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「つまりね、あの狼は狼じゃなかったのよ」



 学生寮の角部屋の一室。消灯時間も過ぎた暗い部屋の中、ぼんやりと光を発する鏡と向き合いリコリスはそう言った。


「あれのどこが狼じゃねえんだよ。どこをどう見たって狼だっただろ。サイズはともかく」

 その謎かけのような台詞に応えたのはクラウドだった。

「うん。狼は狼なんだけどね。狼じゃないのよ」

「だから、ちゃんと説明しろよ!」

 そのクラウドの叫びに呼応するように、鏡から声が響いた。

『------------!』

 リコリスはその2人の声に軽く耳を塞ぎながら言った。

「ああもう。2人とも短気は損気よ~」

「もったいぶるなっつてんだろ!」

「もっと静かにしてよ、ミューが起きちゃう」

 クラウドはやけに人間臭い仕草で両翼をくちばしを覆ってぴたりと動きを止めた。鏡の中の影も心持ち気配が控えめになった。


「・・・もったいぶってなんかないけどね。だから、人狼だったのよ」

「へえそうなるほど、狼だけど頭に人がつくのかあ~へ~・・・って、は!?」

「だから静かに、ってば。・・・人狼ワーウルフの人だったのよ。ホントに信じられないよね。『盟約』破りをこんな王様のお膝元でやるなんて、バレたらどうなるかわかってるのかな」

「んなっ・・・」

『------------!』

 クラウドと鏡の影は驚愕に言葉を詰まらせた。


「いやまあ、予想してなかったわけではないんだけど、ほんっと呆れるよねえ」

『--------------』

「うん。だからそっちも気を付けてみて、スゥ。馬鹿のとばっちり食うなんてごめんだもんね」

『--------------』

「おいおいおい。そんな冷静なんだよ!」

「だってどうしようもないもの。下手に慌てて首突っ込む方が危ないでしょ?さっきは首を突っ込むなって言ってたくせに」

 バタバタ翼を動かしながら慌てて言うクラウドに対してリコリスはあくまでものんびりと言葉を返す。


「う・・・」

「ま、でも、今日も楽しかったね。・・・騒動の後にラグン先生に心配されたのは大変だったけど」


 リコリスは今までの雰囲気を振り払うようにそう言うと、スゥと呼ばれた影は呆れたような気配を垂れ流してきた。ちなみに、ラグン氏はお前には危機回避能力がないのか飼育区域で大きな物音がしたら大型のモンスターが逃げ出したとか思わないのか確かめに行こうとするなんて馬鹿かお前馬鹿だろ馬鹿なんだなと小一時間程リコリスを罵倒した。決して心配されて大変だったはっはっはという一言で済まされるのよなものではなかった、という事は先程のクラウドの証言で判明している。


『--------------』

「え?普通普通。2日に一回くらい罰掃除させられるもんでしょう」

『--------------』

「おかしいのはそっちよ。・・・ん?罰掃除する奴がどのくらいいるか?私とジャンくらいだね。で、ミューも時々手伝ってくれるの」

『--------------』

「どうしたの?眉間に皺刻んで、老けて見えるよ?」

『--------------』

「はいはい。そんなに怒らないで?」


 そうやってしばらく、ぐだぐだとした感じで話していたが、ふと、雲が切れて差し込む月光が作る影がさっきよりかなり長いことに気付いた。

「わ、もうこんなに時間が経ってる」

『--------------』

「うん。じゃあ、また。元気でね。おやすみ」

 そう言いと鏡から相手の姿が消えた。そしてリコリスが鏡を撫でると鏡の光も消えた。


 そして、彼女はうーん、と伸びをしてイスから立ち上がった。

「さーって、寝よっか」

「おう、さっさと寝ろ」

「おやすみ、クーちゃん、ルナ」


 と、言い終わると同時に明かりを落とした。ルナは眠たそうにふらふらとしっぽを揺らして応えると、それをぱったりと下ろした後、人形みたいにぴくりとも動かなくなった。クラウドも止まり木の上で首をすくめて眼を閉じた。それを見て微笑みながら、リコリスもベットに入ってシーツを被る。


「おー。今日も良い夜ね。月が奇麗だわ」

 それきりわずかな月明かりが差し込むだけの部屋の中で動くものはなくなり、静かな寝息だけが響いた。







 彼女の平凡な一日の終わりを見ていたのは月だけだった。



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