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2-6

戦闘シーンの残酷描写有り。苦手な方はご注意を。


 結論から言うと、リコリスを切り裂こうと振りかざされた短刀は、獲物を捉えることなかった。何故なら、



 短刀を持った男の腕が、半ばから無くなったからだ。



 腕を失くした男は数秒の間、事態を理解できず呆けていたが、現実の痛みが襲ってくると、絶叫した。

「ぎゃああああ!!!!う、腕が!お、おれの腕えええ!!!!」

 男の野太い耳障りな悲鳴が辺りに響いた。


「こ、…て、てめえ!」

 ぼとぼと、と相方の、半分の長さになった男の腕から、まるで冗談のように緋色が零れていた。その光景を引き起こしたのが、目の前の小娘である事をようやく認識した男は絞り出すように、それだけ口にした。そして、怪我をしていない男の片方が子供の入った麻袋から手を離し、仲間の仇を取ろうと腰に下げていた剣に手をかける。


「何をそんなに怒っているんですか?ここのルールに従うと、言ったじゃないですか。だから、」

 しかし、リコリスはそんな男達の驚愕などどこ吹く風で、表面上はあくまで飄々とした態度を崩さない。そして。


「ルールに従って、私もお前達を叩き潰しますから」

 そう言って、ふわりと笑い、男達の視界から消える。


「?どこに・・・」

 リコリスに切りかかったその男のその疑問が最後の思考になった。ただ、異様な熱と冷気を同時に感じ、事切れた。体が縦に半分割れた状態で。


 

 さっきまでリコリスと向かい合っていて、それを見ていた男は、リコリスが姿勢を低くして仲間の死角に回って、下から切り上げた結果がそれだと言う事は、分かった。だが、なぜそんな結果が出たのかは理解できなかった。


「なんだよ、何なんだよお前!?」

 最後に残された男は、引き攣った声でそう言った。人を一人真っ二つにするなんていう芸当は、誰にでも出来ることではない。突くだけなら、娘の力でもなんとかなるだろう。しかし、真っ二つにするには、必ず骨を断つ必要がある。骨を断つには、並はずれた膂力と頑丈な刃物必要だ。力が足りなければ、切る途中で骨か筋肉で剣は止まり、強度の弱い剣は刃こぼれし、下手をすれば折れる。なのに、こんなどこにでもいるような娘が、ついさっきまで、剣なんて持っていなかった娘がどうしてこんな死体を作れた?



 もの言わぬ肉塊になり果てたかつての仲間の向こう側に居たのは、血のように紅い髪を靡かせて、左腕から『剣』を生やした獣だった。



「ひっ!お、おま、お前まさか・・・『秘色の民』か!?」

「へえ…。珍しいですね、その話、知ってるなんて。でも、」

 一瞬だけ、リコリスは年相応の笑顔を浮かべたが、それはすぐに冷たいものに変わる。そして、無意識に後ずさりしている男の方へゆっくりと歩いていく。

 男の後ろには大通りに続く道が、逃げ道がある。複雑に入り組んだスラムの路地は男の庭だ。こんな小娘なんてすぐに撒けるはずなのに、理性は逃げろと訴えているいるのに、男の足は動かない。本能が、目の前の獣から目を離せば殺られると感じているからかも知れなかった。そして、もう、この獣からは逃げられないと悟っていたかもしれなかった。


「喧嘩を売る『相手』はよく選ばないと。まあ、もうそんな忠告しても遅いんですけど」



 そう言って、獣は男にその『剣』を容赦なく振り下ろし、路地裏に転がる肉塊の数を、またひとつ増やした。


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