黒い翼と出合いと別れ 25
――翌日。
高校からの帰りに、掟は琉哉のアパートへと向かった。
チャイムを鳴らすが反応はない。まだ帰宅していないのだろうか。
扉の前で待っているべきかと思った瞬間、カチャリ、と扉の開く音がした。
琉哉が掟に気付き、扉を開いたままの姿勢で動きを止めた。
驚いたように目を見開き、そしてハッと身を引き、扉を閉めようとした。
咄嗟に掟は足を差し入れ、扉が閉まらない様に固定した。
「なんで来たの」
掟の足を睨み、琉哉は言った。
「もう会わないって標君の担当の先生に言ったんだよ。掟君も聞いてたんでしょ」
「聞いた。でも標はあんたに会いたがってる。担当医からの許可も貰った」
扉に手を掛け、掟は言った。
「あんたはあいつを『同じ』だと思ってるのか」
その言葉に、琉哉は肩を震わせた。
「たとえ同じ病でも、あんたの友人とあいつは違う人間だ。標自身がそう言ったんだ」
昨日の標の様子を思い出し、掟は言う。
「あいつは認めた。だから、あんたも逃げるな」
「……何で、そんな事、あなたに言われなくちゃなんないの」
視線を上げず、震えた声で琉哉は言った。
「逃げて何が悪いの。私はもう嫌なんだよ。誰かが目の前で死ぬのが。私が関わったせいで誰かが死ぬのが。……怖いんだよ。だから、もう標君には会えない。……会いたく、ない」
ふ、と無意識のうちに、琉哉は扉に掛けていた手を離した。
掟は扉を開け、琉哉に向かい合う。
「それでも、あんたじゃなきゃ駄目なんだよ」
静かに言った。
「俺じゃ、駄目なんだ」
悲しげな声の調子に、ようやく琉哉は顔を上げた。
「俺の前じゃ、あいつは強がるから。それじゃ、駄目なんだ」
それでは逆に標の負担になると気付いてしまったから。
「……頼む」
「…………」
琉哉は掟の態度に呆然としたが。
「……今更、私に、何ができるの?」
掟を見つめ、そう言った。
琉哉の視線を避ける様に、今度は掟が地面に目を向けた。
「会って、話を聞いてやってくれ」
それだけでいい、と掟は言った。
自分に吐き出せない、標の苦しみを、受け止められなくてもいいから、聞いてやって欲しい、と。




