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2-5

超久しぶりの更新…。あと2話ストックありますが、その後はまたいつになるかわかりません;

 追手の足音は大分遠くなったが、様々な方向からかすかに響いている。ぐずぐずとその場にとどまっていれば、地の利は向こうにある。いつか囲まれるだろう。

「で、どうすんだ!リコリス!この状況!」

「ホントにどうしようか?」

「何でもかんでも、首を突っ込むなっていつも言ってんだろ!」


「じゃあ、クラウドはほっといたの?」

「うっ!」

 クラウドはリコリスの保護者である。少なくとも本人は(鳥だけど)そう思っている。リコリスもその事自体に文句は無いし、忠告にちゃんと耳を傾けるが、自分がやると決めた事に対する制止には一切聞く耳を持たない。

 クラウドはリコリスを面倒事に巻き込ませたくない一心で止めるが、クラウド自身も相当お人好しな性格なのだ。リコリスは自分よりもクラウドの方がよほどお人好しだと思っている。何故なら、好き好んで自分のようなモノの保護者なんてやっているからだ。


「きゃあ!」


 そんな事をつらつらと考えていたリコリスの耳に小さな子供の声が届いた。その声は、先ほどの子供の一人で、リコリスはその声が聞こえた方へ方向転換して走って行く。

「っておい!だから・・・!人の話を聞けええ!!!」


 リコリスはその声をしっかり聞いていたが、やっぱり無視する。何故なら、一度助けると決めたのだから。




「にいたちを返せ!!このくそやろう!!返せよ!!返せ!!」


 そこには、捕まって吊るし上げられている子供がいた。


 3人の男がその子供の周りに居た。どれもさっきの通りに居た男たちの中でみた顔だった。一人が子供を捕まえ、他の2人が必死に抵抗しているその子を麻袋に詰めようと加勢していた。


 その子は血の吐くような声で、必死に叫んでいた。まるで叫ぶのを止めたら死んでしまうというように。けれど、男たちはそれを全く意に介していなかった。ただうるさそうに、その子を黙らせようと機械的に行動していた。日常的な作業なのだろう、とても手慣れた手つきだった。


「しってるんだ。オレはおまえらがドミをうったって!!きぞくに。おまえらがドミをころしたって!!!これいじょうなかま、つれていかせるもんか!!!」

 それでも、その子は血走った目を獣のようにぎらつかせながら抵抗を止めない。けれど、そんな抵抗にも煩わしいと思うだけで、男達はそれを歯牙にもかけていなかった。空回りするその様は、まるで道化のような滑稽さだ。



「何をしてるの」

 そこに、リコリスは踏み込んだ。それほど大きい訳ではないのに、芯の通った声が、不思議と路地に浸み渡る。


 びくりと、男たちは勢いよく振り返る。

「何だお前?」

「ガキ?」

 男たちにしてみれば、こんなところにリコリスのような明らかに育ちのよさそうな少女が居るのは疑問だろう。一瞬、弁明のしようもない人攫い真っ最中の場面を見られて焦ったが、相手が小娘一人であると気付き、態度が大きくなる。ひ弱そうな子供が、とても高く売れそうな娘が自分たちの懐に入って来たのだ。さらに、一人は、リコリスがさっき通りで子供たちの一人をかばっていた少女だと気付いた。

 男は世間知らずのお嬢様が正義の味方ぶってしゃしゃりでてきたのだろうと当たりをつけた。こちらが完全に優位だと確信し、上機嫌に、見下した調子でリコリスに声を掛けた。


「どうした?おじょーちゃん?こんなところに来たら一人でいたら危ないでちゅよ?。オレ達みたいな奴が居るからな」

 そう一人がリコリスに話しかけている間にも他の2人は手を休めず、子供を麻袋に詰め終えた。そして、一人がリコリスの後ろに回り込み、退路を塞ぐ。まだ、子供はばたばたと抵抗を止めないが、もう時間の問題だろう。その子はこのまま放っておけば適当に売り飛ばされ、余程良い主人に買われなければ野垂れ死ぬ。どれほどその子が必死に抵抗したとしても。そして、その事を目の前の男たちは承知しているはずだ。


「言うまでもないと思うけど、人攫いは犯罪です。その子を離して」

 リコリスのその言葉に男達は嘲笑を漏らす。


「へっ。こんな、ドブ臭いガキどもなんか生きてる価値なんてねえだろ?ただの社会のゴミだ。それをオレ達が商品にしてやって、オレ達の酒代の足しぐらいにはしてやろうってんだ。少しでも人様の役に立つんだ。こいつらは泣いて感謝するだろうぜ。なあ?」

「ああ。そうそう!そうだ。お嬢ちゃんも協力してくれよ。ちょっと売られてくれよ、なあ?」

 ぎゃはははと、路地裏に男達の下品な笑い声が響く。


「流石ですね。屑は言う事が違う」

 そこに、その場の雰囲気に全くそぐわない笑い声がくすくすと響く。

「…何だと?」

「へえ!あんな、ゴミどもに同情か?さっすが、金持ちのおじょうさまは言う事が違うねえ!」

 この状況で全く怯えずに男達に食ってかかるリコリスに男たちは苛立ちを隠さない。


「お前達のような屑に、あの子達の価値を偉そうにどうこう言う資格は無い」

「オレ達を許さないってか?憲兵にでも突き出すか?じゃあ、おれたちが送り届けてやるよ!ただし、ちょっとその奇麗な顔が、胴体と離れてるかもしれないがな!」

 その圧倒的に不利な立場であるはずの子供の高飛車な言葉にかちんときた一人が、リコリスを痛めつけようと懐から短刀を取り出して近寄る。


「必要ないわ。ここでのルールは、弱いモノには何をしても良いんですよね。私もそれに従います」

 リコリスの声が異様な冷たさを含んでいる事にも気付かずに、男は気安く話続ける。いや、気付いていたとしても結果は変わらなかっただろう。


「潔いいねえ。おじょうちゃん。じゃあ、おとなしく商品になってもらおうか。高く売れるぜ」

 リコリスを見た目だけで判断していた男は、リコリスが世間知らずの娘にしては不自然な落ち着きを持っていた事に最後まで気づかなかった。




 そして、緋色が散る。

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