黒い翼と出合いと別れ 26
――夜、標の病室。
原八木は標にある事を告げた。
標には言わない方が良いだろうと思い、ずっと黙っていたのだが。
彼女――孝和良琉哉が関わっている以上、標を有真暁の二の舞にする訳にはいかない。
だから、原八木は標に尋ねた。
「もしも、生き長らえる方法があるとしたら、君はどうする?」
と。
標は眉を顰めた。
「この病には治療法が無いと――」
「治療法は無い。……それは、治療とは言えない」
言って、原八木は視線を標の背に向けた。
「生き長らえる方法とは、その腫瘍、『翼』を切り落とす事だ」
何か言おうとした標を「ただし」と原八木は遮る。
「命が助かるだけで、君が『君』として元の生活に戻れるかは分からない」
「……どういう事ですか」
「……原因は分からない。しかしどうやら、精神に異常をきたしてしまうらしい」
「……それは――」
標は病が発覚してからここ数日、意識が途切れる時がある事に気付いていた。
大体が掟が側にいるので事なきを得ていたが――琉哉を殺しそうになった事もある。
……きっと、病の影響なのだろうと思ってはいたが。
今現在ですらそんな状態なのに、更に悪化するというのだろうか。
「…………」
原八木を見つめたまま、標は暫し考えた後、答えた。
「僕は、もうこれ以上、誰かに迷惑を掛けたくはありません」
「標君……」
「それに、僕が『僕』で無くなるなら、生き長らえる意味が無い」
標ははっきりと告げた。
「どちらにせよ生きられないのなら、僕は『僕』として死にたい」
「…………、君が、そうしたいのなら、もう止めないよ」
医師としても、人としても。
そう、原八木は呟いた。
「先生」
病室を出て行こうとした原八木に、標は聞いた。
「今の話、琉哉さんは知っているんですか」
知らないに決まっている。
知っていたら、琉哉は自分に告げていただろうと標は思う。
本当に聞きたいのは、『翼』を切り落とした前例があるかどうか、という事だった。
原八木は病院の入口で立ち止まると、
「……君が本当に知りたい事には見当が付いている、が、答える事はできない」
すまない、と付け加え、そのまま振り向かずに病室を出て行ってしまった。




