第2話 兵士再スタート。おじさん、再び訓練場へ
兵士募集所の前に立った瞬間、ラースの胸に、前周回の“嫌な記憶”が蘇った。
――ここから始まったんだ。
――投石と槍衾の地獄。
――そして、死。
だが、今のラースには選択肢がない。
金も、家も、仕事も、頼れる人もいない。
そして何より――
未来を知っているのは自分だけだ。
「……やるしかないか」
深く息を吸い、扉を押し開けた。
兵士募集所の中は閑散としていた。
戦争が近いとはいえ、王都はまだ平和で、兵士になりたがる者は少ない。
「いい歳しているが……。まぁ、戦えるなら構わん」
受付の男はラースの顔をじろりと見て、ため息をつきながら書類に名前を書き込んだ。
「今日から訓練だ。覚悟しとけよ」
「……はい」
覚悟なら、前回で嫌というほどできている。
訓練場に足を踏み入れた瞬間、ラースの胸がぎゅっと締め付けられた。
土の匂い。汗の匂い。槍の金属音。兵士たちの怒号。
――全部、知っている。
前回、ここで倒れ、ここで吐き、ここで泣き、ここでグスマンと笑った。
「……戻ってきたんだな……」
誰にも聞こえないほどの小さな声が漏れた。
「まずはランニングだ! 走れ!」
号令が飛ぶ。ラースは列の最後尾に並び、走り出した。
土を蹴る音が耳に響く。肺が熱くなる。足が重い。
だが――
「……前より……走れる……?」
前回では、開始五分で膝が笑い、最後は倒れ込んだ。
だが今は、息は切れるものの、足はまだ動く。視界も揺れない。
「はぁ……はぁ……っ……」
苦しい。だが、倒れない。
そのとき――
バンッ!
背中を叩かれた。
「ははは、おっさん、今日からだって聞いたけど意外と体力あるじゃねぇか!」
その声を聞いた瞬間、ラースの胸が締め付けられた。
――グスマン。
前回、背中に矢を受け、帝国兵に首を刎ねられた男。
「グ……グスマン……」
思わず涙が滲む。だが、グスマンは首をかしげた。
「ん? 俺のこと知ってるのか?」
「あ、いや……誰かがそう呼んでたから……」
慌てて誤魔化す。危ない。
未来を知っていることは絶対に言えない。
「ははっ、そうか! まぁいいや。今日からよろしくな! グスマンだ!」
大きな手が差し出される。ラースはその手を握った。
温かい。力強い。前回と同じだ。
「ラースだ。歳で素人だけど……頑張るから、よろしく」
「おう! 任せとけ!」
その笑顔が、胸に刺さる。
――絶対に、今度は死なせない。
槍の訓練が始まった。ラースはグスマンと組むことになった。
「じゃあ俺が牽制するから、おっさんは突け!」
「わ、わかった!」
グスマンが槍を振りかざし、ラースはその隙に槍を突き出す。
前回の3日間の経験が、身体のどこかに残っているのか、動きが自然に出る。
「おっ、やるじゃねぇか!」
「ま、まぁ……なんとか……」
汗が滴り落ちる。腕は震える。だが、前よりずっと動ける。
――俺は、前より強くなっている。
その実感が、胸に灯をともした。
訓練が終わる頃には、ラースは汗まみれで、息も絶え絶えだった。
だが、倒れなかった。
「おっさん、今日はよく頑張ったな!」
グスマンが笑いながら肩を叩く。
「……ありがとう……」
ラースはその笑顔を見つめた。
前回は、この笑顔が戦場で消えた。
――今度は守る。
――絶対に。
ラースは静かに拳を握った。
ここから、二度目の兵士生活が本格的に始まる。




