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ジルは始めはおそるおそると揚げ菓子を食べていたが、途中から目を輝かせて、飢えた野良犬のようにバクバク食っていた。一方、リコリスはその横でそれなりに行儀よく食べていたが、それなのに同じ時間で何故かジルの倍以上食べていた。しかも最初に店主に頼んでいたらしく、何回もおかわりをしていた。
ひと段落したところで、ジルは改めてリコリスを問い詰めようとしたが、それは視界に入って来たもののせいで吹っ飛んだ。
「げっ!」
「どしたの?」
リコリス首を傾げると彼女の後ろから野太い声が響いた。
「よう!やーっと見つけたぞ!!」
「だめっ!」
声と同時にジルは走りだそうとした。が、それは叶わなかった。いつのまにか一行を囲んでいた男達の間をすり抜けようとしたところを、その中の一人に、もろに蹴飛ばされたからだ。
「大丈夫!?」
リコリスは慌てた声を出してジルに駆け寄った。そんな2人に男の一人が追い払う仕草をしながら言う。
「お嬢ちゃん。オレ達が用があるのはそのガキだけだ。さっさと消えろ」
ドスの効いたその声にも、リコリスは全く怯まなかった。
「それは困ります。この子は今、私の荷物持ちをしてもらってるんです。この子がいないと荷物を持って帰ることができません」
いきなり始まったこの騒動に、周りの人間は遠巻きに気の毒そうにこちらを見ているだけで、助けは期待できそうにもない状況だった。
「へえ?自分の身の安全より、荷物の方が大事なのか?」
リーダーらしき男が、世間知らずのお嬢様だと完全に馬鹿にしきった調子で、そんなリコリスを冷やかす。他の男たちもリコリス達を逃がさないように囲みながらも、ニヤニヤとげひた笑みを浮かべている。
「いいえ?命あっての物種です。もちろん、自分の命の方が大事です。でも、ここで私が荷物を諦める理由がありませんから」
「おい。お前、この状況分かってんのか?」
全く怯えていないリコリスのように痺れを切らした一人が声を荒げる。
「はい。良い大人が寄ってたかって子供をいじめています」
リコリスは大真面目に言いきった。
「・・・」
一同は物凄く反応に困った。ちなみに、クラウドは天を仰いだ。
「なあ、お嬢ちゃん。オレ達はヒガイシャだぜ?こいつはなあ、この間、オレ達から盗みを働いたんだ。その分償ってもらわなきゃなあ」
いち早く立ち直った男が、気を取り直してそう言った。
「あら?そうだったんですか?」
リコリスは間の抜けた声でそう言った。そして、心底気の毒そうに相槌を打つ。「そうですか。それは災難でしたね」
「嬢ちゃんはそいつに騙されてるんだぜ。悪い事はいわねえから、さっさとそいつを・・・」
「でも、この子はちゃんと荷物持ちをしてくれてます」
リコリスはにっこりと笑いながら男の言葉を遮った。そして、続ける。
「償いをさせたいっていうなら何故殴る必要があるんですか?手加減なしで。怪我をしたら、働けなくなります。そしたら、弁償することができません。少し考えれば分かると思うんですけど、」
「そんなことも分からないなら、もっと頭を使わなくていい仕事に転職なさった方がいいと思いますよ?」
ビッキーン、とその場の空気が凍った。ついでに、ブチッと何かが切れる音もした。
「このガキ!!下手に出てりゃいい気になりやがっ、ってえ!!」
そう怒鳴りながら切れた男がリコリスに手をかけようとしたが、そのどちらも謎の飛来物によって中断された。リコリスが振り返ると、そこには、先程ジルと一緒にいた子供の一人がいた。どうやら、その子が石か何かを投げたらしい。
「じるにいにてをだすな!!はげ!!」
「このばっか!!いくらあいつらがバカだからって、あの筋肉ダルマどもにまん前からケンカ売るな!」
今までそこに隠れていたらしく、別の子供が、横道の曲がり角の影から半身だけ出してそう言って、慌ててその子を乱暴に引っ張って横道に消えた。
「仲間のガキだ!何人かで追いかけて締めあげろっ、ってえ!」
「はっ!ばーかばーか!当たってやんの!」
「的がでかいと当てやすいな!中身がからっぽで無駄にでかくて助かる!」
きゃははは、通りの反対側からも、どこからか現れて来た子供達が男たちに石をぶつける。
「ゴキブリみたいに増えやがって!!お前ら、全員ぶっ殺せ!!」
「みんな、逃げろ!!」
男達の頭と、いつの間にか立ちあがっていたジルが同時にそう叫び。
そして、実に殺伐とした鬼ごっこが始まった。