黒い翼と出合いと別れ 22
「……つまり、お前は死のうと思ったのか」
標の話を聞いて、掟は呟いた。
「違うよ」
即座に標は否定した。
「お姉さんの友達の話を聞きに行っただけだよ。……最初はね」
「最初は、だろ」
掟は標の言葉を繰り返した。
「それが何で死のうと思ったんだ。話を聞いてあの女に同情でもしたのか」
「同情……そうかもね」
標は悲しそうに微笑んだ。
「でも、お姉さんに同情したんじゃない。……きっと、お姉さんに同情して欲しかったんだ」
「……同情して欲しかった?」
掟は意味が分からないという様に眉根を寄せた。
「掟はさ、強いよね」
唐突に標は言った。
「こんな病の僕を、こんなに不安定な状態の僕を見放さない。優しくて強い。……そんな掟が頼もしくて、そんな風に思う僕が嫌だった。そんな風に思わせる掟が時々、嫌だった」
ごめんね、と告げる標に、掟は言葉を返せなかった。
「辛かったんだ。普通に話してくれる掟には感謝してるけど、逆に、ふとした瞬間に自分がもう普通じゃないと思わされた。……だから、僕の病気の事を理解してくれる人が欲しかったんだ。病気を認識させて、なおかつ側にいてくれる人が」
それは、赤の他人でなくてはならない。
家族や友人であれば、いつも通りの日常と錯覚してしまうから。
病気の事を、忘れて、思い出してしまうから。
「だからお姉さんの話を聞いた時、この人なら僕の事を理解してくれるんじゃないかと思った。友達を死なせた罪悪感があったから」
同じ病の人間に、罪悪感なしに接する事ができないだろうと思ったのだ。
「……あの女にお前を理解できるとは思わない」
掟は言った。
「さっき医者に、お前とはもう会わない、って言ってたしな」
「え、何それ。てかさっきから思ってたけど、どうしてお姉さんの事で原八木先生が出てくるの?」
慌てたように標は身を乗り出した。
「そんなの、本人から聞けよ」
掟が振り向くと、タイミング良く病室の扉が開かれ、原八木が姿を現した。




