第5話 死体の発見――逃走開始
夜が明けきらない薄暗い空の下、宿の扉が乱暴に叩かれた。
「ラース! お嬢!!」
ガルドの声だった。
ただならぬ気配に、ラースは即座に扉を開けた。
そこには――血の気が引いた顔で立つガルドがいた。
「……逃げるぞ。今すぐだ」
シャーリーが息を呑む。
「ガルドさん……何が……?」
ガルドは震える声で言った。
「教皇の服……
あの特徴的な刺繍の法衣を着た“顔のない死体”があった。
間違いねぇ……本物の教皇は殺されてる」
シャーリーの膝がわずかに震えた。
「……そんな……」
ラースは拳を握りしめた。
(やはり……成り代わられた)
ガルドは続けた。
「レオンたちに知らせる余裕はねぇ。
仮面の連中が動き出してる。ここにいたら全員殺されるぞ!」
ラースは即座に判断した。
「……行くぞ、シャーリー!」
シャーリーは頷き、3人は荷物もそこそこに馬へ飛び乗った。
朝靄の中、3頭の馬が皇国側の砦を駆け抜ける。
兵士たちが声を上げるが、ガルドが怒鳴った。
「緊急任務だ! 道を開けろ!!」
その迫力に押され、兵士たちは道を開けた。
砦を抜けた瞬間、ラースは背後に“嫌な気配”を感じた。
(……追ってきている)
仮面の者たちの気配は、人間のそれとは違う。
冷たく、濁り、底が見えない。
シャーリーも震える声で言った。
「ラースさん……来ます……!」
「分かってる。走れ!」
3頭の馬は国境へ向かって疾走した。
国境の丘を越えた瞬間、ラースは息を呑んだ。
黒いローブの集団が、道を塞ぐように立っていた。
(……待ち伏せか!)
仮面の者たちが一斉にこちらを向く。
その無機質な仮面の奥から、冷たい殺意が溢れ出していた。
「ラースさん……!」
「下がってろ!」
ラースは馬上で弓を構え、矢を連射した。
矢は正確に仮面の者たちの頭部へ突き刺さる。
だが、倒れたのは数人だけ。
(……やはり、数が多い)
ガルドが剣を抜き、叫んだ。
「ラース! お嬢を頼む!!ここは俺が食い止める!!」
「ガルド!? 無茶だ!」
「いいから行けぇぇぇ!!」
ガルドは馬を降り、仮面の者たちへ突っ込んだ。
その背中は、迷いも恐れもなかった。
(……ガルド……!)
ラースは歯を食いしばり、シャーリーの馬を引いて走らせた。
シャーリーは涙をこぼしながら叫んだ。
「ガルドさん!!」
だが、振り返ることは許されなかった。
王国側の砦が見えた時、
シャーリーは限界のように馬から降り、その場に膝をついた。
ラースは砦の門を見つめ続けた。
(……来い、ガルド。お前なら……きっと……)
だが――どれだけ待っても、ガルドの姿は現れなかった。
シャーリーは震える声で呟いた。
「……また……守れなかったんですね……」
ラースは拳を握りしめ、唇を噛んだ。
(……仇は必ず取る。この未来は、絶対に変える)
国境の風が、静かに吹き抜けていった。




