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今回もグロ描写有り。
辺りにごろごろと肉塊が転がっている中、リコリスは返り血ひとつ浴びずに立っていた。人を3人も切ったはずの『剣』も、そのあまりの速さによって、血でその輝きが曇る事は無かった。
その剣はリコリスの左肘のあたりからから手の先に向かって籠手のように腕に沿って生えていた。円月刀のように美しい曲線を描き、最上級の紅玉でさえ霞んで見える深紅の輝きを放っている。誰しも思わず手を伸ばすが、その圧倒的な存在感が触れることを許さない。
「相変わらず、良い腕だ。…だけどな、やり方が派手なんだよ!どうすんだよコレ!」
この状況の何かについて、もしくは全てか、溜息を吐きクラウドは叫ぶ。
「ここで人死になんて、ありふれたものでしょ」
「わかってんだろ。いちいち言わすな!頭までこんなにも奇麗に真っ二つになった死体なんて、戦場でもお目にかかれねえよ。気持ちは分かるが自重しろ。お前の『実家』の連中にここに居る事がばれたら、呑気に学生なんてやってらんねえぞ」
「クラウドこそ、いちいち言わせないでよ。…分からないように、焼いてくれるでしょ?」
悪戯を仕掛けた幼子のように、リコリスは笑った。
「…その、俺が燃やさないといけないようなモノを出すなっつてんだよ」
全くこいつは人の話を聞きやがらねえな、とかぶちぶち言いながら、クラウドはそのもこもこした首から青いチョークのようなものを取り出した。
「おい、リコリス。コレ、一か所に集めろ。ルナは人が来ないかどうか見張っててくれ」
そして、フクロウにしてはあまりにも器用な手つきならぬ足つきで地面に幾何学模様を描き出す。ところどころに単語も含まれている。それは本当にフクロウが描いたのか、実際に作業を見ていても白昼夢でも見ているのではないかと思うほど整っている。最終的に、肉塊を中心に血痕が飛び散っている範囲まで広がる円を基調とした陣が完成した。
「2人とも、一応下がってろ」
正確には一人と一匹ではあるが。
魔術とは、世界を切り取り、魔力に支配下においた世界を己の思い通りにする技術。
『応えよ』
そう言い置いて、クラウドは陣の外縁を左足で踏み、魔法言語で術を起動させる。世界の一部を切り取り、流れを操る。力を把握し、己の支配下に。望みを実行する。今この時、この瞬間、この空間は、術者の、術者のクラウドの望み通りに。世界を飲み込み、陣に吐き出し、望みの物を手に入れる。
『我は乞う。世界に遍くたゆたう力よ。集え。我に力を。剛き者の蒼炎をここに。抜け殻よ塵に還れ…燃えよ!』
その声に呼応し、魔法陣は蒼く輝き、蒼く燃え上がる!
そして、ひときわ強く発光し、一瞬の後に、ふっ、っと消えた。そして、その場に今まであった肉塊、血痕でさえも跡型もなく消えていた。先程までの惨状を証すのは僅かに匂う血臭だけだが、それもすぐに風に攫われてすぐに消えるだろう。
クラウドは、一仕事終わったと一度バサリと翼を畳み直し後ろを振り返る。
「人に面倒事押し付けといてニヤニヤしてんじゃねえよ」
「えー?そんな事言っても。だって私、クラウドの蒼炎が好きなんだもの」
にこにこと、機嫌良く笑う『手ぶら』の少女はどこからどうみてもただの、なんの害もない学生だ。
「さて。帰りますか」
「で、どうすんだこの子供は」
一人二匹の足元には麻袋に気絶して詰められた子供が転がっている。