落とし物係の鈴原さんは、きっと夏をなくした
最新エピソード掲載日:2026/08/25
県立陽南高校には、窓際にひとつだけ古い木箱がある。三年間使われて色褪せたその箱の番人——「落とし物係」を押し付けられたのが、二年三組の鈴原凪(すずはら なぎ)、十六歳。
彼女にはひとつだけ、誰にも言えない性質があった。忘れ物に触れると、その持ち主が「そのものと過ごした音」が頭の中に流れてくるのだ。ボロボロの筆箱からは夜な夜な書かれた走り書きの音。片方だけの手袋からは、雪の朝に誰かを待つ足音。彼女は落とし物を「返す」のではなく、持ち主の忘れたがっている記憶ごと「届けて」いた。
そんなある日、箱の底から見つかったのは、彼女自身のものであるはずのない、彼女自身の匂いのする音楽プレイヤーだった。イヤホンに残っていたのは、波の音と、見知らぬ少年の笑い声と——「凪、また来年の夏に」と告げる、自分の声。
覚えのない夏。失くしたはずの季節。落とし物係の少女は、自分の「落とし物」を拾いに行くことになる。
彼女にはひとつだけ、誰にも言えない性質があった。忘れ物に触れると、その持ち主が「そのものと過ごした音」が頭の中に流れてくるのだ。ボロボロの筆箱からは夜な夜な書かれた走り書きの音。片方だけの手袋からは、雪の朝に誰かを待つ足音。彼女は落とし物を「返す」のではなく、持ち主の忘れたがっている記憶ごと「届けて」いた。
そんなある日、箱の底から見つかったのは、彼女自身のものであるはずのない、彼女自身の匂いのする音楽プレイヤーだった。イヤホンに残っていたのは、波の音と、見知らぬ少年の笑い声と——「凪、また来年の夏に」と告げる、自分の声。
覚えのない夏。失くしたはずの季節。落とし物係の少女は、自分の「落とし物」を拾いに行くことになる。
第1話「消しゴムは知っている」
2026/08/25 09:48