で淀みなく言う少女。
隣の市にある中学校の制服を着ているという事は、中学生と見て間違いはないだろう。
少女が掟から琉哉に視線を移す。
長い黒髪がはらりと肩から流れ落ちた。
「貴女が孝和良琉哉さんですか」
「は、はい……」
思わず敬語で返事をしてしまった。
「初めまして。私は縞朔標の妹の巡と申します。兄とその友人がご迷惑をお掛けしました」
そう言い、標の妹は頭を下げた。
「いえ、こちらこそ……」
呆気に取られ、無意識に答える。
「すみません、病院内で立ち話ををしてしまいましたね。中へどうぞ」
す、と扉を押さえたまま巡が入るように勧める。
背後の掟を見ると、無言のまま先に行けと言わんばかりに背中を押してきたので、琉哉は「……お邪魔します」と言いつつ室内へと足を踏み入れた。




