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2-1 彼女による女の子の平均的な買い物

 タッタッタッタッタッ。



「何でこうなったか分かるか?リコリス」


 リコリスの左肩に止まったクラウドは何かを押し殺したような声で尋ねた。


 タッタッタッタッ。


 それにリコリスは真剣な面持ちで数秒ほど悩んでから答えを出した。

「あれだ!皆から、たくさん買い出しを頼まれたからだね!」

「違うわ!!!てめえが!!!あのガキどもにかまうからだろうが!!!」

「そんなことないよ。先に向こうからかまって来たんだし」

「一番の問題はその後の対応だ!!!」

「うふふふふっ」

「テメエ、いつも笑えば済むと思ってんじゃねえぞ!!!」


 一人と一匹、というか肩にクラウドを乗せながらリコリスは割と馬も真っ青な全力疾走で、路地裏を駆けていた。あのクソガキ共どこに行きやがった!こっちには居ねえ!あっちを探せ!見つけたらぶっ殺してやる!等々のBGM付きで。


「まあまあ。・・・でも、どうしようかなあ」

 彼女は、くいっ、と首を傾げながら呟いた。




--------------------------



 屈強な騎士団を抱え、交易も盛んである大国、ラスティール王国の王都は活気に溢れている。その街の市ともなれば。


「らっしゃいませ!そこの奥さん!うちのリンゴはどうだい?今朝仕入れたばかり!新鮮だよー!」

「そこの若いの、セレス産の装飾品はどうだい?いまならお安くしとくよ!気になる娘への贈り物にピッタリだよ」

「おい、店主もっとまけてくれよ」


 出店が所狭しと立ち並び、売り子たちの客引きの為に張り上げられた声が響き渡る通りを、彼女は豊かな栗毛をざっくりとまとめた三つ編みを、軽快に揺らしながら歩いていた。


「さすがは、王の御膝元の街。市場はにぎやかだね~、クーちゃん。ルナ」


 周りの活気に感化され、髪と揃いの色の瞳を、丸い大きめの眼鏡の奥で輝かせ、リコリスは小さなお供達に話しかけた。

「バレッタの港には負けるがな。あそこの連中は毎日毎日何が楽しくてあんなにさわげるのか謎だ」

「そうだねえ。あそこの活気はまたレベルが違うよね~。でも、『屋敷』に比べたらどこでも賑やかだよ」

「別に、田舎に行けば、静かなところなんていくらでもあるさ」

 『屋敷』という単語に、クーちゃんことクラウドは顔をしかめた。が、フクロウなので見た目は変わらない。リコリスとルナには気配で分かったが。しかし、彼(仮)はすぐに気を取り直して、少し軌道をずらして会話を続ける。 


「ま、この騒がしさの数少ない利点は、人目を気にせず安心して喋れることだな」

 この人ごみの中なら、誰が何と話していても気づく人間はいない。気付いたとしても気のせいで済ませられる。

「そだね。寮はミューと相部屋だし、結構壁も薄いし」

 魔術の技術水準が高いラスティールの王都では、言葉を解す知能の高い使い魔を連れている魔術師は少なくはないが、クラウド程、言葉を流暢に操れるものは非常に珍しく、リコリスのような落ちこぼれ、もとい、見習い以下といっていい学生が連れていることはまずありえない。よって、非常に悪目立ちする。加えて、クラウドはリコリスの使い魔というわけではなかった。

「さあ!今日はたくさん買い込むよ~!今日は月に一度の市だからね!いつもより珍しいモノ、売ってる店も出るからね!」

「妙なもん買うんじゃねえぞ」

「はいはい。あれ?今日はルナもやる気だね?」

 言葉を持たないルナは、しっぽをぶんぶん振り回して、リコリスの発言に対しての返答とした。一行は談笑しながら賑やかな通りに繰り出して行った。



-----------------------------


 

「さてさて、あとは、ジャンに頼まれてたお菓子・・・」

「あいつ、人をパシってまで菓子食うような甘党だったか?」

「なんか誰かに頼まれてたみたいだったけど」

 そんな会話を交わしながら、一行は雑踏の中を縫うように歩いていた。


「あ、この通りを右右」

「おい・・・。これ以上荷物増やすのはやめとけ」

「え?心配してくれてありがと。でも大丈夫だよ。かさばってるけど、結構軽いんだよ」

 リコリスは自分より頭2つ分は高い、嵩張った荷物を両手いっぱいに抱えながら応える。

「心配してるのはお前の腕力じゃなくて、お前にトロル並の馬鹿力女って二つ名がつくことだけどな・・・。普通の女の子って生き物は、そんなに荷物が持てるようにできてないんだ。そこらへんで力いっぱい規格外アピールするのはやめとけ」

 クラウドはリコリスの右手にぶら下がっている陶器の茶器がワンセット入った袋を見つめながら、重ねて言った。

 

「大丈夫大丈夫。あとこれだけだから」

「だーかーらー!」

 クラウドは、いつもの笑顔で自分の忠告を聞き流す気まんまんなリコリスに声を荒げるが、効果は全く無い。

「ここら辺のはずだけど・・・」

「おい!無視すんな!」

「わっ!」

 声とともにリコリスは一瞬立ち止まった。

「なんだよ!」

「いや、誰かとぶつかって・・・」

 リコリスが荷物を精一杯ずらして前方をみると、子供が走って路地を曲がっていくのが見えた。それを見て、彼女は脇に寄ってよっこらしょと道端で荷物を下ろした。

「どうした?」

「ん~」

 クラウドの声に生返事をしながら、リコリスは服のほこりを払う様な仕草をした。そして、一通り払い終わるとあ、やっぱり。と呟いた。


「だから何が?」

 そして、彼女はいつものように呟いた。



「財布をスられちゃったみたい」



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