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第4話 おじさん、再び戦場へ

三日目の昼。

食堂で硬いパンを噛みしめていると、扉が乱暴に開き、兵士が転がり込むように叫んだ。


「帝国軍が攻めてきたぞ! 西門だ!」


その声が響いた瞬間、ラースの心臓が跳ね上がった。


――来た。

――また、この日が来た。


パンを落とす音、椅子が倒れる音、誰かの短い悲鳴。前回と同じ光景。

だが、ラースの胸に走ったのは“恐怖”だけではない。


――今度は、前より戦える。


槍を握る手は震えていたが、その震えは前回より小さい。

重さも、前より軽く感じる。


「ラース、行くぞ!」


グスマンが背中を叩く。その手の温かさが、胸に刺さる。


――絶対に死なせない。


ラースは深く息を吸い、西門へ駆け出した。


城壁の階段を駆け上がると、視界の先に“砂埃の壁”が広がっていた。

地平線の向こうから、黒い影がうねりながら迫ってくる。

馬の蹄が地面を叩く音が、地鳴りのように響く。


ドドドドドドド……!


胸の奥まで震える低音。前周回と同じ音。

だが、ラースは前より冷静だった。


「帝国軍だ!」


誰かが叫ぶ。ラースの喉が乾く。

だが、手は震えながらも弓をつがえていた。

砂埃の向こうから、金属の光がちらつく。

槍、盾、鎧。そして黒い旗。


――あの時と同じだ。


だが、今回は違う。


「弓隊準備!」


号令が飛ぶ。ラースは深呼吸し、弓を引いた。

手汗で滑りそうになる。

だが、前回の投石と違って狙いが安定している。

隣を見ると、グスマンがニヤッと笑った。


「ビビってるか?」

「……当たり前だろ……」


声は震えていたが、弓を引く腕は震えていなかった。



帝国軍が弓を構えた。


「伏せろ!」


ヒュンッ! ヒュンッ! ヒュンッ!

矢が空を裂き、城壁の縁に突き刺さる。

石が砕け、破片が頬をかすめた。


「うわっ……!」


思わずしゃがみ込む。

だが、前回のようにパニックにはならない。


「ラース、顔上げろ! まだ死んでねぇ!」


グスマンの声が、前回よりずっと近く、頼もしく聞こえた。


「弓隊撃て!」


号令と同時に立ち上がり、矢を放つ。

そしてしゃがんで次の矢をつがえる。

矢を放つ。しゃがむ。つがえる。放つ。

その繰り返し。

汗が目に入り、視界がにじむ。

だが、ラースの手は止まらない。


――前より、戦えている。




そのとき――

ゴォォォォッ!

空気が焼けるような音がした。視界の端に、赤い光が走る。


「ファイヤーボールだ! 伏せろ!」


火の玉が城壁の上をかすめ、熱風が顔を焼いた。


「っ……熱っ!」


髪が焦げる匂い。前周回と同じ恐怖。

だが、ラースはすぐに生活魔法を使った。


「……水!」


手のひらに小さな水が生まれ、頭にかけると、焦げた髪が冷えた。


「そこまで魔法使えるようになったのかよ!?」

「……ちょっとだけな!」


グスマンが驚きながら笑う。

その笑顔が、ラースの胸を強く支えた。



帝国軍は止まらない。砂埃を巻き上げ、城壁へ迫る。

矢が飛び、火球が飛び、兵士たちの叫びが響く。

ラースは必死に矢を放ち続けた。

指は擦り切れ、腕は痺れ、息は荒く、胸が痛い。


「ぜぇ……ぜぇ……」


だが、倒れない。前回は倒れた場所でも、今回は踏ん張れた。


夕暮れが近づく頃、帝国軍はようやく後退を始めた。


「退いたぞー!」


誰かが叫び、城壁の上に安堵の声が広がる。

ラースはその場にへたり込み、矢筒を落とした。


「ラース、生きてたか!」


グスマンが笑いながら肩を叩く。

その手の重さが、前回よりずっと温かく感じた。


「……なんとか……」


声がかすれていた。


――前より戦えた。


だが、ラースは知っている。

本当の地獄は、明日だ。

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