表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

1-3


 リコリスは、ジャンと別れた後走って到着した食堂で日替わりランチセットを5人前あっという間に平らげて、その後さらにデザートを10人前を平らげて、さらに食堂のおばちゃんにサービスしてもらったりんごを授業の直前まで幸せそうにかじっていた。


「ほほろと、ふぁん。ふーひははっら?」

「口にもの入れながら喋るなよ・・・。お前、ほんとに女か?」

「んっくん。それは女性差別だよ。モテなくなるよ?」

「うっせえ!・・・ちなみにさっきの質問だが、見かけてねえぜ」


 ジャンは行儀悪く口に林檎を頬張ったままのリコリスの質問の意味を正確にくみ取りながら掛け合いをしていたところで丁度始業チャイムが鳴り、歴史学の教師が入って来た。

「おおー今日も時間ピッタリに来たね~。うん。すごい」

「お前にはできない繊細な芸当だな」

 歴史学の教師は歴史一筋50年のベテランで、頑固ジジイと名高い厳しい人物だった。この教師の授業で私語したり、軽はずみなことをするような生徒は『基本的に』いなかった。


 そして、日直の号令がかかり授業が始まった。

「まず、今日の授業に入る前に前回のまとめを・・・」

 と、教師が言い始めたところで、廊下から慌ただしい派手な音を立てながら駆けてくる足音に続きを遮られた。


 教師はまたか、という台詞を眉間の皺で代弁させながら厳しい叱責の声を上げた。年季の入った、厳つい顔つきと相まって、普段ただ喋っているだけでも怒っているように聞こえる威圧感のある声だった。

「遅いぞ!ミュー・ミルディ!」

「す、すいません!変更を知らなかったので!」

 名を呼ばれた派手な足音の主は恐縮して頭を下げながら遅刻の理由をたどたどしく言った。


「変更は伝えさせたはずだ!」

「ちょ、ちょうど入れ違いになったみたいで・・・」

「言い訳はいい!さっさと席に着け!」

「は、はい!・・・きゃっ」

 そして、少女は盛大にずっこけた。それはもう見事に頭から。教師のの手前、おおっぴらに笑う生徒はいないがくすくすという忍び笑いと教室に響いた。

「嫌よね、これだから『ケダモノ』は」

 そして、小声だがそんな声が少女の、猫のような耳にまでよく通った。


「ミュー、教科書は無事?」

 そして、リコリスはのんびりと待ち人に声を掛けた。

「う、うん。自分のだからちょっとくらい折れても大丈夫だけど・・・ほら!全然折れて無いよ!」

「うんうん。入学時に比べたら大分受け身が上手くなったよね~。えらい」

「えっと・・・。えへへ」

「ばかっ!何のんきに笑ってんだよ!さっさと席に付け!」

 のほほんと談笑していた2人にジャンが適切な警告を送るがそれは遅かった。


「いつまで床に座っているつもりだ!そこで私の授業を受けるつもりか!」

 さらに怒気を増した教師の叱責が飛んだ。

「す、すみません!」

「失礼しました」

 ミューは恐縮しながら、リコリスはマイペースに返事をした。


「で、どうしたの?ジャンが行ったはずだけど」

「え、えっと・・・。向こうに早めに行って待ってたんだけど、ちょっと席はずしてる間にジャン君が来たみたいで・・・」

「そこ!私語は慎め!」

「はい」

「す、すみません」

 リコリスと、リコリスが懲りずに話しかけてした質問に律儀に答えたミューに再び雷が落ちたが、リコリスの方は聞いているのかいないのか、堪えた風には全く見えなかった。教室にも、ああまたこいつかこりねえな、という雰囲気が濃厚に漂いだした。


「あー。では、今日の授業に入る前に前回のまとめを・・・」


 毎度変わらないリコリスの飄々とした様子に、今日もどっと疲れを感じながら、歴史を語って50年の老教師はやっと本日の授業を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ